日々記 観劇別館

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『時をかける少女』感想(ネタバレ注意)

先週土曜日に、アニメ版『時をかける少女』を観てきました。
映画も観劇の一つということで、感想を記しておきます。かなりネタバレを含みますのでこれから観るつもりの方はご注意を。

大ざっぱなストーリーは原作と一緒で、いつも何となく2人の同級生男子(功介、千昭)とつるんでいる女子高校生(真琴)が理科室でのアクシデントをきっかけにタイムリープ能力を持ってから、その能力により引き起こされた数々の事件を経て、恋に目覚め、別れ、能力を失うまでの経験を描いたものです。

ちなみに当方、原作は昔の原田知世の表紙の角川文庫で読み、映画はテレビ初放映時に見た世代です。時かけ=知世ちゃんという刷り込みが出来上がってしまったため、その後の映像化作品は黙殺していました。懐かしのNHK少年ドラマ『タイムトラベラー』は未見です。
そんなこともあって、今回のアニメ版の評判が高いという話を聞いても、心の片隅で不安を払拭できないままに映画館に出かけたのですが……結果、映画館を出る時には観に行って良かった、と心から思える、後味のさわやかな内容でした。

何しろ能力を得た真琴が、有頂天になって能力を使いまくるのが楽しい。考えるより先に体力任せに突っ走る莫迦っぷりの描写が素敵。その能力は最初主に、成績アップなど自分のため、そして3人組の楽しい時間を長く過ごすために使われるのだけど、やがて能力を使って彼女の運命が変わるだけでなく、周囲の人間の運命をも大きく歪めてしまうことが判明。動揺した彼女は今度はそれら人物の運命の辻褄を合わせるためにタイムリープに奔走、と言った具合に、疾走感たっぷりの展開でした。彼女の叔母という設定でもある「魔女おばさん」こと原作ヒロインの芳山和子が、動揺しつつも初めから冷静に事態を受け入れ、解決に向けて対峙していったのとは対照的です。

もう一つ、真琴はとある人物からの重要な告白を受けるのですが、その言葉と自分の感情を受け止めきれずに能力を使って強引に逃げ出してしまいます。ある事件を経て、そのことを激しく悔やむことになるわけですが、
「待ち合わせに遅れた人がいたら相手を走って迎えに行くのがあなたじゃないの?」
という和子の言葉に触発され、最後に残された能力をその人物を救い、正面から対話する為に使います。
この対話シーンが実に味わい深いです。肝心の一言はついに出てこないのだけど、その分2人の感情が十二分に伝わってきますし、一旦「これで終わり?」と思ったらどんでん返しもあったりしますし。

最も大きく原作と異なるのは、主人公の記憶の扱いでしょうか。終盤で真琴は自らの将来についてある決意をしますが、その決意は記憶が消えていたら多分成り立たないと思われるので、今回真琴の記憶が消されなかったのは正解かと思います。ただ、和子の記憶が残っていたのかは不明。「誰かを待つ」という意志だけは残されているのは確かですが、その「誰か」に関する記憶があるのかは、今回の映画からは分かりませんでした。
#高校時代の写真をしっかり取ってありましたし、真琴の能力を知っても全く驚かなかったことから、記憶も残っていると考えるのが自然かも知れませんが。

ところで、真琴の能力により最大のとばっちりを喰らい、ついに暴力沙汰を起こしてしまう同級生の高瀬の声の役がベテラン松田洋治さんであったことに気づいたのはエンドロールにお名前が出た時でした。うわぁ、道理で徐々に狂気を得ていく演技に迫力があった筈だわ。