日々記 観劇別館

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『レベッカ』感想(2008.5.17ソワレ)

「わたし」=大塚ちひろ マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=シルビア・グラブ フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=治田敦 ジュリアン大佐=阿部裕 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=伊東弘美 ヴァン・ホッパー夫人=寿ひずる

ほぼ2週間ぶりに『レベッカ』を観てきました。今回の席は20列下手というかなり後方。クリエだから後方席でも舞台との距離は相当近いのだけど、視力の悪い者にとっては役者の細かい表情を捉えるにはやや辛い席で、かなりの割合でオペラグラスに頼りっぱなしでした。
ちひろちゃんの歌声、パワーではウィーンキャストに劣るかも知れませんが、シングルキャストで1ヶ月以上ここまでレベルを保てているならOKだぞ、と、つい甘口になってしまいます。
この作品では今まであまりハプニングには出会わなかったのだけど、本日1幕で「わたし」が落としたキューピッドの置物が割れないという事態に遭遇。ちひろちゃんは普通に壊れた時と同じように演技して、壊れなかった置物を普通に机の引き出しにしまいこんでました。2幕ではちゃんと割れていたので安心しました。
フランク、なんだか観る度にじじむさくなっていくような?その分「わたし」に向けられる真の大人の優しさが一層深まってるとは思いますが。
ファヴェルはダンヴァース夫人との密談を「わたし」に聞かれた後、「ごめん、怖がらせちゃったかなぁ〜」と彼女を招き入れる時の伸ばした右手の指先が妙にエロいです。胡散臭さも一段と際立ってきていました。
ダンヴァース夫人については、4月の初見時には炎の中にレベッカマンダレイを封印することにより夫人自身も幸せになれた、と思っていたのだけど、繰り返し観ているうちに少し評価が変わってきました。考えてみたら夫人が崇拝していた「何者にも負けない、どんな男性にも屈することのないレベッカ」というのは、少なくともレベッカが病気に負け、物理的に男性の手にかかっての死を選んだことが明白になった時点において、虚像と化してしまったわけです。
彼女の取った行動の動機は、虚像を美しいまま埋葬して永遠に留めたかった為なのか?それともかつて崇拝していた対象が虚像であったことに絶望し、この世から消し去りたかった為なのか?あるいは、かつて崇拝していた物が踏みにじられ、自分の誇りが傷つけられることを拒んだのか?全部正解な気もしますし、外れのようにも思えます。いずれにしてもあの行動の結果夫人が幸せになれたか?と今問われたら、「違う」と答えます。

さて、今回のマキシムレポートです。
1幕のチェス場面後のマキシムの激高する声が少し抑えめだったような気がしました。その後の場面の激高は以前と変わりなかったので、偶々だったのかも知れませんが。
これも気のせいかも知れませんけど、直後の「こんな夜こそ」、マキシム、こんなに情感たっぷりな歌い方だったっけ?と今回思いました。全体に歌詞の言葉の一つ一つを、公演が始まった当初よりも丁寧に情を込めて歌うようになったような印象を受けました。今まで情が込められていなかったというわけじゃなくて、情が深まったような感じ。

今回マキシムの足捌きをしつこく観察して、そういわれてみれば確かに一歩一歩が丹念すぎて硬いかも?とやっと感じるようになった今回*1。でも、多分あの足捌きじゃないと、身体の重心がアンバランスになって歌えないんだろう、じゃ、仕方ないや、と勝手に解釈しております。
2幕の告白シーン、以前は
「笑えるでしょう、あなたぁパパよー」
と歌っていたと思いますが、本日は
「笑えるでしょう、あなた、パパよー」
とスタッカートを入れてちょっと叫ぶように歌ってました。聴く側としてはここは別にスタッカートじゃなくてもいいかも、と言う気もしますが、歌い方を色々変えてみる姿勢は良いことだと思います。
告白の後の抱擁で、以前は「わたし」の胸に顔を埋めてすぐ両腕を彼女の腰に回していたような気がしますが、今回はみぞおちの辺りに顔を埋めてから、しばらくして躊躇うように右腕を伸ばし、続けてゆっくりと左腕を、というように溜めがありました。ここは溜めがある方が情感があって好みです。
ついでに、ファヴェルの恐喝の場面でマキシムと「わたし」がひたすらじっと手を握りしめ合っているのも、1幕までの2人には絶対ありえない仕草で好き。

ただ、終盤近くの駅の場面でのマキシムと「わたし」の抱擁はどうも段取りくさく見える自分。彼らの気持ちはその後のデュエットに込められているということで、情感よりも様式美を重視した結果なのかも知れませんが、身長差の大きさを舞台上でカバーするのって大変なんだなあ、と見るたび思ってしまいます。
最後の火事の場面の歌で、マキシムが歌い出すタイミングを左手の指を一本ずつ伸ばしながら3、2、1、0と計っているのに今回初めて気づきました(笑)。いえ、手や腰を動かしてタイミングを取っているらしいという噂は聞いてましたが、そうか、指もか!と納得した次第です。
エピローグのマキシムは、「わたし」の肩を抱きつつもやっぱり魂ここにあらず、といった風情で遠くを見つめていました。明らかに過去のマキシムとは年齢だけでなく表情も別物になってます。
カーテンコールは3回。フィナーレ曲の後にも更に2回出てきてくれてました。5回目の時に吉野さんが禅さんに服を掴まれてずるずる引きずられながらお手振りしていたのが可愛かったです。

ちなみに今回、母親と一緒の観劇だったのですが、感想は、
「山口さん、声がいいね!今までより若く見えるね!」
「シルビアの歌が凄いね」
「主人公の子(ちひろちゃんのこと)、名前何ていったっけ?上手いね」
「出演者、これからすぐ家に帰るんだよね。大変だね」
といった所でした。
吉野さんは今回悪役だし、そんなに母親が得意なタイプじゃなかろうとは思ってましたが、個人的には禅さんをスルーだったのは少し意外でした。まあ、1曲しかソロないですし、仕方ないのだけど。

*1:何度観ても山口さんの所作に不審を覚えない重症者なのです。