日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

宝塚宙組『ファントム』DVD感想

ファントム=和央ようか クリスティーヌ・ダーエ=花總まり ジェラルド・キャリエール=樹里咲穂 フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵=安蘭けい

2月に観た鈴木勝秀氏演出版の舞台『ファントム』が余りに嫌な記憶(トラウマに近い)として残り、思い出すと胸の奥から不快感が込み上げてくるのを止められないのを何とか上書きしたい、と思い詰め、宝塚宙組版『ファントム』のDVDを買ってしまいました。で、風邪引いて家に引きこもっているのを良いことに、最後まで鑑賞いたしました。
和央さんも花總さんも凄く歌が上手いかというと決してそうではないのですが、少なくとも見た目が綺麗。で、歌っても不快感が全くありません。
特にファントムのソロ。そうか、「世界のどこに」(Where in the World)や「私を産んだ母」(My Mother Bore Me)って、歌声で観客を苦悶させるためのナンバーじゃなかったんだ、と初めて合点がいきました。
あと、クリスティーヌの歌声がファントム(エリック)のレッスン前とレッスン後でちゃんと区別されており、逆にカルロッタの歌声は誰が聴いてもちゃんとクリスティーヌよりダメに聞こえるように工夫されていたのはプラスポイントだと思います。
また、鈴木版『ファントム』が照明も衣装も全体にファントムの内面を投影したような暗い色合いだったのと対照的に、宝塚版『ファントム』は明るい色調でオペラ座の華やかさが良く出ていると思いました。調度品もいちいち豪奢ですし。
それから、ファントムの登場シーンや、シャンデリアが落ちてくる所等、『オペラ座の怪人』を意識した派手な演出が所々に見られました。これは好みが分かれる所かも知れませんが、私は宝塚版の方が好きです。潤色・演出を確認したところ、中村一徳さんという方でした。

ただ、話に聴いてはいましたが、キャリエールがファントムの父親にしてはやや若すぎる気がしました。樹里さん、正直、トップスターよりも歌えるし、台詞の声も良く通って堂々立派にお父さんしてます。終盤で息子を撃ってとどめを刺す所なんかもう何とも切ないです。でも、恐らくそれとは別次元で、宝塚におけるこの役自体があまり「老け」を要求されていないというのが大きいのだと思います。
それと、キャリエールは明らかにベラドーヴァに既婚者だということを隠して手を出してますね。この辺は、鈴木版ファントムでは分かりづらかった気がします。逆にベラドーヴァがヤク中になっていたというエピソードは宝塚版ではぼかされているので、ファントムの異形の原因は純粋にキャリエールの罪に起因すると解釈することもできると思います。

また、引きこもりの筈のファントムがむやみに表舞台に出てきてはちょっかいをかけるのが謎と言えば謎でしたが、トップスターの華やかな見せ場をたっぷり作るための潤色と考えれば問題なし。これはシャンドン伯爵にも言えることです。鈴木版ではひたすらヘタレで一方的にファントムにやられるばかりでしたし。
クリスティーヌ、歌はともかく(鈴木版のクリスティーンよりは上手いと思う、悪いけど)、ちゃんと美人さんなのは嬉しいです。その分、ファントムにあれだけ切々と素顔を見せろと訴えて説得しておいて、顔を見た途端に悲鳴を上げて逃げ出すという非道っぷりは倍増してますが。
ラスト、ファントムの亡骸が従者達の手で綺麗な祭壇に上げられ、最後に白装束のファントムの幻影とクリスティーヌのデュエットがある(つまり魂がファントムと結ばれる)というのはああ、宝塚だなあ、と思いました。でも、息を引き取る瞬間までファントムの顔は醜いままなので、そこは私的に、醜い死に顔でもクリスティーヌの愛を得た、という点でポイントが高いです。
じゃあ、ヅカファンはトップが醜く死んでもいいのか?と一瞬考えてしまいましたが、宝塚の場合、フィナーレで綺麗な顔のトップスターが出てきて華麗に歌い踊ってくれるので、そこは何て上手くできているのだろう、と感慨にふけりました。何だかんだであの急な大階段を華麗な衣装で足元見ずにニコニコ笑って下りてくる生徒さん達は凄いです……。