日々記 観劇別館

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『マリー・アントワネット』観劇感想(2006/11/11ソワレ)

キャスト:マリー・アントワネット涼風真世 マルグリット・アルノー笹本玲奈 アニエスデュシャン土居裕子 アクセル・フェルセン=井上芳雄 ルイ16世石川禅 ボーマルシェ山路和弘 オルレアン公=高嶋政宏 カリオストロ山口祐一郎

先週土曜日の夜、2回目のM.A.を友人2人と共に観てきました。

まず前回の観劇について訂正です。「パンがないならケーキを食べれば」という台詞は王妃ではなく取り巻きの王族(?)の女性から発せられていました。まあ、誰の口から発せられようが、かなりベタな台詞であることには相違ありません。

玲奈ちゃんのマルグリットは初見でした。歌声のパワフルさはWキャストの聖子ちゃんと甲乙付けがたいです。でも、どこがと言われると困るけど、マルグリットのカリスマ度(民衆盛り上げ度)は玲奈ちゃんの方がテンション高く表現できているような気がしました。

カリオストロが何のために居るのかわからん、という感想をよく見ますが、個人的にはちゃんと舞台上の全ての出来事の黒幕役を果たしていると思います。難を言うなら、カリオストロが登場人物の周辺に控えてはいるけど人物に直接は干渉せず(事象には干渉しますが)「外の人」に徹しているのに対し、もう1人の狂言回しボーマルシェが物語の弁士のようにしゃべくり、時には物語に軽々入り込んで動き回るので、カリオストロの存在がやや地味になりがちなことでしょうか。もし演出家さえそれを許してくれるなら、12月の楽近くには存在感ばりばりで観客を納得させるようなカリオストロになっていて欲しいです。
と言いながら、最初の幕が上がった時の回り舞台でのすらりとした立ち姿のカリオストロには目を奪われてしまいます。また、今回は1階席だったので客席降りも楽しめました。カリオストロが降りたのは上手側で、私の席が下手側だったのはやや残念ではありましたが。

M.A.を観ても歌に印象的な物が少ないのは、どうも自分が音痴な為だけではないらしいことにようやく気づき始めました。一緒に観た友人達とも話したのですが、音楽自体は流石リーヴァイさんの手になるだけあって、メロディの耳当たりなどはむしろ素敵な曲の部類に入ります。ところが芝居の中にあまりに曲がとけ込みすぎているのか、歌が強烈なメッセージを持って響いて来ないのです。いやしくもミュージカルなのだから、もっと歌声で演技するというか、登場人物の心の動きの全てが込められているようなそんな曲が1曲ぐらいあっても良かったのにと思います。
後日聞いたところによれば、演出家の栗山さんはこれまでストレートプレイのお仕事を主にこなされてきて、本格的なミュージカルの演出は今回が初めてなのだそうです。確かに芝居の骨格は良く出来ていますし、脚本執筆段階から打ち合わせに参加しているだけあって、フェルセンの「気球が行ってしまいました……」など印象的な台詞もいくつかありましたが、台詞と音楽とを均等に散りばめようとしつつ、音楽をまだ自在には転がし切れていないようにも見えました。

今回印象強かったのは、王妃を演じた涼風さんです。1回目の時は一部高音を歌い切れていないように見受けられましたが、今回は全くそんなことはありませんでした。演技についても、特にラスト近くに処刑台の手前で佇みざんばらに切られた髪の毛をなでつける際の表情には背筋がぞくぞく来ました。冒頭の無邪気な残酷さから誇り高さ、フェルセンへの想い、夫や子供達との別離を経て、全てを心に閉じこめ静かに死に向かう王妃の心の変遷を見事に演じきられていると思いました。

だからこそ、カーテンコールで王妃を白装束のままで居させるのは止めて欲しいのです。演出家としては既成のミュージカルを否定し、演劇人として新しいものを作り上げたい、だから、ある意味最もミュージカルらしいと言えるカテコという約束事を豪華な衣装という飾りで覆うことをあえてしないのかも知れないですし、また、テーマを観客側に突き放してそれぞれの考えに委ねるというラストに余分なオマケを付けたくないのかも、とも推量します。
それでも私は、毎回素晴らしい演技をされているタイトルロールの涼風さん、Wキャストの聖子ちゃん・玲奈ちゃんを始めとするキャストの皆さんに笑顔で拍手を送りたいです。とりわけ王妃として虚飾を捨てて死んでいく涼風さんは、最後ぐらい綺麗なドレスに着替えてもらい、王妃としてではなく役者としての健闘を称えたいです。ここは帝劇という商業演劇の殿堂であって、実験演劇や社会派演劇の劇場ではないのだから、決して贅沢な望みではないと思うのですがいかがでしょう。セットが殺風景で(いや、その殺風景さ自体は演出上成功していますが)、小道具からもリアルな豪奢さを一切排除している、別の言い方をすればしょぼいのは我慢するからせめてカテコだけでも何とか……というのは言い過ぎでしょうか。

――今回の感想は、友人達と観に行って、その場、そして後日に渡りわいわいと話し合いながら頭の中で練られて醗酵されたものです。そんなこともあって、あまり生々しくない内容になってしまいました。M.A.の場合、個々の登場人物に手放しでキャーキャー思い入れられないというのも大きく影響しております。
どうも原作のM.A.では後半でシスター・アニエスが大活躍するらしく、原作を読了した友人達によれば、舞台でのアニエスの出番が少ないのは残念至極ということです。元々4〜5時間分の脚本と曲があったのを、演出家が打ち合わせでかなり刈り込んだらしいので、もしかするとその中にアニエスのシーンが入っていたという可能性はあります。私自身まだようやく上下巻の原作を上巻まで読み終えたところなので、次の12月の観劇で突っ込みを入れる為にも、それまでに是非読了しておきたいと思います。