日々記 観劇別館

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『レベッカ』感想(2008.5.4)

「わたし」=大塚ちひろ マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=シルビア・グラブ フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=治田敦 ジュリアン大佐=阿部裕 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=伊東弘美 ヴァン・ホッパー夫人=寿ひずる

約3週間ぶりに『レベッカ』を観てきました。
観劇前に昼食を摂ろうとしたのですが、入ったお店で注文後20分以上頼んだメニューが出て来ず断念。更に連休直前からひどい鼻風邪を引き込み、風邪薬を飲んで体調を保たせている状態だったため、また観るのに集中できない状態になるのかと思いながら劇場に臨みました。始まってみると全くそんなことはなく、無事十二分に舞台を楽しむことができました*1

座席は4月の最初に観た時の席(3列下手)からそのまま3列ほど下がった場所でした。3列で観た時に下手のスピーカーの音ばかりが異様に大きく聞こえて、センターで歌う人の声が遠くて聞こえづらい(山口さんの声ですら!)という怪現象を体験したので、今回も同じだったらどうしよう、と心配していましたが、今回はセンターの音もきちんと聞こえてきたので安心でした。劇場そのものの構造はいじりようがないと思うので、これは音響さんの努力の賜物だろう、と頭が下がっております。

役者さん方の演技も、前回観た時より色々と変化していました。
特に治田さんのベン、吉野さんのファヴェル、そして禅さんのフランク。
ベンは、前2回観た際は「ただ純粋な愚者」というイメージでしたが、今回はそれにプラスしてベンが普通の人のように都合良く捨てることができない、様々なものに対する執着心というのが見えていたように思います。レベッカやファヴェルへの恐れ、貝殻へのこだわり、そしてド・ウィンター夫妻への思い入れも。特にド・ウィンター夫妻への思いは、最終的にレベッカ達への恐れに打ち勝つわけで、やはりこの物語のテーマは「愛」だったってことなのかな、と考えさせられたりもして。
ファヴェルは色気をより濃厚に漂わせる男になっていました。1幕のダンヴァース夫人とのデュエット場面から、既に指先まで妖しい動きをしているのはいかがなものかと(笑)。ダンスも歌も、まさに絶好調という感じで、お願いだからこの狭い舞台で怪我だけはしないでね、と願ってしまいました。
フランクは初見の時よりも、最初の登場時の「いかにもいい人」感が薄れて、感情を抑えて落ち着いた、言葉を変えればやや老け込んだという感じがしました。その分、「わたし」を励まし自らにも言い聞かせるようなソロナンバーの温かさが増しているように思えました。2幕でファヴェルが靴のまま立ち上がった後のソファを、ファヴェルが踊っている間にいかにも汚らわしそうに素早く手で払っている姿を初めとする、「鬱陶しいな、早く帰んねーかな、この野郎」な空気を漂わせた演技が、私的にツボです。

シルビアダンヴァースは、前回より少し鼻声っぽさが強くなったようにも見えましたが、レベッカの寝室の場面で、舞台下手でイった目でレベッカのことを語る姿は何度観ても怖いです。
伊東さんはやはり高音でかすれ気味になる歌があるのが気になるところ。寿さんも高音が十分かと言うと決してそうではないのですが、アップテンポで華やかさ至上のソロなので、その辺はあまり気になりませんでした。
ちひろちゃんは安定してきたけど、同時に1幕と2幕での「わたし」の変化にメリハリもついてきて良くなってきていて、ただただあと2ヶ月弱、ガンバレ、と応援したい気持ちです。

最後に、長い長い山口マキシムの話。
マキシムは、今回も1幕では「若くて爽やかで素敵だけどどこか白々しくてうさんくさい」雰囲気を漂わせていました。マキシムが「わたし」を好きになった理由は非常に良く分かるのですが、逆にこの舞台における「わたし」がマキシムを好きになった決め手は私的には良く分かっておりません。そりゃファザコン気味の純な娘さんが、あの労働環境下で見た目素敵な紳士に優しくされたら、好きになるなという方が間違いかも知れませんけれど。多分、
「私達は良く似ている。お互い孤独で両親も家族もいない」
というマキシムの台詞が決め手だったのだとは思いますが、
「ベアトリスはそりゃ嫁には出ているけど、家族じゃないんかいっ!」
と心の中で突っ込んだのは私だけではない筈です。
後、1幕のマキシムでは、「仮面舞踏会を開きたいのー」という「わたし」の言葉に表面でいい顔をしながら「わたし」に背中を向けた時にはむぅー、となってる表情がひっそりと好きです。
2幕のボートハウスでのマキシム告白場面ボートハウスから出てきた時の胸元をゆるめてボロボロになった姿はやはり色気があります。「凍りつく微笑み」で、カクカクと固い動きをしているとあちこちで指摘されていたので、そんなにひどいか?と思いながら今回観ましたが、全く気にならず。別に普通だったと思います。手の動きは普通に山口さんでしたが。
ただ、以前はほとばしる感情が歌にも動きにもややだだ洩れしていたように見えましたが、今回はだいぶコントロールされていて、観客がよりマキシムに感情移入しやすいように演じられていたように見えました。と言っても、それまで本音を見せなかったマキシムの大爆発の激しさが全く変わるわけではなく、特に挑発するレベッカの様子の回想(この部分の女声を意識した囁くような語り声がまた良いのです)から、たがの外れたマキシムが事件を起こして絶叫するまでの顛末の迫力には、呼吸が止まる位に引き込まれてしまいました。
この場面の「死んでた!」の絶叫に限らず、癇癪持ちのマキシムは時々甲高い声で妻や周囲の人間に怒鳴り散らしてますが、あの声を聴く度「なんて綺麗に通る高い声……」と聴き入ってしまう私は変なのかも知れません。ちなみに『M!』でコロレド猊下がヴォルフに
「お前ほど不愉快なしもべは見たことがない(略)アルコ伯爵、こいつを叩き出せ、蹴飛ばしてな!」
と激高する場面の声もかなり好きです。
しかしどうしてもあのボートハウスがちゃちすぎて、良く屋外イベント会場で見かけるレンタルトイレのようで、とてもレベッカが逢い引きできるような場所に見えないのは難点。回想して憤るマキシムが激しくドアを叩き付けた時、いつかドリフのコントのように天井が落ちてくるんじゃないかとか、余計な心配をしてしまいます。
ファヴェルの恐喝の場面では、下手から観るとどうしてもマキシムの肩から背中にかけての筋肉に注目してしまいます。ぴんと背筋を伸ばした立ち姿で色々耐え続けているのがまた良し。
火事の場面のマキシムはやっぱり帽子&トレンチスタイルが銭形警部風でした。バズーカ歌唱の迫力に気圧されて、とても笑っている余裕はありませんでしたけど。
ラストでは白髪になったマキシムが、「わたし」を後ろから抱き締めつつも瞳は遥か遠くを見つめていました。舞台のマキシム、現在は現在で静かな幸せを手に入れているのでしょうけれど、原作冒頭の彼の姿と同様、時々マンダレイの幻に魂を持っていかれてしまっているのだろう、ということを彷彿とさせている感じです。

少し心配に感じたのは、マキシムがかなり低くなっている岩場に腰掛ける場面が何回かある度に、片手を突いてそろそろ、どっこいしょ、という感じで腰掛けていたことです。山口さん腰痛持ち説というのは聞いたことがありましたが、同じ腰痛持ちである立場から見ると、確かに腰が弱そうな座り方だなあ、と気になっております。

なお、当日は原作、映画ともに未見の連れ合いと一緒だったのですが、
「1幕のホテルの場面でエレベーターに乗った客が次の瞬間ちゃんと2階で演技していて、細かいなあ、と思った」*2
「船室に鍵がかかっていたとか色々追及があったし、最後に絶対犯行が分かると思っていたのに、大団円で終わってしまった」*3
「ベンの証言でばれると思ったのに」
「2幕目の展開、全然予想が付かなかった」
ということでした。多分、楽しんでもらえたのかな?と思います。

*1:昼食は結局幕間に売店のおむすびをいただきました。

*2:私は3回観ていて全く気づきませんでした。白スーツの人しか観ていないのがバレバレです。

*3:その代わり大ペナルティを喰らいますが>ド・ウィンター夫妻