日々記 観劇別館

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『チェーザレ』感想(2023.01.21 12:00開演)

キャスト:
チェーザレ・ボルジア中川晃教 ミゲル・ダ・コレッラ=橘ケンチ アンジェロ・ダ・カノッサ山崎大輝 ジョヴァンニ・デ・メディチ=風間由次郎 ドラギニャッツォ=近藤頌利 ロベルト=木戸邑弥 ダンテ・アリギエーリ=藤岡正明 ロレンツォ・デ・メディチ今拓哉 ラファエーレ・リアーリオ=丘山晴己 ハインリッヒ7世=横山だいすけ ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ=岡幸二郎 ロドリーゴ・ボルジア=別所哲也

2023年の観劇始めということで、明治座でミュージカル『チェーザレ』を観てまいりました。2022年の観劇振り返りができていませんが、そちらは気が向いたらいずれ書きたいと思います。

なお、最初に懺悔いたしますが、実は1幕後半、最も重要なダンテと皇帝陛下のエピソードの辺りから1幕終わり辺りまで……睡魔との戦いでかなり記憶が薄いです!(しょんぼり)

恐らく、当日諸事情で普段より早起きだったのと、せっかく明治座に行くのなら、と現地でいただいた洋風御膳弁当をつい完食し、腹十二分目の状態で観劇に臨んだのがよろしくなかったと思われます。

というわけで、以下、あまり細かくない、全体を通しての感想になりますことをご容赦ください。

15世紀に枢機卿であるロドリーゴ庶子として生まれたチェーザレ。強大な後ろ盾を持ちつつも世間から「罪の子」と呼ばれる彼は、歴史上の偉人・ダンテ先生に憧れ、信仰や民族の違いで差別されず多様性が尊重される世界を作るという壮大な目標を持つがゆえに、やさぐれることなく父親の教皇就任の先にある理想世界実現に向けて尽力します。

しかし、肝心の父親は野心家であり、徹頭徹尾、優秀な息子や美しい娘(今回は登場しないルクレツィア)を自分のための道具としてしか考えていません。チェーザレの生き方、父親に全く似ていないという印象でしたが、2幕冒頭のロドリーゴのフラメンコと、その後の場面でのチェーザレの「闘牛」を模した戦いを見て、この2人、野心の行き先が異なるだけで、生き方は間違いなく彼らに流れるスペインの血のなせる業だ、と感じました。

中川くんの「神の歌声」がまた、チェーザレの中に同居するどんな状況でも自分を見失わない冷静沈着さと、理想のため邁進する熱さという二面性を、ごく自然なものとして彩っていたと思います。

主人公以外で印象が強かった登場人物としては、ロドリーゴとそのライバルにして宿敵のジュリアーノ、あと、ジョヴァンニの父ロレンツォでしょうか。おじさまばかりですみませんが、若手の役者さんの多いこの舞台ではやはりベテランの皆様が演じるおじさま連が要所要所で輝いて引き締めていたと思います。

ロドリーゴとジュリアーノが内心いがみ合いながら2人で登場した場面で、いけないと思いつつ脳内に「黒い野心家のヴァルジャンと白いジャベール」というフレーズが浮かんでしまいました。ロドリーゴはともかくジュリアーノは彼のあらゆる所業は「信仰を貫くためなら手段を選ばない」という所に全て行き着くという点が、ジャベールだ! と思った次第です。2幕のジュリアーノのソロで彼が単純な悪役ではないことが伝わってきました。

逆に、ロレンツォは、恐らく、チェーザレとかなり近い魂を持つ人物だと思っています。物語のクライマックスで語られる、良き目的のために使われるお金は決して汚いものではない、というチェーザレの思想は、多分ロレンツォの影響なのではないかと考えています。原作未読ですので解釈が違っていたらすみません。

上記のおじさま3人により歌われるレクイエムが実に圧巻で、素晴らしかったです。ただ、なぜこの3人の組み合わせ? というのは若干謎でしたが😅

若者の中では、チェーザレの側近にして幼なじみのミゲル、そして、チェーザレのかけがえのない友人となったアンジェロが心に残っています。

ミゲルについては、彼がチェーザレに尽くす忠義の健気な様子を見ながら、果たして彼の思いはどこまで報われているのだろうか? という不安を覚えていました。チェーザレにとっては「言わぬが花」なのだとは思いますが。

アンジェロは、正直、2幕前半まではあまりの無邪気さにイラッとくる時がありましたが、彼の陰日向のない精神がチェーザレの目にはその名のとおり「天使」であり、自身が持たないものを持っている存在として刺さったのだと思います、きっと。演じる山崎大輝くんの歌も良かったです。

この作品の結末は悲劇ではありませんが、決して大団円でもありません。若干のネタバレになりますが、悪役の行動には悪役なりに簡単に譲れない動機があり、しかし犠牲者はそれなりに出ている上に、チェーザレが、当時の社会の定番どおりに宗教界で出世コースを歩んだとしても自分の望む理想を実現するには限界がある、と気づいてしまいます。加えて「さらば青春の光」的な別離も迎えるので、やや消化不良的な感もあります。ただ、そこで物語を無理やりハッピーエンドにしなかった点については評価したいです。

演出に1つだけ不満を申しますと、前述のとおり、真面目に見られていない所もありますのであまり偉そうなことは言えないのですが、登場人物の「居場所」が分かりづらい時がありました。今回は「おけぴ観劇会」(おけぴ+チケットセディナ合同観劇会)で手元にオリジナルの人物相関図をもらえたので、それを頼りに幕間に「ええと、ダンテと皇帝陛下は明らかに過去の人だけど、チェーザレたち学生はピサに、ロドリーゴとジュリアーノはローマにいて、ロレンツォは基本フィレンツェで……」と勉強していましたが、実際に舞台を見始めるとなかなか頭が追いつかず。

カーテンコールでは、貸切公演ということで、キャストからのご挨拶の代わりに全員で1曲がアンコール披露されました。耳福、耳福。

次回もしもう一度『チェーザレ』を観る機会があるならば、改めてきちんと原作を読んで人物の人間関係だけでなく力関係を理解した上で臨みたいと思います。