日々記 観劇別館

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『眠らない男・ナポレオン ―愛と栄光の涯に―』感想(2014.2.16ソワレ)

キャスト:
ナポレオン=柚希礼音 ジョセフィーヌ=夢咲ねね バラス/フランツI世=一樹千尋 グランマルモン=英真なおき レティツィア=美穂圭子 タレーラン =北翔海莉 ジョセフ=十輝いりす テレーズ=音花ゆり ベルティエ=鶴美舞夕 マルモン=紅ゆずる ナポレオンII世=天寿光希 ミュラ=真風涼帆 ブリエンヌ=壱城あずさ

2006年6月以来7年8ヶ月ぶりの宝塚歌劇鑑賞でした。しかも前回は宙組さんだったので、星組さんは初めてです。

何度もこちらでは書いているような気がしますが、宝塚については本気で何も知らないので、以降、常識外れなことを記していてもご容赦ください。また、例により若干のネタバレありです。

『眠らない男』の脚本と演出は小池修一郎さん。音楽は『ロミオ&ジュリエット』のプレスギュルヴィックさんです。
プレスギュルヴィックさんの曲は、ロミジュリ同様、ひたすら甘くて叙情的で、転調が美しい調べ。ロミジュリの時も思ったのですが、こういう曲、どうも私の心の琴線にとても触れやすいようで、メロディーを聴いているだけで胸が切なくなります。

また、演出も、節目節目で映像を効果的に多用していて良かったと思います。序盤のクレーンに机を載せて宙乗りする演出も面白かったです。ただ、2幕で同じクレーンと机が再登場した時、かなり静かな場面だったので、用が済んだクレーンを収納する音がうぃーん、がしゃ!と舞台の奥から聞こえてきて、ちょっと笑いそうになってしまいましたが(^_^;)。

肝心の物語ですが、実は登場人物の誰に感情移入して良いのかがついに分からないままフィナーレを迎えてしまったというのが実情です(^_^;)。
これはあくまで脚本の問題であり、生徒さん達には全く罪はないと思います。むしろ生徒さん達は組子さんも専科の皆さまも本当に力を尽くしていたという印象でしたので。
多分、音楽が全体的に甘い調べなのに対して、物語の展開にほとんど甘さがなく、詰め込まれた歴史上の出来事の流れの隙間をひたすら打算、策略、裏切りのドラマで埋めているようなお話だったというのも大きいと思われます*1
お芝居の中では、ナポレオンとジョセフィーヌの濡れ場が数少ない甘い場面になり得る筈なのですが、物語の前半では生活のために愛人生活を送るジョセフィーヌがナポレオンへの愛情を自覚できておらず、社交界の刹那の恋愛としか思っていないわ、結婚したらしたで夫の遠征中に寂しさに耐えかねて若い士官と火遊びするわであまり「愛って何て素晴らしい!」的な要素はあまりありません。物語中盤でお互いに思いが通じ合ったと思ったらナポレオンの権力が強大化して甘い日々どころではなくなりますし、後半ではもっとそんな場合ではなくなります。

この他にも、ここはもう少し掘り下げて欲しい、と思った人間ドラマがさらりと処理されていたり、台詞のみの説明で終わってしまっていたりという場面がいくつかあり、その点はかなり惜しいと思いました。

……と、脚本には山ほど言いたいことがありますが。
柚希礼音さん、情熱的で即断即決なナポレオンが格好良かったです。そして歌声も本当に素敵でした。
夢咲ねねさんは、ジョセフィーヌバスティーユから救われて愛人生活を送る前半、大人の熟女のお色気をすみれコードギリギリでかなり頑張って出していたと思います*2。ただ、熟女よりもやはり、後半の、別離を経ても慈母の如く元夫を愛し続けつつ、凛と筋を通して人生を全うする女性像の方が似合っていたように私には感じられました。

この生徒さん、上手い!と思ったのは、ナポレオンの母親を演じた美穂圭子さんです。役柄はヒロインの敵役でしたが*3、歌も良く、演技にも単純に憎まれ役に終わらない説得力がありました。
他の登場人物では、北翔海莉さんのクール過ぎる策士タレーランが気になって仕方がありませんでした。国の未来が、そしてそれを形作るための政策が至上であり、目的のためなら迷わず主君さえ切り捨てる男。老獪ではありますが、あの生き方も1つの美学だ、と思います。

そして、お芝居に対して覚えた違和感やら何やらが、美しすぎるレビューで綺麗に帳消しになってしまうのが宝塚の恐ろしさです。
ロケット、男役群舞、トップコンビによるダンス。そして皆がシャンシャンを手に、男役トップは羽根を背に登場する煌びやかなフィナーレ!とても豊かで幸せな気持ちで惜しみなく拍手を贈り、劇場を出てからもしばらく「綺麗〜」としか口にできずほわほわと歩いておりました。

ちなみに、劇場内で宝塚では恒例の、トップさんが登場した時の拍手を聴き、ああ、こんなに温かい大拍手に包まれて、トップさん幸せだねぇ、と呑気に考えていましたが、実は本日は星組さんの「総見」(組の生徒さんの後援会総出で舞台を見守る集まり、らしいです。)であったことを後から知りました。宝塚ファンの皆さまの温かさを感じつつも、うわわ、そんな日に偶然チケが取れてしまったとは言え、こんな新参者が観に来て何だかごめんなさい、と遅ればせながら恐縮しまくっております。

*1:暗い・怖い場面にあえて明るい・のどかな旋律の音楽を流すという手法は映画などでも時々使われているので、それ自体は悪くありません。

*2:重要なラブシーンでネックレスを引っかけてしまっていましたが……。

*3:まあ、普通はエリートの息子がああいう経歴のコブ付き年上未亡人を連れてきたらぶち切れる母親が多いと思います。