日々記 観劇別館

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『ファントム』感想(2008/2/16ソワレ)

ファントム(エリック)=大沢たかお クリスティーン・ダエー=徳永えり フィリップ・シャンドン伯爵=ルカス・ペルマン アラン・ショレー=HISATO カルロッタ=大西ユカリ ゲラール・キャリエール=伊藤ヨタロウ ベラドーヴァ(映像出演)=姿月あさと

ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』を下敷きにしつつ、ロイド=ウェバー版の有名なミュージカルとは全く別の視点、解釈で仕上げた、アーサー・コピット脚本・モーリー・イェストン作詞・作曲のミュージカル『ファントム』を、青山劇場で観てきました。

以下、かなり厳しい感想なので大沢さんのファンは読まない方がよろしいかと思われます。

ストーリーはロマンティックで、日本初演が宝塚だったそうですが、きっとぴったりだったことでしょう。展開も泣かせ所満載で、ロイド=ウェバー版には無い親子の情愛も描かれていて、もっと世間に広く知られて良い作品だと思います。
しかし!大沢ファントムがあまりに歌えなさすぎです。上背があって舞台映えして、演技もファントム(エリック)の聡明さと幼さと狂気を兼ね備えた複雑な性格をしっかり表現していて素晴らしいと思いました。しかし歌が!
決して音程を大幅に外しているわけではありませんが(小幅では外していた)、声の出し方が良くないのか、歌声を聴く度に不快感で脳みそがむずむずしていました。劇中にファントムがカルロッタの歌声に耳を押さえてけちをつける場面があるのですが、「その言葉、そっくりキミに返してやるわぁ!」と心の中でつぶやいていました。どれくらい不快だったかと言うと、上演中頭から睡魔がずっと(ルカスくんの出番を除く)離れず、更に終演後電車に乗っても全身に鉛を背負ったような感覚が抜けず、帰宅してコートを脱いだ直後にベッドに倒れ込みしばらく起きあがれなくなった位でした。
特異な育ち方をしたファントムの異形ぶりを表すためにあえて外した歌い方をしていただけかも知れませんが、いやしくもこの演目はミュージカルで、客は決して安くないチケ代を払って来ているのだから、もっとそのレベルになってから歌っていただきたかったです。ルカスくんやキャリエール役の方等、ちゃんと歌える人がほかにいたので、途中退席せずに済みました。
徳永クリスはファントムよりは不快感は無かったです。演技力はもう少し頑張ってね、な感じでしたが可愛いし。歌も、事前に覚悟していた程悪くはありませんでした。ただ、高音部で金切り声になるのが耳障りです。歌のロングトーンすべき箇所であまり声が伸びていかないのも気になりました。あと、ファントムのレッスンという設定で♪ドレミファソー とデュエットする“You Are Music”では若干いらつきました(主にファントムに起因)。
今回のヒロイン役はやや時期尚早だったのでは?と思いましたが、もう少し時間をかければきちんとしたソプラノを歌える役者さんになれるのではないかと期待。
ルカスくんはさすがに日本語セリフはたどたどしかったですが、歌は本当に素敵で、音楽に国境は無いと再認識いたしました。登場シーンは少ないながらも登場するとそこだけ舞台が光り輝いていて、ファントムの嫉妬の対象としてふさわしい存在でした。
とは言えシャンドン伯爵の出番は本当に少ない上、ロイド=ウェバー版のラウルのようにドラマチックな見せ場もあまりありません。ルカスファンの友人が彼の二度にわたる客席降りの為に通路席を確保した上で名古屋公演をマチソワしたそうですが、つまりそれはルカスくんの為にそれ以外の場面の苦行に耐えたということで、これぞファンの鑑だと思いました。
他に歌が良いと思ったのは、キャリエール役の伊藤ヨタロウさん。本職は舞台音楽も多く手がけるミュージシャンだそうです。やり方は間違っていたかも知れないけれど息子エリックとその母を本当に愛していたのだという真摯な気持ちの伝わってくるお父さんでした。また、カルロッタの大西さんも、見た目も歌声もイヤな女満載で好演されていました。ひたすら「イヤな女」だったので、もうちょっと笑いを取りに行ってくれても良かったように思いますが、きっとそこまでの余裕は無かったんでしょうね。

それにしてもクリスティーン、2幕であれだけ素顔を見られるのを嫌うファントムに、お顔を見せて、私は大丈夫だから、と強硬に迫っておいて、仮面を取ったら悲鳴を上げて一目散に逃げるってのは人としてどうなんでしょう。いえ、そこが幼いクリスの限界だったのかも知れませんが、その後のファントムの嘆きっぷりを見ると流石に同情せざるを得ませんでした。例えファントムの歌がジャイアンだったとしても。
虚無や絶望に彩られたロイド=ウェバー版のファントムの結末に対し、コピット版ファントムの結末は状況はどうあれ愛情に満ち足りており、こういうファントムもありだ、と思わせてくれて、物語としては面白かったです。曲も良かったですし。また、演出も光と闇の使い分けが美しく、決して悪くはありませんでした。それだけに、今度宝塚以外で再演する時は、もっと歌えるファントムとクリスをぜひキャスティングしていただきたいと思います。歌えないとあの楽曲があまりにもったいないので。
それから、私(1階C列センター)のすぐ前の列で、カテコでスタンディングして「たかおさーん!」「ブラボー!」と絶叫していた2人連れの女性。ほかのブログの感想を見ると、どうも大阪にも同様のスタンディング&絶叫集団がいたらしいので、もしかして私の前列辺りがファンクラブ席で、カテコではあれをやりましょう、という申し合わせでもあるのか?と穿ってしまいました。席は別でしたが当日同じ劇場で観劇していた友人(山口さんファン同好の士でもあります)と、「あれとは一緒にされたくない」ということで意見が一致いたしました(当然カテコで絶叫したことなどありません!)。主演の歌がああじゃなければめったにそこまでの気持ちにはならないんですけどね……。