日々記 観劇別館

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『マディソン郡の橋』初日感想(2018.3.2ソワレ)

キャスト:ロバート=山口祐一郎 フランチェスカ涼風真世 マリアン=彩乃かなみ マイケル=石川新太 キャロライン=島田彩 チャーリー=戸井勝海 マージ=伊東弘美 バド=石川禅 others=加賀谷一肇

『橋』のシアタークリエでの初日を観てまいりました。
今回は原作小説を流し読みながら読了し、舞台版との違いも把握した上での満を持しての観劇。
ただし、今回本業でどうしても外せない仕事が夕方まで入ってしまい、それを終えて途中からの劇場入りとなりました。
1幕途中のマリアンのソロが終わる頃に遠慮もなく後方のセンター席にえっちらおっちらと入りました。ロッカーがいっぱいだったため止むを得ず大荷物を背負っての座席入りで、ご迷惑をおかけした周囲の皆さま、改めてごめんなさい。

そんな状況だったので舞台に気持ちが入り込むのに少々時間がかかりましたが、1幕終盤ではすっかり、そうだよ、私もフランチェスカ程苦労はしていないけど、今日は長い旅をして、あなた=ロバートへと至ったんだよ! という心境に至っていました。

バートと出会う前のフランチェスカは、自分の故郷イタリアでの過去を決して忘れたことはなくても*1、それらは家族との日々や広大なとうもろこし畑の風景の中では無用なものなので無意識に封印していたのかな、と想像しています。

一見賑やかかつ平穏な日々であっても、心の奥底では常に1人ぼっち。ロバートも常に1人きりで、少なくともこの舞台上では直接対面して触れ合ったのはフランチェスカだけ。
運命の相手を探すなんて思いもよらなかったのに、出会った一瞬で旅の終わりは目の前の相手だと気づいてしまった*2
「旅は、あなたへと至る。」(ミュージカル「Falling Into You」歌詞より)
「長い道程を旅したあと、やっと故郷の篝火を見つけた昔の漁師のように、彼の孤独は解けていった。」(小説の一文より(文春文庫版))
小説でもミュージカルでも、2人は巡り合ったことによって互いが存在する世界の素晴らしさを認識することになり、フランチェスカの心の封印も解かれました。しかしそれはフランチェスカにとっては、同時にただ夢中で生きてきた家族との暮らしがいかに大事であったかについても認識することにつながってしまったのではないかと思うのです。

それにしても、フランチェスカへの愛情を自覚してからのロバートの歌、晩年の「It All Fades Away」に至るまで、要約するとひたすら「フランチェスカが好きだ、好きだ」と語りまくっていると、観劇2回目にして気づきました。いくら心は一瞬で距離を飛び越えると言っても、 「(写真が)色あせても、残るのはあなた」 であったとしても、切なすぎます、ロバートさん……。

ただ、プレビューで観た時よりはロバートの最期は幸せそうに見えました。 自分の人生における選択は正しかったというより強い確信を、その歌声から感じ取りました。
そういう印象を抱いたのは、カーテンコールで、演じる山口さんが、舞台に立つことの幸せや「おじいちゃん」になって感じるここに生きていることの幸せをしみじみ語られたから、というわけではありません。
ミュージカルの歌は、ただ上手に歌うだけでは成り立たず、歌そのものがそこにいる人物を体現する演技として成立することにより、観客を引き込む説得力を持つことが大事だと常々考えていますが、山口ロバートの 「It All Fades Away」はまさにそうした力強い説得力を有していたと思います。

ちょっと真面目に語ってしまいましたが、1幕のロバートには、ナポリの写真をフランチェスカに渡す前に、喋りながら荷物を置いたりバッグを開けたりで妙にもたもたするような「かわいい」要素もあったということを付け加えておきます(^_^)。

今回の感想、ロバート話ばかりになってしまいましたが、バドのことも少し語らせてください。
原作にはあまり人となりが描写されていない人物ですが、ミュージカルではロバートとの対比として、荒削りでひどく頑固で口より先に手が出て、でも秘めた優しさもあって、妻と子供達への愛情は最強、という人物として描かれています。そんな人物を禅さんが適確に造り込まれていました。
山口さんが、プレビュー初日とクリエ初日のカーテンコールで2回も「好きな台詞」として語った、
「お母さんの言う通り、アイスクリームを食べに行くんだ!」
は私も好きな台詞です。頑固で、農家を継ぎたくなくて反発する息子マイケルとどうしても対立してしまう自分への苛立ち。そんな自分の拳の下ろし所を懸命に作ってくれようとした妻への愛とリスペクト。そんなバドの心情が如実に表れた台詞だと思います。

これからまたクリエに出かけるためあまり時間もありませんので*3、初日の感想はひとまずここまで。
あとは残りの観劇(チケットが激戦で、あと2回しか観られません)で反芻しながらまたこの演目の良さについて考えていきたいと思います。

*1:本公演でカットされていなければ1幕序盤のフランチェスカと娘とのやり取りで、イタリアの大学に行ってもいいわね、でもお父さんはキアラ伯母さんをアバズレと嫌っているわよ、というような話がありました。

*2:そう言えば「旅の終わりはおまえ」というタイトルの演歌があったような、と思い出しました(^_^;)。

*3:諸事情でこの記事は3月3日にしていますが、実際には3月4日に書いています。