日々記 観劇別館

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『レベッカ』大千穐楽感想(2019.2.5 13:00開演)

キャスト:
「わたし」=大塚千弘 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=涼風真世 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

レベッカ』大千穐楽@シアタークリエの感想です。

カーテンコールレポートはこちらをどうぞ。
『レベッカ』大千穐楽レポート(カーテンコールのみ)(2019.2.5 13:00開演)

今回の座席は上手ブロック通路寄りでした。

祐一郎さんはお声の調子も良く、大千穐楽だったこともあってか、それまでの集大成を見せるがごとく全力で、しかし決して大仰でもなく、努めてまっすぐにマキシムという気むずかしくて癇癪持ちで脆い心を持つ人物に向き合っていたように見えました。

あれ? と思ったのは2幕終盤。レベッカの真実が明らかになりロンドンからコーンウォールの最寄り駅に降り立った妻を視認し瞳を輝かせたマキシムとIchが歌う「夜を越えて」。マキシムの歌声が終始感極まって泣いていたように聞こえました。あまり頻繁に想定外の感情をお芝居に乗せる方ではないので、こういうことはそうたくさんあるわけではありませんが、その後衝撃的な出来事が待ち受けていることを知らぬが仏とは言え、レベッカの呪いからの解放と、妻との揺るぎない絆を手に入れたというマキシムの感慨が、演じる方の心を突き動かしたのでしょうか?

そんな貴重な瞬間を目の当たりにしてしまった結果、普段あまりこう言う言葉は使わないようにしてきたのですが、やはりこの方は唯一無二なんだなあ、とすっかり心を鷲掴みにされた体たらくです。

それから千弘Ich。2週間ぶりに観て、「ああ、他の人とのデュエットできちんと歌声が聞こえてくるIchは良いなあ」と改めて思いました。

また、以前も同じようなことを書いたかも知れませんが、間合いの取り方や表情の変化など細かい芝居が上手いです! 例えば今回は、2幕でマキシムの告白場面の後、「まだ……私を……愛してくれるのか?」と語りかけられてから、「愛してるわ! 世界中の誰よりも!」と答えるまでの絶妙な間など。

あと、これは「お前はどこ見てるんだ?」と言われそうですが、2幕序盤のダンヴァースに追い詰められる場面で、床に這いつくばり後ずさりして逃げ惑いながらも、脚はむき出しになり過ぎないようしっかりガードしている所も良いなあ、と。あの場面で両脚膝下がむき出しになってしまっているIchちゃんもいて、ちょっと気になっていましたので(だからどこを見ているのかと😅)。

今回は、マキシムとIchの夫妻が、2幕でファヴェルが証拠を突きつける場面で見せる無言の芝居に注目して見入っていました。不安でたまらない夫が泣きそうな顔で妻の手を握りしめ、妻がしっかりと握り返したり、指摘が図星だった時には夫がひっそり腕組みをしてみたり、ファヴェルのいちいちむかつく物言いにキレそうになる夫を妻が懸命に抑えたりして(最後の最後にキレてしまいますが)、なかなか面白かったです。この辺りの2人の演技、実はファヴェルやベンに気を取られていてあまりじっくり観察したことがなかったのですが、Ich役者さんによって微妙に雰囲気が異なるらしいので、もっときちんと見比べておくべきだったと悔やんでおります。

以下、その他のキャストや場面で印象に残った箇所をいくつか記します。

涼風ダンヴァース。知寿ダニーがゴジラとすれば、涼風ダニーは何だろう? と考えていて、そうだ、白蛇だ! と思い至りました。しかも舞台上にいるのは仮の姿で、本体はどこかの森の奥深くにある湖とかそういう所に棲んでいる大きな白蛇なのでは? と。彼女がキューピッド破損事件で詰問した時にマキシムが、妻はお前に逮捕監禁でもされると思ったようだ、と言っていましたが、いや、それどころじゃなくて、蛇の目でロックオンされて丸呑みされるだろ、あれ、と心の中で異論を唱えるなどしていました。

なお、現実か幻覚かは定かではありませんが、あのラストのダニーの(レベッカの?)どやー! という感じの狂気の笑い声を聴いてしまったマキシムが、約20年後に(現在のキラキラしたのっぽさんと同年代にも関わらず)魂を抜かれたような白髪のおじいさんになり果ててしまうのは仕方ないなあ、と今回改めてぞっとした次第です。

禅フランク。1幕でIchから相談を受けた後のソロで「そして何よりも、信頼できる!」と歌う時、彼もまた、レベッカの影と向き合い戦っていることが見て取れます。よほど彼女の生前、お家の隆盛と引き換えに、ドヤ顔でマキシムに後足で蹴りを入れて屈辱の淵に沈めているのが腹に据えかねていたんでしょうね。

ちなみに私は、2幕でファヴェルが「持ちつ持たれつ」(私は密かに「皮算用ソング」と呼んでいました)を歌い踊りながらばらまいた紙幣を、曲が終わるまでの間にしっかり全部拾い集めている彼が好きです。

モリクミヴァン・ホッパー。前楽の時もそうだったようですが、マキシムにキスを迫ってみるなど、最後にちょっぴり悪目立ち癖が出てしまった感じで、残念でした。ただ、モリクミさん、プレビュー初日の頃よりも、Ichにきつく当たりつつも結婚話を聞いた時はなんだかんだで心配もしてあげている感じが伝わってくるようになってきて、そこは良かったと思います。

あと、これは細かすぎるポイントかも知れませんが、マンダレイの使用人の皆様は場面転換の時に決して走りません。新しい奥様を出迎える時も、奥様の命令でレベッカの遺品を処分し模様替えする時も、ダッシュはせずにやや早足歩きで退場していきます。確かに格式の高い旧家に仕えている皆様がばたばたと走っていたら変ですよね。

使用人たちの動きで今回着目したのは、Ich付きメイドのクラリス(島田綾さん)。レベッカのナイトガウンを処分しようとしている時、目の前に立った涼風ダニーにガツーン! と足を踏み鳴らされますが、じっと耐えております。これはどなたかの感想で、ダニーの罠にはめられたとは言え可愛がってくれている奥様(メイクアップの場面の2人の表情から良い関係が築かれているらしいことが分かります)に恥をかかせてしまったので、奥様のために彼女なりに戦っているのだ、と言うのを拝読し、なるほど! と思いながら見ていました。

ところで、これも友人から言われて気づいたのですが、あのレベッカのナイトガウン、あれだけファヴェルが濃密にエロエロに戯れていて、恐らくダニーも時々頬ずりなどしていたら、既にレベッカ自身の残り香などは何処かへ飛んでいってしまって久しいのではないでしょうか? あのタイミングで処分してちょうど良かったかも、とすら思っていますが、あまりそういうことを言うとダニーに呪われそうなので止めておきます😅。

 

というわけで、私の『レベッカ』がついに終わってしまった、また逢えるかしら? と嘆いていたさなか、昨日(2月8日)に帝劇11月公演のTdVの全キャストが発表になりました。

桜井玲香さんのサラ(神田沙也加さんとWキャスト)は何となく想定の範囲内でしたが、千弘さんが、ちーちゃんが、マグダを演じるということに「おおー!」と私の中の影コーラスたちがどよめいて叫んでいます。初演と再演で「田舎で鬱屈している健康な乙女の若さへの傲慢と、悪と妖かしの世界への無邪気な憧れ」を余すことなく見せてくれた彼女が、一見すれているようで実はあの物語の中で一番の正直者とも言えるマグダをどう演じてくれるのでしょうか。

今度のTdVはわずか3週間しか公演期間がない上に、休演日と休演日との間に最大で11連続公演が入っているなど過酷なスケジュールが気がかりではありますが、伯爵様の艶やかな勇姿とともに、千弘マグダの登場も心待ちにしたいと思います。