日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』映画版感想

12月28日、日本封切りから1週間経ってようやく、仕事帰りにレイトショーで『レ・ミゼラブル』を観てまいりました。
翌日も出かける予定が入っていたこともあり、その日の午前中までは鑑賞を予定に入れていなかったのですが、朝食時にテレビに映った映画のCMを指をくわえて眺めていたのを連れ合いが気にしたのか(自分も観たかったらしい)、気づいたら終業後に映画館に行くことになっていました。しかも何故か地元ではなく隣県の映画館に。
ということで、以下、なるべく大きいネタバレを避けつつ感想にまいります。申し訳ありませんが小さいネタバレはあります。
基本のストーリーは舞台版にほぼ忠実でした。舞台上の場面をそのまま映画に引き写しすると不自然または説明不足になってしまう展開の補完や、映画ならではの省略せず生々しかったりスペクタクルだったりする表現がいっぱいありましたが、それらが元のミュージカルの魅力を全く損ねていないどころかむしろ引き出していて、非常に見応えがありました。
例えば映画用書き下ろしのバルジャンのソロ曲“Suddenly”。「これ山口バルジャンで聴きたい」と思ったぐらいには素敵な曲なのですが、舞台版では多分、なくても成立する曲です。でも映画では実に絶妙な位置にこの曲が挿入され、心が震えさせられます。
あと誰かさんに馬でパカランと追い回されて別の誰かさんがロープアクションする場面は、舞台で、特に日本版で誰かさんがあれをやるかと思うと肝が冷えるので(笑)、できれば映画だけにしておいて欲しいです。
それから、いくつかの曲の歌詞が一部カットされていたり、曲順が舞台版とは変えられていたりしていました。あえて曲順を変える必然性がどこまであったかはさて置いて、
「お、この曲をこのシチュエーションに持ってきて客を泣かせようとするか」
「この場面でこの人に信念を誓わせるか」
「あの人はお迎えに来ないけど代わりにこの人が来るなんて嬉しい」
など、舞台版の展開をすっかり覚えている人でもかなり楽しめるかと思います。
加えて、キャストの皆様がまた、舞台中心に活動されている方も含めて厳選されただけあって、歌唱力を十二分に発揮してくれているのが嬉しいです。特に、バルジャンを演じたヒュー・ジャックマン。私はこの方の映画を観たことがありませんでしたが、改心前のバルジャンの余裕のなさ加減も、市長になった「きれいなバルジャン」も、コゼットを得た後の使命感に満ちた雰囲気も、そしてマリウスへの思いが嫉妬から慈父に変化していく過程も、全部「バルジャンそのもの」だと感じました。まさか彼の「彼を帰して」があれほど心に響くなんて。
ラッセル・クロウのジャベールは、日本版の岡さんや今さんのイメージを抱いている方は、ちょっとびっくりするかも知れません。雰囲気は叩き上げの軍人系の渋いおじ様。信念が真っ直ぐ強すぎるが故に気づいたら神の道への謙虚さを見失っていた悲しい人。日本版だと禅ジャベールの役作りが少し近いような気がします。ガブローシュの遺体にそっと勲章を捧げる場面が個人的にツボっています。
アン・ハサウェイのファンテーヌは、ラブリィ・レイディの一連のシーンでの堕ちていく演技と汚れっぷりに圧倒されました。髪を切られる時にぽろぽろたれ落ちる涙と、初めて客を受け入れた時に静かに頬を伝う涙、そして「夢やぶれて」が強烈に心に焼きついています。
リトル・コゼットの可愛らしさにもやられました。よくぞ大人コゼットにそっくりでしかも可愛い子を探してきた!と賞賛を送りたいです。
もちろん大人コゼットも美しかったです。金髪で、マリウスとの並びとハーモニーの綺麗なこと。
マリウスも、マリウスそのものでした。堅物だけどどこか一本抜けている所もそうですが、エポニーヌに髪を触れられた時の照れと戸惑いと驚きの入り混じった笑顔が、ああ、マリウスだなあ、と。地下水道での状況が、映画では舞台の何十倍もハードな状況で、よくあれを乗り越えて生き延びてくれた!と違う意味で感動しました。
レミゼロンドンキャストから起用されたエポニーヌ。力みのない歌声が好き。そしてあのうらぶれ感がたまらないです。「オン・マイ・オウン」ではそこまでうらぶれさせなくても、と少し思いましたが(^_^;)。
ガブローシュも可愛かった!原作ではエポニーヌの弟らしいですが、映画の子はどちらかと言えばコゼットの弟っぽい雰囲気(あくまで見た目)。舞台版より役割が一つ増えていました。その分エポニーヌの仕事が一つ減。これは映画を観てもらうと分かるかと思いますが、舞台よりも一層無駄死に感が強くて、泣けました。
テナルディエ夫妻。悪行への罪悪感0な雰囲気が充満していて良かったです。ファンテーヌやっぱり里親を見る目がない(^_^;)。ヘレナ・ボナム・カーターのマダムテナが、美人で色っぽいのにどこでこの人道を間違えたのかしら?という見た目でした。最後までコゼットの名前を覚えようとしない旦那にいちいち言い直してあげるのが可笑しいのです。
そしてアンジョルラス!私はパリの雑踏にアンジョルラスとマリウスが颯爽と現れるあの場面が大好きなのですが、彼はしっかりその瞬間からアンジョルラスしてくれていました。
グランテールも酒瓶を持ってちゃんと登場。舞台だと髭面のイメージが強いですが、映画の彼は酒と女にだらしなくもどこか可愛らしい雰囲気でした。舞台版での彼とアンジョルラス&マリウスの微妙なトライアングル感が好きなのですが、映画にはそれはあまりなかったような気がします。その代わり、最後に追い詰められたアンジョルラスにグランテールが!……と喜んでいたのですが、友人から「あれはクールフェラックでは?」という指摘があり、自信が揺らいでいます。登場時からグランテールにロックオンしていたので、間違いないと思うのですが……。
そんなわけで、これは再度観に行って確かめなければ!という思いに駆られています。いえ、グランテールだけでなく、司教様(初演キャストのコルム・ウィルキンソン!)にももう一度お会いしたいですし、あの映画ならではの壮大な「民衆の歌」に心を洗われたいと思っています。