日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル 25周年コンサート in ロンドン』感想(2011.1.15)

既に発売されているコンサートのDVDを観た、ミュージカルの海外版舞台に詳しい*1友人から勧められていた、この映画館上映版。
昨年の本上映時は上映館が限られている上少々自宅から遠く、評判も分からなかったので行き損ねてしまいました。しかし、今回アンコール上映となり、しかも何とちょうど良いことに、自分の住む街から電車で15分で行ける街の映画館でも、上映されるというではありませんか。これはものぐさなことに定評のある私にも観に行けということか?という導きをもらった気持ちになり、本日観てまいりました。

友人から聞いていたのは、ジャベールが黒人で格好いい、ということと、バルジャンはクラシック系の方であまり演技はしない、でもちょっと山口さんと似ている、ということ、そしてマリウスがヘタレ系だということ。これら3点でした。
それから個人的に懸念していたのは、映画って例外を除いては休憩タイムはないんだよね?舞台だと途中でトイレに行けるけど、大丈夫かな?という点。これについては先に申しておきますと、1幕終了に当たる場面でしっかり10分休憩が入り、救われました(笑)。

以下、実際に映画を観た感想です。
1幕プロローグでバルジャンとジャベールが登場した瞬間の正直な感想は、
「バルジャンが太い!ジャベールイケメン!」
でした(即物的ですみません……)。
ジャベールは実に格好良かったです。雰囲気は、日本のキャストで言えば岡ジャベールに近いイメージ。人種的には確かにマイノリティな方ではありますが、イケメン過ぎてあまりコンプレックス的なものは感じられませんでした。ただ、歌の迫力は本当に凄くて、この人の他の出演作も見てみたいのですが、仮に、肌の色が原因でできる役が限られているとしたら残念です*2
バルジャンはビジュアル的には、山口さんと似ても似つかなかったです(笑)。でも、声質がハイトーンで綺麗で、歌声の押し出し感が強くて、更にアクションより歌声の表現で演じてる所があって、そこが友人には「山口バルジャンと似ている」と感じられたのかも?と思いました*3。目を瞑って聴けば(いくら何でもそこまで酷いビジュアルではありませんが)、バルジャンとして十分聴けます*4
懸念していたマリウスですが、思っていた程悪くはなかったです。声量がちょっと不足している?とは思いましたが。ビジュアル的には、例えばウィーン版『エリザベート』の舞台でルカスルドルフを観て格好いい、と思ってDVDを買ったら大仏くんルドルフだった、ようなそんな微妙な印象は受けました*5
あと特に気になったキャストは、アンジョルラス、コゼット、エポニーヌ、それからテナルディエ夫妻。
アンジョはビジュアルはそんなに好みではありませんでしたが、リーダーのオーラがあって良かったです。ああいう押しが強くて張りがあり、それでいて耳に心地が良い声は結構好きです。
コゼットは何故か剱持たまきちゃんの声を連想しました。涼やかなイメージに重なる所があり。見た目はたまきコゼットよりややぽっちゃり目ですが、金髪の可愛らしいコゼットでした。ただ、マリウスと通算3回ぐらいちゅっちゅしていて、日本版にはない演出なのでびっくりさせられましたが。
エポニーヌは見た目、歌声ともに、自分が抱いているエポニーヌのイメージそのもので、言うこと無し。
それからテナ夫妻ですが……マダムがデブキャラなのは、万国共通なのか、モリクミさん登場以降の伝統なのか(汗)。アンコールで登場した初演マダムは細かったので、どうも後者のような気もしています。
テナルディエの旦那も実にうさんくささ満載で楽しかったです。彼が出てくるだけで会場に笑いが起きてましたが、結構有名な方だったりするのでしょうか?

演出面では、コンサート版であるだけに、セットはありませんでした。当然砦も無し。日本でも以前コンサート形式で上演したことがあったそうですが、それは観ていないので、新鮮な感じでした。
また、何カ所か細かい場面が短縮またはカットされていました。
気づいた限りでは、まずリトルコゼットのソロが短縮されていました。馬車事故と救出の場面は、イメージ映像のみ。森の中でバルジャンがリトルコゼットと出会う場面も無し。エポニーヌが自分の境遇を嘆いた後にマリウスをコゼットの元へ案内する場面や、ガブローシュの死の場面、バルジャンが地下水路にマリウスを担いで登場する場面もカット。特に、ガブローシュは割と歌える子っぽかったので、死の場面、演らせてあげても良かったのでは?と思いました。
コンサートならではの演出で良いと思ったのは、場面が転換する時に皆さん歩いて登場・退場されるのですが、ファンティーヌの死の場面を終えて退場するファンテ役者と、登場するリトルコゼットの子役が、一瞬アイコンタクトしていたことです。直後のリトルコゼットのソロに「白いドレスの人」が出てくるので、ここで整合性がとれてる!と感動しました。
舞台の上方に掲げられた大型ビジョンの映像を活用した演出も面白かったです。2幕の地下水路の場面で、まず地上のパリの町並みが映って、そこからカメラが徐々に下がって行き、地下水路のビジュアルが映し出される映像に迫力がありました。また、先に書いた馬車事故の映像もそうですが、舞台のイメージを壊さないよう、きちんと配慮されていたと思います。

それと演出とは関係ありませんが、映画の日本語字幕。概ね東宝版の歌詞がベースにはなっていますが、所々、本来の英語歌詞の訳に合わせて置き換えられている部分が見受けられました。あの場面の歌詞、実はこういう語句も含まれていたんだ、と勉強にはなりますが(英語はヒアリングできていません)、頭の中で一緒に東宝版の歌詞で歌いながら観ようとすると、少々混乱を来すかも知れません(笑)。少なくとも自分はそうでした。

アンコールには、2010年のクイーンズ劇場キャストとバービカン劇場キャスト、それから1985年の初演キャストが登場していました。そして、それら3グループのバルジャン(多分)と、今回のコンサート版のバルジャンとの4人で「彼を帰して」を熱唱。同じバルジャンの筈なのに、4人4様の個性で、綺麗な四重奏でした。
レミゼの生みの親であるマッキントッシュさん、ブーブリルさん、そしてシェーンベルクさんからもご挨拶。確かブーブリルさんだったと思いますが、
「普通はこうした作品が記念される時は作者はもう死んでいることが多いのに、自分はこの場にいられて幸せ。50周年の時は私は90歳です」
というご発言をされていて、確かに仰せの通り、90歳なら普通に50周年行けるんじゃないかな?等と、聴きながら考えたりしていました。
その後、「ワン・デイ・モア」を4グループのキャスト全員で歌唱。合わせて、レミゼスクール版*6のキャストの若者達も客席から登場。初演キャストの皆さんが、それぞれに良い感じの年の取り方をされていて、若者達の姿と見比べながら、自分、日本の初演も観ていない癖に、
「創ったひとや最初に演じた人やがいなくなっても、受け継がれる作品の魂」
の存在を感じて、軽くじわっと来ました。

この映画、1週間しか上映期間がないのが本当に惜しいです。ついでに、観に行った映画館では、せいぜい20人程度しか客席にいませんでした。しかもそのうち3分の1は自分も含めて同じ真ん中辺りの列にずらりと並んで座っていて、ああ、皆さん同じ事前予約システムでキープしたのね、と1人で笑っておりましたが。もっと多くの人に観て欲しい、既に売られているDVDでも良いから、と思いました。

*1:と言うと本人は全力で謙遜しそうですが、私は少なくとも自分よりは何段も詳しいと思っています。

*2:補足。友人に拠れば向こうは様々な人種でキャストを組むようにという規程があるようなので、この辺は全く心配ご無用らしいです。むしろ生活環境面で役者という職業を選択する余地があるかの方が問題なのではないかと思われます。

*3:この辺りの推測は合っていたためしがないので多分本人には否定されると思いますが:-p。

*4:声は割と好きな部類に入ります。

*5:あくまで喩えです。自分はルカスルドルフを観るより前に、DVDの大仏くんルドルフを観ているので。

*6:キャストを19歳以下に制限する、そういう上演版があるそうです。