日々記 観劇別館

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ミュージカル『キングアーサー』感想(2023.01.28 13:00開演)

キャスト:
アーサー=浦井健治 メレアガン=加藤和樹 ランスロット=平間壮一 グィネヴィア=宮澤佐江 ガウェイン=小林亮太 ケイ=東山光明 マーリン=石川禅 モルガン=安蘭けい

新国立劇場中劇場にて上演中のミュージカル『キングアーサー』を観に行ってきました。

以下、一部、物語の重要な展開に触れています。結末には触れていませんが、ご注意ください。

本作はフレンチミュージカルで、演出は韓国版。ストーリーはアーサー王伝説がベースにはなっているものの、オリジナルキャラクターなども加えて大幅にアレンジされているようです。

作品の内容については、タイトルが「キングアーサー」なのに反して主人公アーサー以外の複数の人物の心情描写も多く、群像劇的に作られていました。何せ序盤からして、アーサーが見事に聖剣エクスカリバーを抜いて王に選ばれた直後にソロを取るのが、当のアーサーではなく、最強の騎士を自認しながら聖剣に選ばれなかったメレアガンなわけでして。

この物語は、いくら周囲が説得しようと何をしようと、自らの恨みや妬みに囚われてなかなか脱出できない人物が多いです。先ほどの騎士メレアガンもそうですが、アーサーの異父姉であるモルガンも同様で、しかもその恨みつらみのソロ曲もしくはデュエット曲がそれぞれ2、3パターン繰り返されるので、
「いや、貴方がアーサーを恨む理由とその行動を選ばざるを得ない動機は1回言えば分かるから。そんな何度もしつこく語らなくていいから」
という気持ちになってきます。

特にメレアガンは加藤和樹さん、モルガンはとうこさんこと安蘭けいさんというそれぞれに濃口なお二人が演じていて、いずれも(役柄が)粘着質で圧がすごかったので、殊更そう感じたのかも知れません。

なお私、モルガンが最初に登場した時、あまりにも真っ黒な魔女オーラが強烈だったためか、冗談抜きで「濱めぐさん、なぜここに?」と動揺していました。とうこさん、ごめんなさい。

また、強引に婚約させられていたっぽいメレアガンから乗り換えて、助けてくれたアーサーの婚約者になったグィネヴィアと、ふとしたことから彼女と両思いになってしまう「湖の騎士」ランスロット

グィネヴィアは正直見ていて、
「人間とは弱く移り気な生き物だのう」
という印象しかなかったのですが、ランスロット
「天使!」
と思いました。天使が道を踏み外す動機なんて、意外とつまらない女と言うかきっかけだったりしますよね……。

ただ、この2人の結末の持っていき方にはちょっと納得が行かずにいます。本当に彼らの魂の絆が永久に結ばれているのなら、果たしてわざわざ現世であそこまで悲劇的にする必要はあるのか? と疑問です。

それから、魔術師マーリン。本当に登場人物一覧を全く読まずに臨んだので、途中まで素で名前を「マリー」だと思い込んでいた自分……。

マーリンは、この物語の諸悪の根源でもあるわけですが、自らの所業を反省して、最大の被害者のひとりであるアーサーのそばに仕えサポートし、師匠として導くというのは普通なかなかできることではありません(だったら最初から犯罪に手を染めるなよ、という話もありますが……)。とは言え、運命が変えられないからと言って、どう考えても主君に災いをもたらすに決まっているモルガンをお城に入れてしまうのは、かなりどうなのかと思いました。

そして、数々の個性が強烈なキャラクターの中で主人公に任じられたアーサー。普通あれだけ主人公を差し置いて周囲の人物のソロが乱発されたら、もっと影が薄くなりそうなものですし、実際幕間や終演後に「誰が主人公か分からない」という声もちらほらと聞こえてきました。ちなみに彼の王としての覚醒には、1幕いっぱいかかり、それまでは私情に走ったり周囲に振り回されたりが多いので、主人公として前半どうも落ち着かないのは確かです。

しかし、自己主張が強い割に人の話を聞かずに自己を見失いがちな人が多いこの物語において、マーリンの言葉にしっかり耳を傾け、モルガンに陥れられようが妻に裏切られようが自己を確立して、自分を襲う運命を恐れて悩むよりも他人のために生き、王として民のためにできることをする道を選んだアーサー。

何だかんだで、物語の中で最も共感できた人物は彼でしたし、やはりこの物語は「アーサー王の物語」であったと声を大にして言いたいです。

物語の中で唯一泣きそうになったのも、アーサーの場面でした。欺かれての過ちの結果である、まだ見ぬわが子、将来自分を殺す運命と宣告されているわが子に向けて、それでも優しく子守唄を歌い語りかけるアーサー。自身に逆恨みを向ける相手に対し、この城を出て「私がそうしてもらったように」この子を幸せに育ててやってほしい、と言えるアーサー。

きっと、この場面の彼が聖人すぎて共感できない人もいると思います。でも、アーサーの「私がそうしてもらったように」と言うのは、恐らくアーサーを産んだ後悔と苦痛のうちに生涯を閉じた彼自身の母上ではなく、彼を引き取り、貧しくも温かい家庭で実子同様に育ててくれた養父と義兄ケイを指しているんですよね……。母上とは違い貴方にも幸せになってほしい、と言えるアーサーに、凄みのある優しさとでも言えば良いのでしょうか、そのようなものが宿っているのが分かり、その瞬間は彼の心に気持ちが寄り添っていました。

最後に、そのケイ兄さん。登場人物の中では最も「普通の人」で、単にコメディリリーフを担っていると思っていましたが、実は数々の試練に見舞われるアーサーを真の意味では孤独にしない重要な人物なのではないかと思っています。その辺の使いどころも居方もなかなか難しい役だという印象でした。

あまり個々の役者さんに言及しない感想になってしまいましたが、この人はイマイチ、というのは本当になくて、皆さま好演されていたと思います。特に印象的だったのは加藤メレアガンの狂気。ソロもかなりキーの高いものをこなしていてなかなか凄まじかったです。とうこさんモルガンは最後に少し救いがありますが、恨みに深く囚われていて、孤独。本当に孤独で悲しいのです。あと禅さんの、序盤でアーサーの味方と宣言していて、人生の師であるにも関わらずずっと漂う胡散臭さは何なのでしょうか? そして、あの「凄みのある、胆力のある優しさ」を出せる浦井くんはすごい役者になったと実感しています。

もう1回リピートしたいかと言われると、現時点では若干微妙な、ハードなお話です。でも、曲は良いと思います。メレアガンのロックなソロナンバーが好きです。主人公ソロでなくてすみません……。