日々記 観劇別館

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『レベッカ』プレビュー2回目感想(2018.12.2 13:30開演)

キャスト:
「わたし」=平野綾 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=保坂知寿 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

 

プレビュー公演2回目の『レベッカ』を観てまいりました。

何事もなかったように吉野圭吾さんが一足遅く初日を迎えられました。

何があったのか気にならないわけではありませんが、熟練の技の持ち主、吉野ファヴェルが復活してくれたことを今は観客として喜びたいと思います。

例えば吉野ファヴェル、ただベッドに横たわり、レベッカの遺品のナイトガウンをうっとりと抱き締めたりふわりと舞わせたりして戯れるだけなのに、一連の仕草が全て艶かしいダンスになっていたりするのです。しかもフェロモンだだ漏れ。そんな熟練者なのにマンダレイに来ると皆に邪険にされ「出て行け」と言われたり、わざわざ邪道で庶民派なウイスキーソーダ割りをオーダーして聞いてもらえなかったりするファヴェル。彼だけはあの結末の後でも何の影響も受けずにせこく汚くお下劣に生き延びるであろうことが容易に想像できます。

 

今回初見のキャストの感想にまいります。

平野綾さんのヒロイン。困ると左眉がかくんと下がります。物語前半では割と下がりっぱなしなんですが、後半ではそうでもありません。

例えば千弘Ichは2幕でキューピッドを破壊する時に少し表情が、

「あなたに罪はないのにごめんね、でもあなたを壊さなければ前に進めないから、ごめんね!」

と躊躇ってから、えいっ! と思い切っているように見えます。

一方、平野Ichは全く躊躇うことなく、気持ちいいほどあっさりとキューピッドを手放して破壊します。

この子は天涯孤独で苦労したために卑屈、臆病になってるだけであり、おきゃんで後半の試練に立ち向かう強い性格の方が本来の姿に違いない、と思いました。

歌ももちろん申し分なし。歌声も声量も良く、他のキャストと綺麗にハモっていたと思います。

 

保坂知寿さんのダンヴァース。まっしぐらにレベッカを偏愛するひたむきな狂気の主。やや歌声が可愛らしすぎる印象も受けますが、こういう「普通のおばさん」が1幕からじわじわとちら見せしてきた凄まじい執着と憎悪を、2幕で無表情に開陳してヒロインに襲いかかるさまは、観る者も静かに追い詰められる気持ちにさせられました。高笑いは涼風ダニー以上に似合わないです。

なお、涼風ダニーも怖いと言えば怖いんですが、本人が美しすぎる上にレベッカと一心同体になりすぎている感が強いので、個人的には逆に引いてしまう所があります。

知寿ダニーは多分レベッカが生まれた時から母親代わりに厳しくも大事に育て、恐らくお嬢様が魔性の片鱗を見せたら見せたですっかり虜になって、

「この悪の花を摘み取らずに育てなければ。自分のような女には成し得なかった人生をお嬢様ならば男どもを踏み台に歩んでくれるに違いない」

ぐらいのことは普通に考えていたのではないでしょうか。……以上、妄想終了。

それから前回書き損ねていましたが、 出雲さん。1幕のソロの高音域が無理なく安定して出ているなど、安心して聴けるお歌でした。原作のベアトリス(ビー)は優しいけれどお節介で多少口やかましい感じなのですが、舞台のビーは前任の伊東さんも出雲さんも、優しいキャラクターを前面に出していると思います。

あと、続投メンバーですが、tekkanさんのベン。何だか以前よりも存在感がリアルになったように見えるのは気のせいでしょうか。彼は、ヒロインに心を許していても一見表情を大きく変えることはないのですが、2幕のファヴェルの尋問シーンでは、ヒロインを慮ってかばう、というのではなく、ただ彼が、数少ない優しくしてくれた人(多分今まで彼を尊重してくれるマンダレイの住人はフランクぐらいだったのではないかと……)のためにそうしたいからそうしているだけ、という強い意思が伝わってきて良いです。

というわけであまりだらだら書いても仕方ないので、最後にマキシムのことを少し書いて締めくくります。

マキシムの2幕の告白が、今回異様に好きです。特に、これはSNSでも似たことを仰っている方がいらしたと思いますが、彼が語り歌う時の女振り、レベッカの影がちらちら見えて、事件の核心に触れた時にその影がわーっと大きく広がってくる感じが好きです。しかもその影、もしかしたらマキシム自身の心の闇の大きさの反映でもあるのかも知れませんが、彼が新たな揺るぎない愛を得て真相が明らかになった後もなお、恐らく一生涯マキシムの心に住み続け、支配し続けたに違いないと考えると、慄然とするものがあります。

……レベッカ、心底恐ろしい女です。でもまた彼女に会いたい! プレビュー公演のチケットはもう手元になく、遠征観劇の予定もありませんので、一ヶ月後のクリエ公演までお預けとなりますが、またこの作品でマキシムやダニー、そしてファヴェルを通じて、早く彼女の恐るべき魔性に再会したいです。