日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

宝塚歌劇 花組東京宝塚劇場公演『ポーの一族』千秋楽 ライブ中継感想(2018.3.25 15:30上映)

キャスト:エドガー・ポーツネル=明日海りお シーラ・ポーツネル男爵夫人=仙名彩世 アラン・トワイライト=柚香光 大老ポー=一樹千尋 カスター先生=飛鳥裕 老ハンナ=高翔みず希 レイチェル=花野じゅりあ フランク・ポーツネル男爵=瀬戸かずや ジャン・クリフォード=鳳月杏 バイク・ブラウン/バイク・ブラウン4世=水美舞斗 メリーベル=華優希

ぜひ一度観たいと願いながらもことごとくチケット抽選に外れ、観劇が叶わずにいた花組ポーの一族』。何とか流山おおたかの森のTOHOシネマでのライブ・ビューイング(LV)に滑り込むことができたので、観に行ってまいりました。ちなみに人生初のLVです。
脚本・演出は小池先生。あまりにも名作過ぎる原作を、いじり壊したり、逆にアレンジを恐れて半端になっていたりはしないだろうか? とどきどきしながら上映(上演)に臨みました。

おお、LVって意外に映像が綺麗! というのが第一印象でした。無論生舞台の迫力や質感には及ばないまでも、オペラグラスを使わずに生徒さん方の表情を追えるのはありがたいです。
物語は原作の主に「メリーベルと銀のばら」及び「ポーの一族」の2編に準拠しつつ、他の編の要素も取り込み、舞台という表現形態や宝塚の約束事*1に合わせて、後半の主な舞台を人の行き来が多いホテルに変更するなど大胆にアレンジしている部分も多く、それでいて原作のイメージを壊さない、割合にバランスが取れた仕上がりであったと思います。

ポーツネル男爵の「エドガー、ガラスに映っていない!」やメリーベルの「時をこえて遠くへ行く?」、エドガーの「きみもおいでよ、ひとりではさみしすぎる」などの名台詞、名場面の数々もいい感じに散りばめられていました。
そしてなんと言っても、「青い、青い目」を持ち妖しい美しさを放つみりおさんエドガーを筆頭に、バンパネラ達(ポーの一族)の華麗なことと言ったら! あの麗しさ加減は宝塚ならであると思いました。華優希さんのメリーベルも実に可愛らしいです。
柚香光さんのアランは声が低く、原作を読んだ個人的イメージとしてはアランの声はもう少し高めなので、若干違和感がありましたが、眼差しに独特の猫系の色気が漂っていて、しばしばロックオンされておりました。

舞台化に当たってのストーリーのアレンジについては、前述のとおりイメージを損ねないよう配慮はされていますが、かなり大胆な変更もなされていました。

例えばエドガーがシーラと最初に出会った年齢が、原作では幼年期(20歳のシーラより10歳以上下)、舞台では一族に加わる直前(14歳ぐらい)と大きく異なっており、エドガーがシーラに対し、初恋未満の淡い慕情を抱く展開になっています。そのためか、ポーツネル男爵のエドガーへの感情に、正統な血筋を持つが生意気な義理の子を持て余す気持ちに加え、どこかシーラを巡るライバル意識のような心情も加わっているように見えて面白かったです。
とは言え、シーラの婚礼とメリーベルを守るための離別、そしてエドガーが一族に加えられ、ポーの村を去るまでの、原作の「メリーベルと銀のばら」では少なくとも5年以上にまたがっているエピソードがわずか数日間、下手したら2日間程度の出来事になっているのは、さすがに無理があるんじゃないかと突っ込みたいです。
なお、この時間経過の変更により、エドガーと離別した時のメリーベルもそれなりの年齢(11〜12歳ぐらい)になっているので、メリーベルがお空に放り投げられそうになることもありません。

ついでに「メリーベルと銀のばら」の後半のエヴァンズ家のオズワルドとユーシス兄弟のエピソードがかなり説明的に1場のみで片付けられたのもなかなか衝撃でした。あのエピソードはメリーベルの関係でスルーできない一方、クローズアップした場合ほぼ兄弟が主役になってしまうので、それを回避したかったのだろうとは思いますが、ちょっと駆け足すぎのように感じられました。

多分、この大胆なアレンジを許せない原作ファンも多いと思われますし、確かにこれはどうなのよ? と感じられる所もありましたが、まあ、舞台としての表現に作り替えるとこうなるんだろうな、と自分としては割と納得しています。

なお「大老ポー、消滅した!」「大老ポー、降霊術で召還された! バンパネラの魂は普通の人間とは違う場所に行く筈では? 何故?」というツッコミ所もありましたが、あれは自分的には、
大老ポー。あの爺さんレベルの妖魔なら『消滅したふり』とか『降霊されたふりして現れて、言いたいことだけ言って去る』とか難なくできるだろう」
という落とし所で一応納得しています。

歌部分の歌詞も「僕はバンパネラ」と歌うエドガーのソロなどは割とベタな感じでしたが、他は原作の台詞や世界観がうまく生かされていたという印象でした。

……これ以上書いていると延々とツッコミと妥協や納得を続けてしまうので止めますが、
「いやー、2.5次元舞台、しかも原作が古典的名作のものって、媒体変換の妙味が面白いけど、作る側も演じる側も、そして観る側も本当難しいね!」
というのが総括的な感想です。

でもこれは宝塚。どんな舞台であっても、最後にカップルがゴンドラ宙乗りして、三番手、二番手、そしてトップスターが華麗に舞い踊り、歌えば夢の世界は美しく締めくくられるのでした。
そして今回は千秋楽。花組の組長さんが4名の退団者(専科の飛鳥裕さん、花組の生徒さん3名)からの宝塚愛たっぷりのメッセージを読み上げ、最後にご本人方から生ご挨拶がありました。宝塚に詳しくない自分も思わずほろり。

LVから一週間。やはり生の舞台で観たかった、という思いは無論ありますが、諸事情で現地に行けなかったファンのためにこうして高品質の映像と音で、比較的家に近い場所で見せてもらえるのはやはりありがたいです。
特に現在、体調が不安定かつ思わしくない日が続いている立場になると、こういうイベントは本当に嬉しいので、ぜひ宝塚や新感線だけでなく、いずれ東宝ミュージカルも、とつい欲張りな願望を抱いております。東宝さん、ぜひ!(と、今度アンケートに書いてこよう)。

*1:生徒さん全員を出すために原作にはない登場人物がぞろぞろいる、男役スターにそれぞれ見せ場を設ける、など。