日々記 観劇別館

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『エリザベート』感想(2010.9.18ソワレ)

キャスト:
エリザベート瀬奈じゅん トート=山口祐一郎 ルイジ・ルキーニ=高嶋政宏 フランツ・ヨーゼフ=石川禅 ゾフィー寿ひずる ルドルフ=伊礼彼方 ルドヴィカ=春風ひとみ マックス=村井国夫 少年ルドルフ=鈴木知憲

エリザマチソワ観劇。石丸トートで観てから2時間ほど置いて、山口トートで観ました。流石に正味6時間の観劇は、この年齢になると軽く腰に来ましたが(笑)、プロローグでトートダンサーが舞い、棺から登場人物達が現れた瞬間に疲れが消し飛んだのは不思議でした。ちびルドが大人達と遜色なく綺麗に踊っている姿が何とも可愛いかったです。

前回(9月12日)、歴代シシィに比べて個性が薄い?と書いた瀬奈シシィですが、今回は大変凛々しく雄々しいシシィだと感じることができました。前回は私の側が瀬奈シシィとシンクロする準備ができていなかっただけだったのかも知れません。
瀬奈シシィの歌、発声がスムーズで綺麗。どちらかと言えば2幕のナンバーに良いものが多いです。「私が踊る時」でもしっかり山口トートと戦えていたと思います。
「夜のボート」の禅フランツとのデュエットは、何とも言えない哀感が込められていて深く聞き入りました。

山口トートは、やっぱりメイクが薄かった……ことはさて置いて、この方の「人ならぬもの」度合いはただ事ではない、と今回改めて感じました。
今期、人間と同じ感情の動きを持ち合わせないという点では城田トートが際だっていますが、相対する者、特に言わば半身であるシシィの感情と共鳴しながらも、纏う空気感は明らかに人間のものではない、という微妙な立ち位置を見事に表現できているのは、やはり山口トートだと思うのです。所詮はファンの腐った目故かも知れませんが。
「愛と死の輪舞」で、シシィの魂がトートを畏れ逃げる場面があります。同じ日に観た石丸トートに対しては、トートの「未知のものの強靱さ・強引さ」を畏れている感じでしたが、山口トートに対してはもっと本能的な部分で「異形のもの・触れてはならぬタブー」への畏怖を覚えていそうに見えました。決して石丸トートが間違っていると言いたいのではなく、山口トートの人外ぶりが強烈過ぎるということです。
エリザにおける「死」というのは、人間の生きる意志の強さに比例する存在であると同時に、究極の快楽として描写されていると思いますが、山口トートは「愛と死の輪舞」の陶酔感と言い、まさにそれらを体現しているトート(死)であると思います。

前後しますが、「愛と死の輪舞」のイントロで、トートダンサーとトートが紫の光の中しずしずと現れ、ダンサー達がトートを真ん中に円形に取り囲む瞬間が大好きです。これに限らずトートダンサーの群舞シーンは皆好き。「最後のダンス」でのシシィとの静謐なダンスも、革命場面でのトートを囲んでの激しいダンスも、そしてマイヤーリンクでのルドルフとの暴力的なダンスも。

山口トートの歌に戻りますと、「最後のダンス」も前回同様力強かったです。オーラを放ち、シシィの深層心理をえぐり出すかのように強引に誘うトートと、寸止めですり抜けるシシィとの火花が散りそうな最初の戦い。歌い終えた後、軽くショーストップになっていました。
エリザベート泣かないで」では、自分らしい生を全うするために死をも賭した直訴をするシシィの心の映し鏡として、哀しげに、でもあくまで心地良い「死」として甘く官能的に歌っていました。
2幕の序盤のトートはあくまでタカビーに、微笑ましくなるくらい元気に登場。そして「私が踊る時」では、雄々しい系の瀬奈シシィが相手故か、甘さ抜きの一触即発の駆け引きを繰り広げていました。
「闇が広がる(リプライズ)」も伊礼ルドルフと息のあった強靱な演技で、目力をバシバシ放ちまくりながらルドルフを挑発しまくっていたと思います。
革命ダンスは、右目で2、3人ずつ舞い始める革命家達を見遣りながら(この場面の群舞も好きなので)、左目でトートのダンスを追いかけていました。獅子のようなトートの全身全霊を込めたダンスを見ると、いつも何故か元気が出ます(私だけ?)。

ここで少し伊礼ルドルフについても語っておきます。革命の場面まで必死に頑張ってきた彼が、フランツに「処分は追って沙汰する」と宣告された後、誰に言うともなく「父上……」と呟く場面。ここでの伊礼ルドの言い方が、大層無力感と孤独感に満ちていてお気に入りです。「僕はママの鏡だから」で大好きなママに、恐らくは空振りになるだろうことを心の奥底では知りながら切々と訴えるヘタレぶり(賞めてます!)も好き。
マイヤーリンクのダンスも、2008年の時より随分軽やかになったと感じました。キスシーンでは、今回はトートは目を瞑ったまま綺麗な角度でソフトに口づけてました。ピストルもスムーズに渡せてましたし。ちなみに伊礼ルドはキスされてから引き金を引くまでのタイミングが万里生ルドより若干早いです。というより従来通りの早さ?

ルドルフの葬儀。同じ日に観た石丸トートの印象も強烈で、つい比べずにはいられませんでした。
トートがびっくり箱棺から現れてから、死を逃げ場にしようとするシシィを拒絶する一連の場面。石丸トートは「死なせて」と言うシシィを抱き、キスを賜ろうとする直前に本心にハッと気づいて拒絶します。他方、山口トートはもうシシィが「死なせて」と口にする前、棺から現れシシィを見つめた瞬間にもう本心に気づいています。
自分は過去に山口トートでしか観ておらず、城田トートもどちらかと言えば山口トートを踏襲した演技だったと思うので、石丸トートの演技に「こういうトートもありか!」と目からウロコでした。でも、山口トートの、拒絶直前までの表情の見え無さ加減もまた萌えるのですね(^_^;)。

「悪夢」では何か禅フランツの必死感が、石丸トートで観た時と比べ強かったような気がしました。あの自信満々過ぎるトートの笑顔が余計そう見せたのかも知れません。シシィの刺殺後も懸命に現場に駆け寄ろうとしているのに、トートダンサーに押しやられ連行されてしまうのが何とも哀しいのです。

そしてエピローグ。ここでも石丸トートの残像がちらつく私。
シシィを棺に納めて満足げに微笑んでいた石丸トートに対し、山口トートはやはり泣き笑い顔。手はルキーニを絞め、顔も彼に向けていても目はもっと遠い所、虚無に向けられているかのように見えました。シシィを手に入れて感極まりながらも、これで良かったのか?と、「死を掌り永遠に揺蕩う普遍的な存在」(山口さんの雑誌『ぴあ』での発言より引用)らしからぬ葛藤をどこかに抱いているような、そんな感じ。

今回は貸切公演ということで、通常のカテコ後にトート&シシィからご挨拶がありました。以下、あくまで一字一句正確に拾った言葉ではなく概略となりますが、まずは山口トートからご挨拶。
「連日、35℃、36℃の暑さが続き、その後も暑くなったり寒かったりが続いています。ニュースによれば明日も熱中症患者が出るそうです。自分も階上でゴンドラ待機中に暑くて熱中症になりそうですが、お父さんは頑張ります」
という内容でした。
一時期は自称「おじいちゃん」だったこともありましたが、仮にも相手役がいてラブシーンも演じるような舞台でそれはあんまりだと自覚されたのかどうか定かではないものの、最近はあえて自称しないか、今回の「お父さん」のどちらかに落ち着いたようです。
トートの扮装のまま、笑顔でぽわぽわとお話しする様子に、今回も癒されました。
瀬奈シシィのご挨拶は、
「8月9日に初日を迎えた『エリザベート』も、お蔭様で本日が公演の中日、折り返し地点となりました。残り半分もどうぞ『エリザベート』をよろしくお願いいたします」
という内容でした。

エリザベート』のマチネ・ソワレともに、充実感溢れる公演だったと思います。
次回は25日、城田トートで観る予定です。1ヶ月ぶりの城田くんを楽しみにしています。山口トートを次に観るのは10月5日、山口さんのお誕生日の予定。特に舞台で何もイベント等はないと思われますが、客席からひっそり祝福の拍手をお送りするつもりでいます。