日々記 観劇別館

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『レベッカ』感想(2008.6.7ソワレ)

「わたし」=大塚ちひろ マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=シルビア・グラブ フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=治田敦 ジュリアン大佐=阿部裕 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=伊東弘美 ヴァン・ホッパー夫人=寿ひずる

『Calli』のマチネ観劇後に日比谷に向かい、友人と軽くお茶した後、クリエで『レベッカ』を観ました。
4列目下手ブロックという前方席でしたが、いくつかの場面でキャストの見切れが出る(例:プロローグで立つフランクとファヴェルが見えない/恐喝場面で電話をかけるフランクがジュリアン大佐の陰になって見えない等)以外は結構楽しい席でした。マキシムが近いのには大概慣れてきたのでだいぶどきどきしなくなってきましたが、「わたし」が執務中のフランクを訪ねる場面で、フランクとフリスがパーティーの食材がどうのこうのと打ち合わせる台詞の生声が聞こえたりしていました。

今回、キャストのどなたもが絶好調だったように聞こえたのは、決して自分が久々に観に行った日だから、というだけではないと思います。ベアトリス姉さんは「何を悩む」の最高音をきっちり決めていたし、ヴァン・ホッパー夫人の「アメリカン・ウーマン」も安定してました。ダンヴァース夫人の声の伸び方も全く不安要素なし。
それから禅さん。フランクの演技と歌がまた変わったように思います。「誠実さと信頼」の歌い方が、前よりも「わたし」に強く言い聞かせるような感じになっていました。それから、場面は前後しますが、「わたし」が初めてマンダレイにやってくる場面で、フランクが大階段の上を見上げて、額縁を眺めてから目を剥いてダンヴァース夫人をにらんでいるのは一体何があったんでしょうね。「わたし」のコスプレ衣装の絵はレベッカの寝室に飾られていた筈だから違いますし。

マキシムは、ヴァン・ホッパー夫人に「わたし」との結婚を告げる場面の演技での間をたっぷりとるようになったと思います。ビビり方も心なしかオーバーアクションになったような。あんなに手を上げて後ずさりしてましたっけ?
場面が前後しますが、写生画を受け取った後のキスシーンは、何となく軽く唇が着いているように見えました。でも、着いていないと言われればそのようにも見える絶妙な角度と位置で、何て器用なんだと変な所に感心してみたりして。
あと、チェスの場面での「わたし」に対するペットを可愛がるような鼻にかかった甘い声と、ダンヴァース夫人に向けた厳しい声と、逆上した後の癇癪声とのギャップの大きさを改めて実感。「わたし」の振り払い方も強烈で、転ばせるんじゃないかという勢いになっていました。
告白の場面、「わたし」は最初から両眼から涙を滝のように流してだだ泣きしてました。それに釣られたのかどうかは分かりませんけれど、「凍りつく微笑み」の感情の入り方も強烈でした。
噂には聞いてましたが、ボートハウスのドアは以前は1回で閉めていたのを、今は1回叩き付けるように閉めて跳ね返って来た時に再度手で押さえて閉め直すやり方に変わっていました。歌声もよりメリハリをつけてパワフルに伸びてました、とあまり豊かな表現のできない自分が情けないです。抱擁場面では先日(5月22日)観た時と同じように、うなだれて弱々しく受け身で「わたし」に抱き締められた後、遠慮がちに両腕を腰に回していました。
全体に、マキシムの動きが柔らかくなっているように思いました。いつもの手の運動(笑)は健在だし(あれはもう、身体に染みついた癖なのでしょうね)、「神よなぜ」で手をポンと叩いたりもしているものの、足捌きは柔らかいし、また、火事の場面で歌い上げる前に手や指でカウントは取らなくなってます。
カーテンコールでは、5度目位のお出ましで、ちひろちゃんと舞台下手奥でいつものように腕を組んでお辞儀しながら「ありがとうございました!」と叫ぶ山口さんの生声を聴くことができました(^o^)。口パクだけじゃなくて、本当に口に出して言っていたんですね。ちょっと感動。

以下は付け足しのように考えたことです。
既に何度か観てますが、この日本初演レベッカ』の場合、マンダレイのすぐそこにレベッカがなお息づいていて怖い、という感覚は自分的には薄いです。むしろ、レベッカに執着し続けるダンヴァース夫人や、レベッカという名の茨の塔に閉じこめられたマキシム、それぞれの心の方に余程恐れを覚えました。それが日本の演出ゆえなのか、簡素な舞台装置ゆえなのかは良く分かりません。それでもやはり、レベッカという「影」よりは、現実に肉体を有して生きている人間の方が怖いです。