日々記 観劇別館

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『日本人のへそ』感想(2011.3.20ソワレ)

キャスト:
教授=辻萬長 会社員=石丸幹二 右翼=たかお鷹 審判員=久保酎吉 鉄道員山崎一 アナウンサー=明星真由美 沖縄娘=町田マリー 学生=植本潤 ストリッパー=笹本玲奈 ピアノ伴奏者=小曽根真 合唱隊男1=吉村直 合唱隊男2=古川龍太 合唱隊女1=今泉由香 合唱隊女2=高畑こと美

本来この公演は、3月12日に観る予定にしていたものです。しかし、前日に発生した東日本東北大震災のため、当日の公演は中止に。チケットを預ってくれていた友人の尽力で、本日の振替公演に行けることになりました。
劇場はシアターコクーン。行ったことがないと思い込んでいましたが、そう言えば、演目は忘れたけど吉田日出子さんの出演作を観に行ったことがあるぞ、と今思い出しました。10年以上前の話です。
『日本人のへそ』のストーリーは以前に文庫で読んで何となく覚えてましたが、実際に観劇するのは初めてでした。
感想は……書くのが意外に難しいです。
まず、何と言っても音楽。流石小曽根さん、適度にスタイリッシュ、そして安心して聴ける曲で良かったと思います。
それから、この作品の主な舞台は東京ですが、主人公は岩手から集団就職で上京し、流転の末ストリッパーから政治家の東京妻に収まった女性という設定なので、序盤は岩手の寒村風景。その寒村から彼女が乗り込んだ集団就職列車が延々と東北本線を辿るイメージを、駅名の読み上げに合わせた行列ダンスで表現していたのですが、そこで「仙台」「いわき」等と読み上げられるだけで、もうどうしても先日の地震に思いを馳せずにはいられないわけで……。まさか芝居の台詞として駅名を聴いただけで泣けるとは思いもよりませんでした。
役者さんも皆さん、巧みに軽妙に熱演されていたと思います。
今回は一応、玲奈ちゃんを目当てに出向きまして、まあ、ストリッパースタイルの身体が筋肉質で綺麗だなあ、とか、意外と和服姿もあだっぽくて似合うなあ、とか本筋と関係ない所もしげしげと観ていたわけですが(笑)。少女時代の夢とは裏腹な人生を歩まざるを得なかったヘレンの哀感が十二分に漂っていました。
あと印象に残ったのは辻さん、たかおさん、山崎一さん(どうしても私の頭からは『NOVAの鈴木さん』が離れてくれません)、それから石丸さん。
辻さんは舞台に立たれるだけで場が引き締まる感じ。たかおさんは右翼にストリップの振付師にと、身体を張った怪演に笑わせてもらいました。鈴木さん……じゃなくて山崎さんも安定感抜群。辻さんとは違う意味で、この人がいると安心して舞台が回る、という印象を受けました。
石丸さんも吃音治療中の会社員、ヘレンの父親、若いヤクザ、そして大学教授と八面六臂の活躍をされていました。それぞれの役への妥協を知らないなり切りぶりが素晴らしかったです。しかも、多分、役柄上の「素」は大学教授で良いのだと思いますが、教授として劇中劇の役柄になり切っているのが面白かったです。所々で歌ってくれて、美声もたっぷり聴かせてくれました。

また、ミュージカル仕立ての1幕では、『ミス・サイゴン』や『ウエスト・サイド物語』のパロディっぽい場面もちらほらとありました。石丸さんがWSSのイントロを匂わせるポーズを取った時には、
「いや、石丸さんは確かトニーだったから踊ってないんだけど」
等と考えたりしてましたが。

以下はちょっとした不満と申しますか、観ていてすっきりしなかった点。
まず、流石に初演時そのままではないと思われますが、やはり作品が書かれた時代を感じさせる表現や、時代背景が予備知識として頭に入っていないと笑えない表現が、特に1幕にしばしば見受けられました。
2幕は、シットコムの香りのする濃密な室内劇だったので、純粋にコメディーとして楽しめたと思います。但し、いくら「仕掛け」があるとは言え、過激に同性愛をおちょくるネタは現代では書けないだろうと考えてしまいました。
全体に丁寧だけど、原作のあられも無い部分もそのまま丁寧に作り込んで、はいどうぞ、と差し出しているような印象を受けたのは、栗山さんの演出故でしょうか。個人的には、あられも無い部分はもっと大胆にアレンジして見せてくれる方が好みです。新感線辺りで脚色して上演してくれないだろうか、とも思いましたが、彼等がやるにはラストにあまりカタルシスのないお話なので、難しいかも知れません。