日々記 観劇別館

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『AKURO』感想(2008.12.7マチネ)

安倍高麿=坂元健児 アケシ=神田沙也加 謎の若者=吉野圭吾 イサシコ=駒田一 坂上田村麻呂今拓哉 オタケ=平澤智 ヒトカ=友石竜也

ここ1ヶ月程『エリザベート』ばかり通っていましたが、久々の違う演目鑑賞でした。
一昨年、これの初演を池袋サンシャイン劇場で観ました。ちなみに初演時の感想はこちら。今回は同じ池袋の東京芸術劇場での再演です。ここの劇場は2月に同じTSミュージカルファンデーションが公演した『タン・ビエットの唄』に次ぐ2回目でしたが、舞台が大変見やすくて良い劇場でした*1
今回の痛恨は自宅にメガネを置いてきてしまったこと。私はあまり視力が良くない上(左0.6〜0.7、右0.3〜0.4(乱視入り))、アレルギー持ちの目なので普段メガネを愛用してます。しかし「メガネなしで歩けない」程悪い視力ではないため、たまにこういう失敗をしでかしてしまいます。というわけで、今回はほとんどの場面でオペラグラスを覗きっ放しの妙な客と化していました(^_^;;)。

さて、再演『AKURO』は初演とは一部出演者が交替したほか、舞台装置、演出、様々な面が変更されていました。
まず、劇場のキャパの違いも影響してるとは思いますが、舞台の奥行が前回より深いように感じられました。舞台の真ん中に傾斜舞台が設置されているのは共通の造りだけど、その台の高さがあるので大地の広大さが前回より感じられたと申しましょうか。
舞台の作り変更の影響かどうかは分かりませんが、白鹿の精霊の幻想性がやや薄れたように思うのは気のせいでしょうか?前回は緑の森の中からゆらりと現れるようなイメージだったのが、今回は大地を逞しく跳ね回っているようなそんなイメージを受けました。
また、TSの売りである熟練した男性ダンサーの群舞を、今回も堪能させていただきました。しかし、前出のとおり視力面で舞台全体を見渡すのが苦しかったのは返す返すも残念でした。

演出上の大きい変更点としては、アケシの娘が登場しなかった点と、謎の若者の出番が増えていた点が挙げられます。娘は子役がわざわざ1シーンだけ出てこなくても十分話は成立するので、カットして正解かと思います。また、謎の若者は、前回観た時より遙かに多くの時間舞台に出て歌い踊りまくっていたので、吉野さん好きとしては大変に喜ばしかったです。吉野さんの目力が端々でちらちらと鋭くて心に残りました。
特筆すべきは、2幕終盤の大和軍との戦闘シーンでシルエットではなく暗めの照明を浴びて登場したことでしょう。初演の時、歌声すれども姿は影しか見えず、の状態が非常に不満だったのでこの演出変更は大歓迎です。高麿と全く同じ動作で殺陣をこなされてましたが、シルエットの時よりも遙かに高麿の影らしく見えました。結局二回田村麻呂に負けちゃったのね、と思うと悲しかったですけど。
あと再演でインパクトが大きかったのはアケシ役の交替。前回の彩輝さんに不満たらたらだった者としては、演じる人が違うだけでこんなに印象が変わるものか、とひたすら喜んでいました。沙也加ちゃん、高麿と心を通わせていく過程も分かりやすかったですし、ラストではしっかり逞しいお母さんに変貌していて、昨年観た『ウーマン・イン・ホワイト』の時よりもより一層良い役者さんになったなあ、と思いました。初演の彩輝さんはラストでただ呆然と佇んでいるイメージしかなかったというのに。
沙也加ちゃんは来年レミゼでコゼット役とのことですが、むしろエポニーヌ辺りで観てみたかったです。ちなみにレミゼの製作発表の時感じたぽっちゃり感は、今回は全く感じられませんでした。あれは一体何だったんだろう?

アケシが若返ったことで生じた問題は、田村麻呂がロリコンに見えたという点でして(^_^;)。一緒に観劇した友人と休憩時間に話題になったのは、アケシは一体何歳の設定なんだというネタでした。蝦夷と大和の戦が20年続いたということは、開戦当初にアケシが15〜20歳位で田村麻呂に娶られていた場合、アケシ最大35〜40歳(笑)。まあ、それは冗談として、初演の時のアケシの娘の歳がせいぜい5、6歳だったことを考慮すると20歳代だろう、という所に落ち着きましたが。
その、今さんが演じられた田村麻呂は、何度かある殺陣シーンを綺麗にこなされていて流石、と思いました。悪役なのに立ち回りが格好良すぎです。将軍の豪奢な衣装を身につけたままで、とおっ!と傾斜舞台のてっぺんから軽々飛び降りたりしてました。
で、田村麻呂を指して「悪役」と書きましたし、もちろん彼のやったことは蝦夷達に取っては悪行以外の何者でもないんですが、どうも彼には憐憫の情しか覚えることができませんでした。蝦夷達の暮らす大地を「美しい」と思う感性は高麿と同じだった筈なのに、蝦夷と手を取り合い思想的にも共鳴しあった高麿に対し、「蝦夷は人にあらず」という大和の論理から一歩も出られなかったが故に妻子も捨て、権力者の手先として道を歩み、しかも最後は権力者からも切り捨てられたという所が何とも哀れで。
初演から続投のイサシコ役駒田さんや、オタケ役平澤さんも好演されていました。イサシコ達の最後の戦闘は初演時同様「特攻」に見えましたが、前回よりも「本当は戦いたくも死にたくもなく、静かに暮らせれば良いのに戦うしか選択肢がない」という無念さが伝わってきたと思います。

『AKURO』は今回の再演でぐっと磨きがかかって綺麗にメリハリの付いた良い舞台になったと感じられました。テーマは本当に重すぎますが、またTSでやってくれるなら是非観に行きたい演目です。
それと付け足しですが、今回のパンフがちょっと面白かったです。通常のように製本されておらず、例えるなら料理のレシピカードのようにカバーの中に1枚1枚、役者さんのプロフィールとあらすじ等の紹介を両面印刷した紙が納められているというものでした。全員肩から上を肌脱ぎしている写真で、特に吉野さんの表情など無駄に色っぽいので、うーん、これはどう扱うべきか?ポスターとして部屋に貼るため?でも来客がどん引きしそうだし……とひとしきり友人と悩んでしまいました(^_^;)。

*1:と言うより帝劇の座席からの舞台の見づらさが異常なのかも。