日々記 観劇別館

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『レベッカ』感想(2019.2.2 13:00開演)

キャスト:
「わたし」=桜井玲香 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=保坂知寿 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

今期の『レベッカ』公演を観られるのも残り2回。その貴重な1回を観に行ってまいりました。

今回初の前方席(下手ブロック)で、全くオペラグラスを使わずに見える距離でした。なので今まで視力的に見えなかったものや(車の運転に眼鏡必須の近視です)、オペラグラスで違う所ばかり見ていて見えなかったものを、色々と見ることができました。

例えばこれまで、Twitter等で見かける感想で「ヒロインの帽子を取る時、さりげなくおぐしを整えてあげてるダニー優しい」の意味が実はずっと分かっていなかった(見えていなかった)んですが、今回ようやくその場面を見届けることができました。プロローグの「あれはーモーンテカールロ……♪」で時を遡るヒロインの帽子とコートを脱がせるのがミセス・ダンヴァースだったんですね。見られて良かったです。

また、チェスの場面でド・ウインター夫妻が暗転から舞台に出る時に、お手々をつないでいたことに気づきました。恐らく、スムーズに揃ってソファーに座れるようにマキシムがエスコートしていたと思われます。ああ、本編のマキシムもこれだけ気が利く男性だったなら(ため息)。

それから、これは前方だから、ではないのですが、2幕の船の座礁の場面でアンサンブルに今さんとKENTAROさんがいたことに今回初めて気がついたという……。1幕のホテルの場面でお二人がロビーやレストランに出没していることは当然認識していたのですが、船の座礁では私、ずっとファヴェルしか見ていませんでした。

もう1つ、これも2幕で、ヒロインがマキシムの告白シーンの次の場で着ている「赤色のワンピース」をこれまで無地だと思い込んでおりましたが、今回近くで見て正しくは「シックで濃い赤系の地に黒いグレンチェックのワンピース」であったと知り驚きました。ヒロインのお召し物は、確か初演や再演の時には、
「1幕で地味なパステルカラー、2幕の告白以降は大きめの花柄のワンピース」
だったように思いますが、今回は、
「1幕で細かい花柄や地味なパステルカラー、2幕の告白以降はシックなワンピース」
というように、全く逆のイメージです。「だから何?」と言われるとそれまでですが、今のシックなワンピースの方がヒロインの成長面を表しているようにも見えます。

 さて、今回のマキシムですが、「幸せの風景」の歌い方が一層、少女の純粋さに戸惑いつつも優しく見守る、という感じになっていました。その他の場面でも歌にも表情にも実に繊細な襞があって、ああ、彼は心からヒロインに癒されていたんだね、でも隠し事が彼のキャパシティを超えて大きすぎたから、それでいっぱいになって彼女の気持ちをないがしろにしてしまっているんだね、という状況が観客にはしっかりと伝わってきます。

だってマキシムさん、過去を乗り越える、あるいは逃げることばかり考えていて、過去に真正面から向き合おうとしないのだもの、それは苦しいでしょう、と、もがき苦しむ姿をちょっと冷淡に見つめてしまいました。

だいたい、1幕ラストでダニーの罠に落ちた妻を怒鳴りつけた後、舞台では省略されていますが、原作では必死で涙をこらえパーティーに復帰した妻を、ベアトリスとジャイルズは全力でサポートし、フランクもかいがいしく飲み物や料理を差し入れてフォローしているというのに、マキシムは一言も声をかけずスルーするという薄情ぶりを発揮していたわけで。

……と言いつつマキシム、歌声が絶好調に厚みを持って力強く、ドラマチックで美しいばかりか、様々な表情がオペラグラスなしで目の前に展開されるものですから、悔しいことについ「でへへー」とにやけてしまったことを白状いたします😅。

歌や演技に深みが増していたのはマキシムだけでなく、他のキャストの皆様も同様でした。

まず桜井さんは、デュエットする相手(マキシム、ダンヴァース、ベアトリス)がことごとく声量が素晴らしい方達ばかりなので、「あ、彼女の声が聞こえない……」という場面が多いのは厳しいところですが、儚げで臆病な少女が懸命に自らを奮い立たせ、自分でも気づいていなかった強さを目覚めさせていく様子はかなりリアルであったと思います。

それから保坂ダニー。前回観た時よりも彼女の心の中と視線の先にいるレベッカの存在感と言うか「圧」がねっとりとして強固になったように感じられました。2幕でキューピッドを破壊された時、彼女の瞳が怒りに燃え、何かを決意するような表情を見せながら破片を抱きしめて去っていきます。レベッカにより長い時間をかけてプログラミングされたロボットのようでありながら、濃厚な感情と強い意志とを兼ね備えた極めて人間的なダニー。クライマックスの保坂ダニーの笑い声は、サイコパスレベッカが忠実なしもべに託した何かが満願成就された瞬間の、2人の哄笑だったのかも知れない、と今は思っています。

忘れてはならないのは薄汚いジャック・ファヴェル。吉野さんの、ファヴェルがダニー以外の人々に接する際の態度がよりドライで辛辣になるのと同時に、レベッカの遺品や残り香に見せる執着がより強くなったように見えたのは気のせいでしょうか? ナイトガウンと戯れる演技は変わらず、否、より一層官能的でした。

そしてフランクにベアトリス。フランクは恐らくマキシムの秘密に感づいているわけですが、もしかしたらベアトリスも薄々感じ取っているのかも? と今回思いました。でも2人とも一貫してマキシムを信じていますし、特にベアトリスのド・ウインター家を守ろうとする思いは恐らく弟と同じくらい強いと思われます。今回、時々ベアトリスとフランクに気持ちがシンクロして、あの2人に成り代わりたい! とすら思ってしまっているのですが……私だけでしょうかねー。

ついに『レベッカ』を観られるのも残すところ1回となってしまいました。大千穐楽、大事に見届けたいと思います!