日々記 観劇別館

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『レベッカ』のマキシムのソロ

比べるのは本当はとても野暮なことと分かっていながら、『レベッカ』のマキシムのソロナンバー2曲『神よなぜ』と『凍りつく微笑み』をウィーン上演版のウヴェさんと日本上演版の山口さんとで真剣に比較してしまいました。

結論。自分の中では、『神よなぜ』はウヴェマキシムの圧勝。逆に『凍りつく微笑み』は山口マキシムに軍配を挙げたいです。

理由。まず『神よなぜ』からですが、日本上演版のこのナンバーは、「山口さんならこう歌うだろう」という予想の範囲を逸脱することがなかったためです。この曲に関してはウヴェさんの方が突き抜けている感じがします。
ウヴェマキシムは、秘密を守るために癇癪を爆発させてしまう自分にかなりむかつきつつ、全部の感情をひっくるめて大噴火せざるを得ない男の像というのを、迫力と説得力を持って真っ直ぐに伝えてくれているように思えます。決して解釈が間違っているわけではないのだけれど、山口マキシムは声質がウヴェさんよりかなり甘めなためもあってか、秘密故に妻を泣かせてしまう自分をひたすら内向きに責めまくっている感じがして、その分が『神よなぜ』の歌唱の迫力の差に影響してしまっているのではないか?と思いました。

一方『凍りつく微笑み』のぶち壊れっぷりは、こちらの想定を遥かに超えていました。CDで聴く限り、ウヴェマキシムの歌と演技にはまだ「歌として成立させよう」「歌詞はちゃんと発音しよう」という理性が最終小節まで感じられます。ところが山口マキシムは、回想の最初こそ普通に朗々と歌っているものの、理性が途中から一旦どこかへすっ飛ばされているように見えるのです。
過去を語るほどに徐々に泣きが入ってきて、ボートハウスのドアを叩き付ける前後位から、かなりめちゃくちゃに崩壊しているように聞こえます。事件が起きた所で崩壊がクライマックスを迎え、その後の顛末を語りながら徐々に我に返り、結局レベッカの思う壺だなんて、と冷静に歌い上げてオチを付けようとしているけど、「わたし」と同様そんな健気なあなたを守ってあげるわ、と、こちらの母性本能を誘ってくれます。そんな想定外の所へ連れて行ってくれたという意味で、山口マキシムにしてやられた、と思いました。

……最初、冷静に勝ち負けを判断するかのように書きましたが、結局は「好みの問題」に落ち着いてしまうようなそんな気が、今になって大変しております。
しかし、いくら歌唱力とか他の色々な大人の事情があるとは言っても、これだけ声質も演技のタイプも違う役者さんなのに、ウヴェさんの演じた役を山口さんが演じることが多いのは、実に面白いなあ、とも思いました。もちろん、日本上演版の演出がウィーンのコピーである必要性は全くないですし、そもそもウィーン上演版をきちんと通しで観ていない以上*1、主役でもないマキシム1人の違いだけで両バージョンの評価を定めるような乱暴な真似をするつもりもありませんが、ただ単純に、これはどちらかを持ち上げてもう片方を貶めるような評価だけはしたくないな、と思ったという、それだけの話です。

ところで、5月は『レベッカ』を2回しか観ない予定にしていましたが、5月後半、研修で上京予定が入っており、更にその日のソワレのチケットが東宝ナビザで残っていたのを良いことに、もう1回増やすことを決めてしまいました。
これで、4〜6月で計8回観に行くことになります。これでも一応家庭持ちなんですが、これ以上堤防が崩れると色々と大切な物を失いそうなので、そろそろ心の護岸工事に着手することにしたいと思うこの頃です。

*1:あえて「生で観ていない」と書かなかったのは、同じく生舞台で観ていないという(参照:『月刊ミュージカル』2008年4月号)山口さんへの敬意のつもりです、一応。