日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』感想(2011.5.15ソワレ)

キャスト:
ジャン・バルジャン別所哲也 ジャベール=今拓哉 エポニーヌ=笹本玲奈 ファンテーヌ=新妻聖子 コゼット=折井理子 マリウス=山崎育三郎 テナルディエ=駒田一 テナルディエの妻=阿知波悟美 アンジョルラス=上原理生 リトルコゼット=蒲生彩華 リトルエポニーヌ=清水詩音 ガブローシュ=加藤清史郎

公演から時間が経ってしまいましたが、5月15日、レミゼソワレの感想です。この日が自分のレミゼ楽でもありました。SPキャスト公演の感想をブログにアップした10分後には帝劇1階N席上手サブセンに着席していました。
別所バルジャンは2年ぶりでした。前に観た時には歌も当然良かったのですが、どちらかと言えば人間臭いきめ細かい演技が印象に残っていました。
しかし今回再見した別所バルジャン、歌に表情があり、声量も力強いと感じました。一般に「歌の人」と思われている山口バルジャンが今期はとりわけ感情を深く掘り下げた芝居をしていたのとはまた対照的です。
もちろん細かい芝居も健在でした。司教様のパンも床に膝をついてしっかりガツガツと食べていました。吉原バルジャンは存じませんが山口さん、今井さんはここでは食べる仕草のみしています。
あと心なしかリトコゼの扱いが丁寧な気が。私生活を重ねてはいけないのかも知れませんが、やっぱり実際にお嬢様をこんな風に大事にされているのかな、とちょっと思いました。
今ジャベールは、昼間観た鹿賀ジャベールがかなりストイックで枯れたイメージだったためか、実際以上にホットでサディスティックに見えて仕方がありませんでした。
「対決」でバルジャンが椅子を壊した瞬間、それ見ろ、正体見たり、とばかりに哄笑するのがツボです。また、これは以前友人が気づいたのですが、2幕で捕虜にされ「好きな時に撃て、子供の遊び!」と毒づく瞬間、彼のジャベールだけガブローシュを睨み据えます。この辛辣さと武士(もののふ)の矜恃が良いのです。

そして今回の最大の目当て、聖子ファンテと玲奈エポ。
ファンテは、演じる新妻聖子ちゃんのイメージ的に、バマタボアを蹴り倒して簡単に死にそうにないファンテになったらどうしよう、と随分失礼な心配をしていましたが当然そんなことはなく、見事、芯の強さと儚さを同時に兼ね備えたファンテを演じ切っていました。
「夢やぶれて」では期待どおり、聴く者の脳裏に情景がありありと浮かび上がるようなドラマティックな歌を聴かせてくれたと思います。娼婦姿の時の意地だけで立っているような歌声も、臨終の時の柔らかな歌声も、いずれも儚く美しかったです。
玲奈エポは芝居は細かくなったけど、歌はあまり変わらないかな?と1幕で思いきや、2幕の「オン・マイ・オウン」で実に表情豊かな歌を聴かせてくれました。個人的に彼女の声には聴かせどころの力みに癖があって、そこがいつも気になっていますが、今回はそんなに気にならなかったです。
「恵みの雨」も山崎マリウスと合っていて良かったと思います。歌だけでなく、どう動いたら客席にエポの心を伝えられるか、歌穂エポは別格として現エポのなかではやはり一番配慮が細かいと感じました。原田マリウスとのペアもできれば観たかったです。
山崎マリウスは久方ぶりに観ました。情が強くはっきりしている原田マリウスに比べるとおとなしく見えて、そこを「浅い」と感じる向きもあるようですが、私は決してそうは思いません。
彼のマリウスは内省的だと思いました。不器用で、仲間に思いをすらっと上手に伝えることができなくて。だからエポニーヌを喪った時もアンジョにはしがみつかず1人うつむき限界ギリギリになっていて、アンジョに「少し休め」と言われたら抵抗せず素直に砦を降ります。
そんな彼が仲間を亡くしてみて初めて、彼らの存在に自らがどれほど救われ慰められていたかを思い知り、決して仲間に伝えることのなかった思いを吐露し痛飲するのが山崎マリウスの「カフェ・ソング」であると解釈しました。二度と同じ思いをしたくないから、次の場面でのコゼットやバルジャンへの思いもより深くなるというものです。
受けて立つ折井コゼットは、凛と美しかったです。折井さんはアンサンブルの時に可愛い子だなあ、と思って観ていましたが、真ん中に立つと決して飛び抜けた美女ではないなあ、と失礼ながら思っていました。でも今回は本当美しかった!コゼットの心根の綺麗さが涼やかな声にも佇まいにも体現されていると感じました。
もう1人、上原アンジョ。やっぱり砦から「これから落ちますよー」という落ち方をしていて、いやー、あの落ち方って難しいんだな、と改めて実感。でも、アンジョとしては本当力強く男前で、目力もあるしはまり役だと思うのです。マリウスとの関係は、対・山崎マリウスの場合は保護者っぽく見えました。
アンサンブルの中でいつも何となく気にしているグランテールは、今回は土屋さんでした。渋く静かに熱く感情を伝える石飛グランと対照的に、動きの多いのが土屋グラン。と言ってもプリンシパルの見せ場ではどうしてもそっちを観てしまうので、見逃している動きが大半なのですが。ガブローシュが弾を取りに飛び出した時に彼の名を呼び絶叫し、彼が殺されると激しく地面に伏せて慟哭する土屋グラン。石飛グランはここでは叫ばず、静かに机に突っ伏して泣きます。でも2人ともアンジョを喪った後の死に様は激しい。どちらも紛れもなくグランテールだったと思います。何当たり前のことを言ってるんだと言われそうですが(^_^;)。

……付け足しのようで申し訳ありませんが、清史郎ガブ。歌、他2人のガブに比べると弱めですが、上手くなったと思います。鞄投げもしっかり学生に届いていました。というか今期のガブ3人とも、鞄が届かなかったのを見たことがありません。学生役の人のキャッチが上手いのもあるでしょうし、偶々私が観る回がそうなのかも知れませんが。

カーテンコールでは、噂には聞いていましたが、別所バルジャンとマリウスがコゼットの取り合いをしていました。結局最後は別所バルジャン、聖子ファンテをお姫様抱っこして退場していましたが。
……何だか、もう自分のレミゼ観劇が今回でラストだったと未だに信じられません。もっともっと「最後の盆演出」をくまなくじっくり観ておきたかった、という気もしますが、ほどほどぐらいでこういうのはちょうど良いのかも知れません。書き忘れが山ほどありそうですが、ひとまずこの辺にて。