日々記 観劇別館

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アニメ『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』感想(2014.2.1 MOVIX柏の葉 20:30上映回)

キャスト:
天海春香中村繪里子 星井美希長谷川明子 如月千早今井麻美 高槻やよい仁後真耶子 萩原雪歩浅倉杏美 菊地真平田宏美 双海亜美双海真美下田麻美 水瀬伊織釘宮理恵 三浦あずさたかはし智秋 四条貴音原由実 我那覇 響=沼倉愛美 秋月律子若林直美 音無小鳥滝田樹里 プロデューサー=赤羽根健治 社長=大塚芳忠 矢吹可奈木戸衣吹 佐竹美奈子大関英里 横山奈緒渡部優衣 七尾百合子=伊藤美来 北沢志保雨宮天 望月杏奈=夏川椎菜 箱崎星梨花麻倉もも 善澤記者=星野充昭

本作はゲーム『THE IDOLM@STER』(アイドルマスターアイマス))の2011年に放映されたテレビアニメ版の続編として位置付けられた作品です。
自分の場合、ファミコン世代ど真ん中の割にゲームとはあまりご縁がなくスマフォで『ぷよぷよクエスト』やライトな育てゲームをやるぐらいで、アイマスもプレイ経験なし、『シャイニーフェスタ』が自宅にある程度なのですが、テレビアニメ版アイマスアニマス)は絵柄も綺麗でキャラクターが可愛くて、ドラマも面白かったので見ていました。

今回、最初は埼玉にある別の映画館で見ようと、午後家族とともにそちらまで出向いたのですが、狙った時間も含め当日の座席は既に満席の状態でした(T_T)。元々座席数の少ない映画館なこともあり、前日に予約しないとダメだったようです。
というわけで、その場で家族に千葉のMOVIX柏の葉での夜間上映の座席予約を入れてもらいました。ショッピングで夜まで時間を潰した後、柏の葉まで移動。ここはそんなに混んでおらずむしろスカスカだなあ、何故だろう?と疑問に思っていたら、どうも当日昼間の上映で声優さんの舞台挨拶がセットされていたようです。そりゃ来るべきお客は皆昼間の上映に来て、こんな声優さんが帰った後の時間には来ないよなあ、と納得。どうりでグッズもすっかり売り切れてパンフぐらいしかない筈です。
その代わり、舞台挨拶メンバーのサイン入り看板がこんな感じで展示されていました。

前置きはこのくらいにして、映画本編の感想にまいります。ネタバレありですのでご注意ください。

テレビアニメでは芸能事務所「765プロ」に所属する13人の少女(12人はアイドル、1人は本業プロデューサー、時々アイドル)と1人のプロデューサー(以下「P」。アニメでは男性)が、事務所の社長や事務員に支えられつつ、数々の物理的・精神的な問題を乗り越え、同じ事務所のメンバーとして互いの結束を強めていくさまがドラマティックに描かれていました。映画本編は、テレビアニメの物語で「問題を乗り越えて揺るがない結束を手に入れたメンバー」が、アリーナライブに向けてそうした過去の歴史と無縁な後輩達*1を迎え、新たな問題に直面した時にどう解決していくか?という、テレビ版と地続きの物語として描かれています。

私はゲームでPの立場になったことがないので、専らテレビ版の人間関係だけで、
「皆、合宿の厳しいレッスンにへばる後輩達を陰に日向にさりげなくフォローしている!」
「以前は実力不足に苦しんでいたあの子がこんな立派に!」
「以前は自分のことしか考えていなかったこの子がこんなに同僚を慮っている!」
等と考えながら見ていましたが、多分、ゲームで彼女達を鍛え育ててきたたくさんのP達は、比較にならないほど感慨ひとしおで見ていたに違いありません。

今回、
「一瞬『小鳥さんの妄想?』と疑った、女子校舞台高レベル百合系劇中劇」
「何かの授賞式会場で実に立派な受賞挨拶をした直後に演壇でこける春香」
「ライブの事前合宿でつい無邪気に水鉄砲遊びに興じてしまい、水を被り服が透けた所をPに見られ、怒りと羞恥の余り絶叫しながら水鉄砲を撃ちまくる伊織」
「事務所社長と芸能記者の友情関係を見て、いけない妄想に暴走する事務員」
「合宿先の大浴場で貴音の豊かな胸にぶつかりそうになり『くっ!』と悔しそうにするスレンダーな千早」
などの見せ場ももちろんありました。
そして、前半と後半のクライマックスを飾るライブシーンの作画にも、スタッフの気合いとキャラクターへの愛情がたっぷり込められており、そのキャラクターの躍動感と可愛らしさ、そしてCGの美しさにすっかり引き込まれていました。

しかし、すみません。以下、ドラマ部分中心に語らせていただくことをお許しください。

今回の物語の軸となる人物として設定されているのは、ライブチームが、実力不足から足並みを乱す後輩達に起きたアクシデントに起因する危機に直面し、リーダーとしてある決断を迫られるチームリーダーの春香です。一方で、そんな彼女に対する思いはまちまちなれど、結局は揺るがない信頼を抱き待ち続ける765プロの面々の心理が、実に繊細かつ丁寧に描かれていると思います。
秋の長雨の夜、自信を喪失し引き籠もる後輩の可奈*2を切り捨てるか否かの決断を迫られた春香が、その後輩との電話で粘り強く説得を試みる場面、そして同時進行で、急遽二手に分かれてお泊まり会を開催し、それぞれの春香への思いを語りつつ、不安に苛まれる後輩達をサポートし続ける場面が秀逸です。
スクリーンを見守る側としても、
「テレビ版であのどん底の精神状態を克服したはるるんならきっと諦めず、身体を張った行動を起こすに違いない」
と半ば安心して見ていました。

個人的には、この物語で春香の決断に影響を及ぼす存在として、伊織、美希、千早の言動に注目しました。
まず、実力と向上心は高いですが自分にも他人にも厳しい傾向のある後輩志保を時に支え、時に諭し、そして悩めるリーダー春香を貶めるような発言はすかさず咎め、改めて春香の背中を押して決断を促す伊織。15歳でここまで出来る子はなかなかいないと思います。数々の人々に仕えられてきた大財閥のお嬢様で、既にユニット「竜宮小町」のリーダー経験がある彼女だからできるのでしょう。
ちなみに、これは春香の決断とはあまり関係ない場面ですが、作中でPのアメリカ修行が告げられた後、旅館の部屋で伊織は寂しさの余り涙ぐみかけます。しかし、直後に親友やよい(可愛い!)と亜美・真美が泣き始めます。それを見てもう泣くことができず泣くのをやめる、そんな伊織が好きです。*3

それから、アイドルとして天性の能力と美貌、マイペースでしなやかな精神力に恵まれた美希。そんな彼女が、春香について「(可奈を切り捨てられないのは)甘いと思う」と断じつつ、その行動が自分にはない春香の美質に根ざしたものであり、その美質故にリーダーとして、大好きなハニー=Pの信頼を得たのだと認め、だから春香は自分のライバルなのだ、と言い切る場面は、テレビ版終盤で繰り返された美希と春香の対話を思い出させてくれ、感慨深いものがありました。
伊織が果たしたのが春香の背中を押す役割だとすれば、美希は言わば春香の背中に物差しを差し込む役割を果たしたのではないでしょうか。

そして、春香の心の舵取りを支える役割を果たしたのが千早だと思います。実は初め、765プロメンバーの仲間意識推しに苛立つ志保をサポートし叱咤するのは、かつて彼女のように頑なに生きていた千早かな?と思っていたのですが、その役割を伊織が果たしたことは少し意外でした。ただ、考えてみると、昔の自分にあまりにも似すぎていて、逆に気持ちが分かりすぎてしまうが故に、この後輩と向き合うのをあえて避けたのかも知れません。
かつて歌の世界以外への視野も関心も持たなかった彼女は、今回の物語ではカメラを手に何気ない風景を撮影するなど、以前と異なり、周囲への広い視野を持つようになっています。そんな千早には、春香に突っかかる後輩の気持ちを理解しつつも、互いの絶望の淵で手を差し伸べ合った親友でもある春香が何故「チームの結束のための可奈の復帰」にしがみつき続けるのかはもっと理解できてしまうに違いなく、だからこそ表には立たず、春香の精神的なサポートに徹したのかな、と今は思います。

可奈が思い詰めるに至った事情は、大人から見ると本当に他愛ないものです。映画のパンフのインタビューで監督が「決して笑いにはしないように考えて」その場面を作った、とのことでしたが、私はほんの一瞬だけ「何だそうだったのか!」と笑ってしまいました。ただ、幼い彼女に取っては本当に夢の断念に繋がりかねない深刻な事情であったわけで、だからこそ真実を知った先輩達・同級生達とともに誰一人彼女を誹ることなく、彼女の憧れを取り戻し、自らの憧れを再確認するための場所に走ったのだと思います。

大人になってしまったかつて10〜20代だったこともある人間にとっては、「夢の実現のための次のステップ」という言葉は「絵に描いた餅」どころか「現実の延長線上にある次の交差点の交通信号」みたいなものになってしまっています。しかし、彼女達に取って「次のステップ」は希望と輝きに満ちたものであり、そんな彼女達の輝きを、もっともっとこの目で眺めていたいし、憧れを、少しでもキラキラ輝くような形で守り支えたい、と、現実にはなったことのないアイマスPの目線で、事件の解決〜ライブ〜映画のエンディングに描かれた「その後」までの映像を静かに見守りながら、この上なく穏やかな気持ちで思いました。
……ええと、今年5月に新作ゲームが出るらしいですが、私は買わないですよ?この映画がBlu-rayで発売されたら買うかも知れませんが(^_^;)。

*1:ライブのバックダンサーとして抜擢された、芸能スクールに通うアイドルの卵達。別のオンラインゲーム『THE IDOLM@STER MILLION LIVE!』のキャラクター達のゲスト参加だそうです。

*2:この作品では「キラキラしたアイドルになりたい春香推し」に設定されていますが、元のゲームでは「歌好きで千早推し」の設定だそうです。

*3:やよいも前半の合宿シーンでは飲み物の買い物を引き受けたり、後半では雨に濡れた仲間達の着替えを気遣ったりと、決して庇護される一方ではなく、さりげなく自分にできるサポートに励んでいます。そう言えばこの子、テレビ版の厳しいレッスンで息切れした時も、決して諦めると言わずに耐えて戦っていました。アニメだと「皆に守られる妹」の描写も多いですが、実は頑張り屋さんで気遣いもできる子なのです。