日々記 観劇別館

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『マリー・アントワネット』観劇感想(2006/12/24ソワレ)

キャスト:マリー・アントワネット涼風真世 マルグリット・アルノー新妻聖子 アニエスデュシャン土居裕子 アクセル・フェルセン=井上芳雄 ルイ16世石川禅 ボーマルシェ山路和弘 オルレアン公=高嶋政宏 カリオストロ山口祐一郎 ルイ・ジョゼフ=桝井賢斗 ルイ・シャルル=大久保祥太郎 マリー・テレーズ=黒沢ともよ

直前に大事件こそありましたが、どうにかM.A.前楽を観ることができました。

はじめに、カリオストロについて、ファンのひいき目で思い切り贅沢を言わせて下さい。
この2ヶ月間、何のためにいるか分からないだの要らないだの、もっと原作に近づけて駒田さんあたりが演じてくれた方が良かった(と、本当にどこかのブログに書いてあったんです。)だのとそしりを受けながら、山口さんは生まれて半世紀経ったとは到底思えないすらりと美しい立ち姿と脚線美(という言葉を男性に適用して良いのかは不明)で、錬金術と言い張って(笑)この世のあらゆる事象を操るミステリアスな魔術師を演じてくれました。原作のカリオストロとは全く別人だけど(サンジェルマン伯爵がモデル?というShelkさんのご推察がありました。)、極めて心そそるキャラクター設定――の筈です。なのに何故役不足と感じてしまうのでしょう。
あの役は山口さんだからこそ超人感が醸し出されているとは分かっているのだけど。難解なメロディラインを魅力的に聴かせてくれることにも満足しているのだけれど。途中でカリオストロの存在感が増すよう演出は変えてくれたけど。でももうちょっとケレン味たっぷりに出張って輝いてくれて、水晶玉の中の世界にぐいぐい食い込んでくれて良いのに、と、5回の観劇を通じて思いは強まるばかりでした。1〜2月の地方公演を経て、4月の帝劇リターンではもっともっと黒い輝きを放っていて欲しいと願っています。

……そんな我々の気持ちを汲んで下さったのかは分かりませんが、25日の帝劇千穐楽のカテコでは、何と山口さんが“White Christmas”を一節披露される場面があったそうです。M.A.公式ブログの記事にも、この場面の映像がアップされていました。自分のような場末の俄ファンがこれだけ文句を言っているということはつまり、興行主には想像も付かない量の文句が押し寄せているであろうことは、素人にも容易に推し量れます。そんな中でそれでも劇場に訪れてくれた観客への、山口さんなりのせめてもの感謝の気持ちがあの歌だったとすると、嬉しいような物寂しいような、そんな複雑な心持ちであります。
とにかく今は、お疲れ様でした、とだけ申し上げたいです。来月からは博多座公演。遠征は出来ないけれど、遠くから活躍を見守っています。

さて、前置きが長くなりましたが、マイ・ラスト・M.A.のカリオストロ以外の何名かについての感想です。
まず、聖子マルグリット。今回も、信義と人情との間で振り子のように揺れ動いて熱演していました。とかく脚本の上で、心情の変化が唐突すぎて分かりづらいと言われがちなマルグリットですが、聖子マルグリットは豊かな表現力で脚本を遙かに飛び越えてくれました。聖子ちゃん、ありがとう。あなたという役者を知ることが出来たのは、数少ないM.A.観劇の収穫です。リターン公演で最初に観るのは笹本マルグリットで、彼女にも是非成長していてほしいけれど、あなたの公演も必ず観に行きます。
オルレアン公。いつも歌の前半に比べて後半が弱くなるのは聴いていて辛かったけれど、独特の不気味な存在感が灰汁のように心にこびりついています。終わってみると彼のソロばかりが頭の中を駆けめぐっているのは、決して嫌悪感からではないと信じたいです。
ボーマルシェ。あの重たいストーリー展開の中の、数少ない軽妙さに救われました。カリオストロが要らないのではなく、邪魔なのはあんたじゃ、と思ったことも実はありましたが、12月以降はそうは思わなくなりました。二幕の後半で自分の播いた種が地獄を産み出したと悟る場面が好きです。また、演じていた山路さん。楽の挨拶映像で子役を労っている姿を見て、あー、ええ人や、と思いました。
ランバル夫人。あなたの金属的でない高音の歌声をもっと聴きたかったです。マダム・ラパン。マルグリットとの交流の場面がもう少しあれば、皆彼女の処刑をきっかけにしたマルグリットの怒りぶち切れにもっと納得したと思います。

ルイ16世。何て美味しい役だと思いながらずっと観ていました。その美味しい役を無駄にすることなく演じてくれた禅さん。前も申しましたがエリザの時より自分的にはポイントが高いです。子供たちを想う牢獄の場面が出色。
フェルセン。美味しい役なのはルイと一緒なのだけど、美味しすぎて、同時に貴すぎて他から浮かび上がっている感じでした。良くも悪くも「王子様」。それでも、井上君、歌上手くなったなあ、と毎回感心しながら観ていました。まだヒゲのおじーちゃん50歳には及びませんが(笑)。
そしてマリー・アントワネット。一幕のバカ女ぶりには何度観ても同情できず、その分二幕で虚飾をそぎ落とされる毎に「王妃」に成っていく迫力に毎回引きつけられました。11月の時点で既に涼風さんの演技が完成されていたので、上演中に目立った変化というのはありませんでしたが、安定感は抜群だったと思います。

舞台装置については割愛。リターンの際、少しでも帝劇仕様になることを願っています。これで何にも変わってなかったら、演出家が相当に頑固だったと思って諦めることにします。

ちなみにこれが今年の観劇納め。M.A.って一回観終わる毎に、爽快感ではなくどっと疲労感を覚える演目でしたが、24日も例外ではありませんでした。それはもう、帰宅後の真夜中にカットケーキをバカ食いして、糖分補給に努めてしまった位に。お陰で翌日胃もたれで大変なことになってしまいました。