日々記 観劇別館

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『エリザベート』感想(2012.6.2ソワレ)

キャスト:
エリザベート春野寿美礼 トート=山口祐一郎 フランツ・ヨーゼフ=岡田浩暉 ゾフィー寿ひずる ルドルフ=大野拓朗 少年ルドルフ=山田瑛瑠 マックス=今井清隆 ルドヴィカ=春風ひとみ

マチネで石丸トートを観た後、ソワレで山口トートを観るという体力勝負にまたチャレンジいたしました。

つい2時間前にパッションと執念に満ちた石丸トートを観た後の目で山口トートを観て真っ先に浮かんだ台詞は、「こいつ、人間じゃねえ!」というものでした(^_^;)。
いえ、もちろん、トートは誰が演じようと人間ではなく、石丸トートもマテトートも人外度は相当なものだったわけですが、山口トート、改めて観るとやはり超然と美しく、思考回路が人間とは違っていて、決してでかいからではないと思いますが人間が超えられない壁みたいな威圧感があって、かつ恐ろしかったです。
でもどうやらメイクは1幕と2幕の間で直さないらしく、エピローグではだいぶアイメイクが薄くなっていました(笑)。
また、これは小さな心配事ですが、声に若干のお疲れが出ていたような……。気のせいであることを願います。

春野シシィ。山口トートとの組み合わせで観るのは2回目でしたが、ふつふつと湧いてきたのは、「私が踊る時」でのこの2人のキー、もしかして全く合っていないんじゃないか?という疑惑です。声量はしっかり張り合っていたと思うのですが、一番高い音で春野シシィの声が聞こえてきませんでしたので。
もっとも、元々自分の耳は言葉の聞き取りが弱い上、もしかしたら聞こえる音域が加齢に伴い更に狭くなっているだけかも知れないので(注:山口さんより一回り以上下の世代です)、この件についてはこれ以上多くは語らないことにします。
自分が心に留めているのは、春野シシィのナイーブさです。瀬奈シシィの強かで逞しいが故の行き場のなさ加減もあれはあれで好きなのですが、春野シシィの柔らかで湿度の高い感性故の苦悩は観た者の心に何とも言えない澱のようなものを残してくれます。
多分、岡田フランツは幼い春野シシィの好きなものは真っ直ぐに愛し、嫌なものは嫌と言うナイーブな感性を好きになったに違いない、と勝手に思っています。また、春野シシィが岡田フランツを見る目はあまりに純粋過ぎて、だからこそ最後通告の時はあんなに痛切な表情を湛え、裏切りは彼女の心を容赦なく切り裂き、息子の死でも「夜のボート」のフランツの出迎えでも修復が効かなかったのではないかと、今日の舞台を観ながらじっと考え続けていました。岡田フランツと春野シシィ、やはり個性が合うと思います。

それで思い出しましたが、体操室でトートがシシィに拒絶される場面。この場面でトートとシシィの心理的優位が一気に逆転しています。
しかしここで山口トートは拒絶された後、客席側に一切表情を見せません。シシィの心は生を選びつつも急速に死に寄り添い始めているのに、それを喜ぶ気配は見せず、むしろゲームセットが近いことを寂しがるかのような気配すら漂わせています。
山口トート、分かりづらいですが、実はかなりの複雑さをまとったトートなのではないかと、不覚にも石丸トートの演技と比べることで初めて気づいた次第です。ゲームセットを惜しみつつも、行き着く先がそこにしかないことを誰よりも知っているので、冷酷に段取りを進めざるを得ない死神。それは彼にとってみれば自然の理だった筈なのに、何故今回はこんなに葛藤があるのかは、きっと彼自身にも分からないのではないか?等と今更色々考え込んでいます。

その山口トートの冷酷な刃(銃ですが)が向けられるルドルフは、本日は大野くんでした。
ええと、大野ルド、一所懸命なのは本当に良く分かりました。マイヤーリンクで般若の面の恐ろし過ぎる無表情で山口トートに迫られ、銃を手にしてニッコリ微笑みながら引き金を引いて死んでいく演技にもぞっとさせられました。……だから、もっと「僕はママの鏡だから」みたいなスローバラードを、しっとりドラマチックに声をコントロールして歌えるようになれば、かなり印象が違うと思います。

何だか今回、ぐだぐだと山口トート絡みのことしか書いていませんが、最後にもう1つだけお許しください。
今季の3人トートを一通り観ましたが、「悪夢」で何故か山口トートだけは指揮の時に指揮棒(ヤスリ)を持っていません。「(シシィを)救うのは、これだ!」と歌う時に初めてドラえもんのポケット懐からヤスリを取り出します。凶器としてのインパクトを狙っているのか、あるいは指揮棒にしてしまうと中の人が上手く振れずに手にぶつけたり刺したりしてしまうからなのかは良く分かりませんが、改めて、凶器の扱いの違いが面白いと思いました。

今日1日で見たもの、気づいたこと、考えたこと、そして山口トートへの思いがあまりに多すぎて、全くレポートになっていない感想になってしまいました。また書き足しするかも知れませんが、この辺りで打ち止めにしておきます。