日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』観劇感想(2007/6/17ソワレ)

ジャン・バルジャン山口祐一郎 ジャベール=石川禅 エポニーヌ=笹本玲奈 ファンテーヌ=岩崎宏美 コゼット=菊地美香 マリウス=山崎育三郎 テナルディエ=三谷六九 テナルディエの妻=瀬戸内美八 アンジョルラス=岸祐二 ガブローシュ=新井海人

6月17日、ほぼ1年2ヶ月ぶりのレミゼを観に行ってきました。四季のJCSとマチソワでしたが、全く苦にならず。流石に翌日は少し疲れが残りましたが……。

山口さんはちょっと身体が細くなっていて、でも喉は好調のご様子で安心。ここ半年、ずっと人外のカリオストロの姿しか観ていなかったので、いやー、やっぱり普通(常人よりかなり波瀾万丈だけど)の人間役って良いなあ、としみじみ眺めておりました。司教様が下さった銀の燭台を死の間際に捧げ、ファンテーヌとエポニーヌに連れられて天に召される姿の神々しさはやはり素晴らしいです。

衝撃だったのは禅さんのジャベール。序盤は帽子をかぶっているから分かりづらかったのですが、市長様バルジャンと再会するあたりから急激におっさんくささが増していました。ジャベールってダーク&クールなイメージの方が強いんですが、禅さん、何と申しますかドスコイな、陰鬱な西郷さんみたいな感じのジャベールで。多分今回マリウス役もやるから両極端に変化を付けてるんだろうね、と、同行の友人と推測してはみましたが、それにしても驚かされました。

レミゼ通算2回目の私にもさすがに分かった2006年からの変更が二つほどありまして、まず序盤でバルジャンが「汗水たらしてこれかー!」でクビになった後に宿屋でお泊まりを断られる場面。それから、2幕のガブローシュ少年が撃たれる場面。ガブローシュの場面は悪評紛々と聞いていたのでそこまで?と訝しんでましたが、ひとつ、ふたつ、とガブローシュが数え歌を口にするごとに一発ずつ撃たれて、最後にいち、に、さん!でとどめを刺されるというのは、これは確かにあんまりだと思いました。ガブローシュ役の海人くん、かなり小柄だけど、歌も演技も普通に上手かったです。将来期待できるかも。

テナルディエ夫妻は三谷さんと瀬戸内さん。三谷さんは初役のせいか、まだ弾け切れていない感じ。瀬戸内さんはマダム・テナルディエの憎たらしさは良い感じなのだけど、もうちょっと「どこか憎めない」感が欲しいように思います。
テナ夫妻の宿屋のコゼット引き取り交渉の場面では、バルジャンが勢い余ってテーブルをひっくり返してました(笑)。最初新演出?とスルーしそうになりましたが、その後付け足しのように椅子を倒していたので、そういうことかと納得。場内からクスクス笑いが起きてました。で、テナルディエのおデコにお札を叩き付けて、コゼットにお洋服を着せてお人形を渡して抱き上げて十回転ぐらいぐるぐる回して場面終了。コゼット回しの場面は、バルジャンがファンテーヌへの義務を果たしただけでなく、愛を注ぐ対象を手に入れた大きな喜びが伝わってきて大好きです。

ファンテーヌと言えばスペシャル・キャストの岩崎さん。レミゼ2007では本当にスペシャル・キャストの日は取れなくて、今回が唯一だったので、じっくり聴かせていただきました。当たり前なんだけどテレビ等で歌っている時と違ってちゃんと舞台用の発声をされていて、高ーい声も難なく出るのは凄いと思います。ラブリィ・レイディの時のノースリーブの二の腕にはちょっとだけ実年齢を感じてしまい、今さんごめん*1、とか思ったりしてましたが、でも、バルジャンに看取られて息を引き取る時には本当に脆く儚いファンテーヌで目が潤んでしまいました。昨年観たのがちょっとたくましいシルヴィアファンテだったので尚更儚さを感じたのかも知れません。ファンテーヌではもう一つ、バルジャンが死の床でコゼットに「お前は私の子ではない、母から預かった子だ」と告げた直後にバルジャン(とコゼット)に向かって一歩踏み出す場面が好きです。

岸アンジョルラス。観る前は他のアンジョに比べると地味な印象で、実際強烈な個性というのはなかったんですが、堅実で頼りがいのあるリーダーという感じで意外に良かったです。でもマリウス結婚式での給仕姿はちょっと影が薄くて探しづらいものがありました。昨年の東山アンジョはもう少し目立ちまくっていたような気がしますが、演出の違いも多少影響していたりするのでしょうか。
新キャストの菊地コゼットも、グラドルコゼット、音大生コゼットが居並ぶ中では比較的地味ながら、綺麗な歌声で頑張ってました。後からプロフィールを見たら舞台歴はコゼットの中で一番長いのですね。
同じく新キャスト、山崎マリウス。プロフィール写真ではどこかあか抜けない感じでしたけれど、舞台上では全然そんなことは無く、歌も安心して聴くことが出来ました。今回の印象としては、マリウスってバルジャンに対する感情の、畏怖→忌避→悔悟→尊敬と目まぐるしい変化が見せ所の一つだと思うのですが、その辺の変化付けがまだ浅い感じ。でも、エポニーヌの想いは分かっていて知らんぷりしたのではなく、実は本当に分かっていなかったのかも知れない、と思わせる程、エポニーヌには実に優しい感じの山崎マリウスでした。

そして笹本エポニーヌ。先日渋谷で最高の「オン・マイ・オウン」を聴いてしまったので今回果たして感動できるのか?と不安でしたが、玲奈ちゃんは玲奈ちゃんの良さでしっかり聴かせてくれました。本当、日本の若手の中では実力派だと思うので、出来ればあと10年とか15年とかエポ役を続けてもらって、円熟の道をたどって欲しいものです。

それにしてもレミゼって、全体的にはそれぞれの人生の重さを描いていて、死者もたくさん出るというのに、何故か観た後の感想は爽やかという不思議な演目です。ラストが某MAのように自由という名の絶望でも投げっぱなしの感情でもなく、神の国に迎え入れられた者達による、生者を祝福する合唱であるというのが大きいのでしょうか。次のレミゼ観劇は2週間後なので、また違う魅力を見つけるために劇場に出向きたいと思います。

*1:今拓哉さん。岩崎さんの実生活におけるパートナーでいらっしゃるのでつい……。