日々記 観劇別館

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『笑う男』初日感想(2019.4.9 18:00開演)

キャスト:
ウィンプレン=浦井健治 デア=夢咲ねね ジョシアナ公爵=朝夏まなと デヴィット・ディリー・ムーア卿=宮原浩暢 フェドロ=石川禅 ウルシュス=山口祐一郎 リトル・グウィンプレン=下之園嵐史

日生劇場にて『笑う男』の初日を観てまいりました。

実は観劇前に国立国会図書館のデジコレで原作の「結末のみ」を知ってしまうという大失敗を犯したのですが、見終わってみると結末を知っているか否かはあまり関係なかったように思います。

この物語で最もハンディキャップと悲劇を負っているのは生まれながらに目の見えないデア、そして「笑う男」グウィンプレンの筈なのですが、グウィンプレンにはあまり「可哀想」という感じは受けませんでした。

根深いコンプレックスを抱きつつも強かに振る舞い、運命に翻弄されながら結局は自分の意思を貫く彼のキャラクターもさることながら、何よりも最後の彼の行動に(結末を知っていても)、「何故父さんを置いていくー!?」と異議を唱えずにはいられませんでしたので。

もちろん、「デアを再び独りぼっちにしたくなかったのだね」「彼女が君の生きる意味だったんだね」と、自分なりに彼の心情を推し量ることはできます。ただ、ウルシュス父さんの嘆きの深さがあまりにも悲しすぎる!

だって、序盤であんなに世をすねた様子でぼそぼそとぶっきらぼうに振る舞っていた、しかも原作では狼しか友達がいないらしいウルシュス父さんが、2人の養い子を守り食べさせるために旅芸人一座まで結成して、健気に生きてきたんですよ! 健気という言葉が、そこそこ良い年齢の男性に相応しいかは分かりませんが😅。しかも父さん、2幕では涙が鼻から洪水になるほど嘆き悲しんでいたというのに、息子よ、君はなんてことを!!

……すみません、ついウルシュスに強く肩入れしてしまいました。少しクールダウンして音楽の話をします。

この作品の作曲家はフランク・ワイルドホーン。ワイルドホーンさんと言えば、次々に畳みかけるように攻めてくるドラマチックな曲調。そしてプリンシパルとアンサンブルの別を問わず、歌い手の技量が試されそうな非常に難解な旋律。『笑う男』も例外ではありませんでした。キャストの皆さま、お歌は問題なさそうな役者さんばかりですが、感情を載せつつあのメロディーを歌いこなすのは大変だと思います。

また、『笑う男』はデュエットソングが美しい演目でもあります。
1幕の劇中劇と2幕終盤で歌われるグウィンプレンとデアのデュエット「木に宿る天使」、グウィンプレンとウルシュスのデュエット「幸せになる権利」が特に心に残りました。
特に後者。もしかしたら、浦井くんと山口さんのガチ声量対決デュエットは、トート&ルドルフ以来? と記憶を巡らしながらどっぷりと聴き入っておりました。

お芝居の感想に戻りますと、『笑う男』は原作をほぼ知らず、演目も初見であったことも手伝って、貴族たちの設定に一部よく分からないところがありました。例えば、
「あれ? デヴィットは結局グウィンプレンとどういう関係?」(これは私が聞き逃しただけで明確な回答が劇中にあったようです)
「フェドロってジョシアナの家来だったよね? なぜデヴィットの家にも普通にいるの? 単に目の前のチャンスに何でもコバンザメしてるだけ? あとただコバンザメしてただけなら、なぜジョシアナから裏切者呼ばわりされるの?」
などなど。

「裏切者」呼ばわりについては、原作を読了した方のブログを拝読した限りでは、原作のジョシアナはグウィンプレンより一回り以上歳上で、彼に魅力は感じていても婚約を知った後は興味を失ってしまったとのこと。つまり結婚話は意に添わなかったということなのかなあ? と思いましたが、舞台のジョシアナはグウィンプレンが逃げた後で自分の運命を嘆いているので、ちょっと分かりにくかったです。

まだ北九州の大楽まで1ヶ月半。この演目、演出家(上田一豪さん)が試行錯誤している感が伝わってくるので、プレビュー公演を何日かやりながら枝葉末節を整えていくぐらいのスケジュールでちょうど良かったのでは? と思う一方で、どこか中毒性がある演目のようにも感じられます。

若い二人とウルシュス一座を包み込む優しい光と影、貴族社会のキッチュさと厳かさに満ちた空気を醸し出す、奥行きのある舞台装置。劇中音楽のメロディーの美しさ。それからなんと言っても、ウルシュス父子の愛情深さ。

劇場でパンフを購入したところ、浦井くんとWデアのお二人との鼎談で、初めての通し稽古を終えた時に山口さんが大号泣した、というエピソードが紹介されていて驚きました。いみじくも劇中でウルシュスが「歳を取ると涙もろくなって……」と呟いていましたが、それだけではなく、演じる2人の強固な信頼関係があってこそのウルシュスとグウィンプレンの強い絆が、この演目の見所の一つであると感じられた一件でした。

また、父と息子だけではなく父と娘の場面についても、印象に残っています。盲目で心臓の弱いデアを大事に慈しむウルシュスにとっても、彼に呼応するようにデアを守り支える一座の仲間たちにとっても、デアは愛すべき大切な天使であったのだと思います。彼女を襲った運命は過酷ではありましたが、デア自身はラストで愛情に満たされていたであろうことが、この残酷で美しい物語の数少ない救いです。

以上、公演初日の感想でした。

初日のカーテンコールでは、キャストのご挨拶はありませんでしたが、作詞のヨハンソンさんと音楽のワイルドホーンさんのお二人からご挨拶がありました。内容はあまりきちんと覚えられておらずすみません。

次回の『笑う男』観劇は、今週土曜日の予定です。初日の時はストーリーを把握するのに没頭していて見えなかった様々な「気づき」が、この作品には隠されているに違いない、と楽しみにしています。