日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『ニュー・ブレイン』感想(2009.3.15マチネ)

ゴードン・シュイン=石丸幹二 リサ / ホームレスの女=マルシア ロジャー=畠中洋 リチャード=パパイヤ鈴木 ローダ=樹里咲穂 ミミ・シュイン=初風諄 ミスター・バンジー赤坂泰彦 医師=友石竜也 牧師=田村雄一 ナンシー=中村桃花 演出=ダニエル・ゴールドスタイン

劇団四季の石丸さんのミュージカル復帰作、ついでに申しますと私自身も1ヶ月半ぶりの観劇ということで、期待して観に行きました。

四季時代に拝見する機会に恵まれなかった、主人公ゴードンを演じる石丸さんは、柔らかな美声で歌い、見るからに優等生なのに時折どきっとするような艶めかしい表情も見せてくれる方でした。
演目自体は面白いというにはややつかみ所が足りず、しかし、退屈だったと言い切るには大人の味わいの深い内容だったと思います。
ここから多少ネタバレありです。


ゴードンの母親ミミ役の初風さんは、エリザで声が出ていなかったので心配してましたが、綺麗な声で歌われていて安堵しました。こういう小品物でまだまだご活躍いただけると確信しております。
石丸さんと畠中さんが演じる、美声な同性カップルにはかなり感情移入して観ていました。特に自分の病への不安でだだをこねる子供のように苦しむゴードンを絶妙に包み込むロジャーの健康な心根に惹かれました。手術前夜、付き添いたくて仕方ないのをこらえて、ゴードンの「生きた証に仕事を残したい」という意志を尊重する姿が素敵です。
「セイリング」等二人のデュエット曲も良いですし、ペアで踊るダンスも力強くて綺麗でした。それから、手術が成功して生命の危険を乗り越えたゴードンがロジャーと二人でシャワーを浴びる場面。石丸さんが上半身裸だったからというわけではないと思いますが、妙にドキドキしてしまいました。

なのに何故、つかみ所が足りない、と思ってしまったのでしょうか?
理由の1つに、場面展開がややメリハリに欠けると感じたことがあります。ゴードンの心理描写が、ロジャーとのデュエットを除いてほとんど群舞で表現されており、ゴードンに何か起きる→群舞→また何か起きる→群舞という展開の繰り返しはやや単調で眠たかったです。
もう1つの理由は、登場人物が皆善人過ぎるからかも*1。パパイヤさんの看護師、赤坂さんのミスター・バンジー(ゴードンの仕事のボスで、ゴードンの心象風景にカエルの着ぐるみ姿で傍若無人に出現する人)と、個性の強い人物は登場するけれども、皆根っこは良い人達なので、誰も引っ掻き回す人がいないのです。
数少ない屈折を見せるのは、ゴードンの母親ミミでしたが、息子の同性愛を受け入れつつも相手がユダヤ人同胞ではないことに抵抗感を覚え、苦労して育てた息子を愛しつつも自暴自棄になりその蔵書を処分してしまう母親像はやや複雑で分かりづらかったです。
何しろ私自身が本に関わる仕事をしているもので、
「本を、しかも他人(息子だけど)の蔵書をゴミ箱に捨てるなぼけー!」
と思ってしまったのも大きいかも知れません。後からホームレスのリサが拾ってリサイクル販売してくれたから良いようなものの。でもゴードン、いくら元は自分の蔵書だったからって、1ドルぐらいけちらず払って取り返せば良いのに、などと、病後のゴードンとリサが再会する場面で要らぬことばかり考えてしまいました。まあ、このお話では、蔵書=古びた辛い過去の象徴という扱いなので、捨てなければ物語が成立しないのですけれども。

ところで「チェンジ!」と口にしては通行人に小銭をねだるリサは、小銭=change=(ゴードンの)転機を象徴する暗喩にしてはややありきたり、と思いましたが、パンフに載っていた脚本家(ゴードンの体験はこの方の実体験がモデル)のコメントによれば、彼が実際に出会った人物だそうです。何と素晴らしい偶然の出会い。マルシアさんが一本筋のとおったホームレスを好演されていました。

辛口なことばかり書いてしまいましたが、音楽はクリエにジャストサイズで耳当たりが良かったと感じました。誰にでも起こり得る人生の1ページを巧みに切り抜いており、比較的主人公に思い入れしやすい作品であったとも思います。噛めば噛むほど味わいの深まる作品なのかも知れません。

*1:田村雄一さんの牧師さまは……少し目つきが悪かったけれど、所謂悪ではなかったと思います(^_^;)。