日々記 観劇別館

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『レベッカ』プレビュー初日感想(2018.12.1 17:00開演)

キャスト:
「わたし」=大塚千弘 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=涼風真世 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=後藤晋彦 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

 

シアター1010で開幕した『レベッカ』プレビュー初日を観てまいりました。

出かける前の午前中に東宝のサイトを見て「吉野圭吾さん休演、後藤晋彦さん代演」の報に驚愕し、少々動揺しつつもお出かけ。

ほぼTwitter投稿の焼き直しですが、まず休演と代演の件について最初にまとめておきます。

プレビュー開演前に、演出家の山田さんから、吉野さん休演と後藤さん代演について、説明がありました。休演の理由は「事情により」のみでしたが、「後藤さんはとても短い期間で準備を……」と仰っていたので、本当に緊急事態であったらしいことが窺えました。お友達の三谷幸喜さんをネタにしたジョークを交えつつ、山田さんが客席を、スタッフを、そして役者さん方を懸命にほぐそうと務めている様子が伝わってきました。

本編が始まり、後藤さんのファヴェルは1幕を見る限りとてもねちっこく人が悪そうに作っているように見受けられました。原作のちょっと脂ぎっしゅなファヴェルに近い感じだったと思います。吉野ファヴェルを真似たものではなくきちんと彼のファヴェルとして演じようとしていると感じました。
2幕のファヴェルのソロはそっくりカットされていました。あればかりはやはり吉野さん当て振りだから無理だったのかな? と思っていましたが、カーテンコールでの祐一郎さんから納得のいくコメントが。コメントの概要は次のとおりです。
「彼は昨日今日の稽古で(代役の演技を)覚えました。ああ、できるんだ、と、今後日本の演劇界でお稽古の期間が短くなったらそれはこの後藤さんのせいです(にっこり)」
祐一郎さんの言葉の響きも、他のアンサンブルの皆様の拍手にもとても暖かい響きがありました。
最初からアンダーとして準備したものではなく、(恐らくは出番や声域の関係から)その役ができそうな既存キャストが短期間の稽古で代役を演じざるを得ない、そのシステムについては色々思うところがございます。しかし、例え1シーンの一時的なカットに繋がったとしても、今回は代役をこなした後藤さんに拍手を送らせていただきます。

以下もほぼツイートの焼き直しではありますが、簡単に感想を記させていただきます。演出変更のネタバレありなのでご注意ください。

 まずマキシムについて。
1幕の「幸せの風景」の歌詞が少し変わっていたようです。最も大きい所では、最後のフレーズが「君が愛しい」ではなく「不思議な人」だったので、んん? となりました。最初の一瞬「作詞王復活?」と思ってごめんなさい。

それで、
「おや? マキシム、『君が愛しい』って言わないの? ヒロインのファザコンに付け込んだ?」
と言ってしまうと語弊がありますが、彼女がマキシムの内心に気づいていないのを良いことに、少し甘え寄りかかってみた所があるのかな? とちらりと考えてしまいました。ああ、汚れた心……。

クリエ初演と帝劇再演では「マキシムDV夫」みたいなネタもありましたが、今回のマキシムにはそんな一面的なものではない、自分への自信のなさ、後ろ暗さ等に起因する屈折と翳りが、一見笑っていても愛の言葉を口にしていても、そして怒鳴り散らしていても、常に漂っていると感じられました。

そして2幕の追い詰められたマキシム。1幕では、不本意に若妻を苦しめていることに気がつきつつ、どうにもできない自分の不甲斐なさにもがきつつも、辛うじて封じ込めていた懊悩が、「凍りつく微笑み」の絶唱で一気に決壊に至っていました。
長年城主として心の弱さを閉じ込めてきたマキシムが、初めてヒロインという泣いて寄りかかれる胸を見つけて、彼女は彼にとって、いなくては生きていけない存在になりましたし、彼女にとっても強さへの一歩を踏み出す重要なきっかけになりました。
そのことについて、これまでなら「ああ、良かったね」と素直に言えたのですが、どうにも最後まで彼から孤独感が抜けないと感じられたのはいったい何故なのでしょう。

ある意味失礼な言い方かも知れませんが、役者さんって、いくつになっても、還暦や古稀を過ぎたとしても関係なく、脱皮して成長して変化できるんだなあ、と今回の祐一郎マキシムを観て思いました。アルフレッドやロバートの旅は確実にあなた(マキシム)へと至っている、とも。

ちひろちゃん。いや、大塚千弘さん。もう何の突っ込み所もありません。
初演から10年。彼女も30代の人妻となり、ヒロインと同世代の女性が演じるリアル感が薄れていたらどうしよう、といらぬ心配をしていましたが、本当に無用な心配でした。
もう彼女の「わたし」を観るのはコンサート以外では無理だろうと思い込んでいたので、今回も彼女の少女から女性への見事な変化を観られて幸せです。

涼風ダンヴァース。涼風さんは大好きな役者さんなのですが、ダニーについては私のイメージとだいぶ異なるのでした。
涼風ダニーは、レベッカを偏愛しているように見えて、実は「レベッカを愛する自分のことが猛烈に好き」なんじゃないかと思いました。そして2幕の彼女の階段追い詰めシーン、好きだったのに変えちゃったのね……。逆に最期の高笑い、あれ変えてくれても良いのだけれど、とも思ったりして、かなりもやっとするものを抱えずにいられません。

フランク。実は今回の観劇で最も心を寄せた人物の1人だったりします。
多分、自分自身、10年近く経って、本業でも中間管理職的立場になって、マキシムの良き理解者としてだけでなく、職業人としての彼の心も少し見えるようになってきたと申しますか。
今回のフランクは全ての真相を察している雰囲気でしたが、その上でマキシムやヒロインの幸福を最大限に願っていて、2幕のレベッカ私物処分でも「ご存分に」と言わんばかりに微笑みを見せていました。
そして、「私は徹頭徹尾マキシムと、(マキシムが再婚相手に選んだ理由が見えた)ヒロインの味方です」という言動を黙ってコツコツと積み重ねて観客に見せていき、2幕のクライマックスでマキシムと一緒に安堵してわーっと心で号泣しているあの姿。こういう人に自分もなりたい! と本気で思った次第です。

モリクミさんのヴァン・ホッパー夫人。私的には、いくらアメリカの新興成金っぽい奥方とは言え、もう少し品性がほしいところです。ヒロインへも当たりがキツい所だけでなく、一応雇い主としての思いやりがある所も見せてもらいたいなあ、と思いました。

ジュリアン大佐。今さんには若干役不足なのでは? と危惧しております。ただ、舞踏会のコスプレでは筋肉質の二の腕を披露してくれているので、そこは見所でしょうか。
なお一応心情はマキシム寄りなキャラクターですが、どうしても『貴婦人の訪問』のあの人のようにいつ裏切るのか? とドキドキしてしまっていけません。

というわけで簡単ですが、以上、初日の感想でした。
これからプレビュー2日目に出向いてまいります。