日々記 観劇別館

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『レベッカ』感想(2008.4.8ソワレ)

レベッカ』の感想の続きです。ネタバレ注意。







前回書き忘れてましたが、8日の座席は前から3列目の下手ブロック通路側でした。『レベッカ』で下手の芝居があるのは、1幕で「わたし」がキューピットを壊してしまう場面。ダンヴァース夫人が「わたし」をレベッカの寝室に案内する場面。そして2幕では、マンダレイの屋敷のリビングのセンターに腰掛けた、レベッカの従兄弟兼愛人ファヴェルの挑発に、下手側のマキシムが対峙する場面。結構美味しい場面が多かったです。
特に寝室のダンヴァース夫人。これはあの方(レベッカ)のネグリジェ、等々と陶酔しつつ下手側に移動してきた時の目が、本当にイッた人の目つきそのもので、心の底から怖気がしました。あの目つきと情念で迫ってこられたら、それは妄想マシーンな「わたし」でなくても誰でも怖いと思います。
そして、とどめを刺されたのは、2幕のマキシムvsファヴェルの場面。その間、マキシムはずっと下手の、まさに当日の私の座席から3メートルと離れていない場所に立ちっぱなしだったので、目が離せず、身体中から汗が吹き出し、心臓が激しく動悸を打ち、呼吸困難になっていました。これぞまさにスリルとサスペンスの醍醐味(違う)。

マキシム以外の個々のキャストの感想に移ります。
ちひろちゃんの「わたし」は既に書いたとおり、期待以上の歌声と演技を見せてくれて良かったです。1幕のか弱い小娘な「わたし」よりも、2幕のマキシムの告白以降で芯の強さを発揮している「わたし」の方が、彼女の持ち味が発揮されていると思います。キューピットを再び破壊して♪ミセス・ド・ウィンターは わたし! とダンヴァース夫人に勝ち誇る所なんて、凛々しさと同時に鼻持ちならなさも感じさせてくれていました。
私的に『レベッカ』の特色は、女性のデュエットハーモニーナンバーが多いという点にあると思います。一番多くて印象深く、物語のターニングポイントの役割を果たしているのはダンヴァース夫人と「わたし」のデュエットですが、伊東さん演じるベアトリス(マキシムの姉)と「わたし」の、聴くと元気になりそうな歌声もなかなか素敵でした。

ダンヴァース夫人は、あくまで私の印象ですが、冷たい執念を持ち、無表情な仮面の裏にどろどろした情念の渦巻いた、ある種むっつりスケベ*1な人です。
で、シルビアさんによって舞台の上で描写される夫人は、レベッカの後釜に納まった「わたし」を冷たくストレートに嫌悪し、、レベッカの形見のカトレアをひっそり愛でてるむっつりスケベで、そして可哀想な人でした。♪レベッカ 帰ってきて とイッた目でカトレアに情熱的に呼びかけ、巧妙に「わたし」を追い詰めていくのだけど、結局は愛し執着して守ってきたレベッカの世界が手の内から奪われ、崩壊に突き進み始めたのを悟り、炎の中にレベッカの魂の象徴であるマンダレイをとこしえに封じ込める道を選ぶことによって、もしかしたら彼女はレベッカの死後入り込んだ迷宮からようやく抜け出して、ようやく誰にも邪魔されることのない幸せを掴めたのかも知れません。恐らく忘れていたんでしょうね。思い出は瓶に閉じこめておけるかも知れないけれど、生きている人間、特に女性は時に思いも寄らない怪物に成長して制御できなくなるということを。
長々と書きましたが、と言うわけで私はダンヴァース夫人、割と好きです。シルビアさんの、暗い情念が立ち上ってくるような迫力のある歌声も良いですし。

ダンヴァース夫人とは対極にある、ポジティブ・シンキングアメリカン・ウーマン、ヴァン・ホッパー夫人には笑わせてもらいました。彼女は様々な思惑の絡み合うサスペンスの中の貴重なお笑いキャラなのですが、その数少ない笑い所を狙って仕掛けてくるマキシムと、演じる寿さんとのやり取りは実に楽しかったです。寿さんのドスの利いた歌声と軽快なダンスも見どころの一つとなっていました。「アメリカン・ウーマン」で巻き込まれるジュリアン大佐の微妙な困惑ぶりがまたおかしいです。

最優秀演技賞を差し上げたいのは、はるパパさん演じる所の知的障碍を抱えたベンです。演じ方によっては観客の共感を呼べる一方で、猛反発を呼ぶ危険性も孕んだ両刃の剣な役柄であると思いますが、はるパパさんは、歌声の綺麗さよりも自然に等身大にベンになることを優先させて丁寧に演じられている様子で、役者と役柄両方に好感が持てました。2幕でマキシムの告白と「わたし」との和解を岩陰(?)から見守る場面が良い感じです。
そして、最優秀色気賞は吉野さん演じるファヴェル。登場した瞬間から、全身から身持ちの悪いニオイが漂ってきており、ムダに色気を発散していました。2幕でダンスシーンがあったのですが、長椅子に深々と腰掛けていたポーズから、客席方向を向いたままいきなり後ろ方向にジャンプし、飛び乗った長椅子の上で踊り始めた身体能力にびっくり。バレエの心得のある人のダンスはやっぱり良いなあ、と思いながら観てましたが、前にも書いた通り、この場面では下手にずっとマキシムがいるので、全く落ち着きのない状態に陥っていました。次はもう少しちゃんと吉野さんダンスを鑑賞することにします。

最後に禅さんのフランク。出番は結構ありますし、緊迫しっぱなしのマキシムやフェロモン満載のファヴェルに対抗する癒し&なごみパワーは他の役者さんの追随を許しませんが、ちゃんとしたソロが1曲しかないことについて禅さんファンは一体どう思っているのだろう?等と余計なことを考えてしまいました。

どうやらこの『レベッカ』、私のお気に入りの舞台になってくれそうな気配です。まだ色々書きたいことはあるものの、これ以上書くと次に観た後書くことがなくなってしまいそうなのでこの辺にしておきます。
ただ一つだけ言わせてもらいますと、開演時にかかっているあの唐草模様の紗幕について。あれはどう見てもマンダレイの屋敷の閉ざされた門扉の絵だと思うのですが、観てきた人のブログ等を読んでも1人2人しかそのことには触れていません。マンダレイ、主役の1人と言っても過言ではないのに。いくらセットが全体にショボいからって、皆もうちょっとあの門に注目してくれたって良いのに、と、ちょっと不満を訴えてみました。

*1:女性にこの形容詞は適切でないでしょうか。