日々記 観劇別館

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マキシムという男性

実は嫌いでした。『レベッカ』の舞台を見るまでは。いくら人に言えない深い事情があったとは言え、妻が妄想に苛まれ苦しんでいるというのに放置プレイだし、自分しか見えてないし、妻に真相が知れたら知れたで精神的に依存しっぱなしだし。
なのに、舞台を観た後ではその欠点が全て萌えポイントと化してしまいました。マキシムが妻を怒鳴りつけながら実は裏で激しく苦しんでいる様子も、渾身の告白の後で大泣きしながら年若い妻に縋り付く振る舞いも、そして審問会やファヴェルの脅迫に必死で耐えて立ち続ける姿も。
これはマキシムを演じているのが山口さんで、その美しさで全部許せるとか、彼のクリエという劇場のキャパシティには色々と大き過ぎる演技にノックアウトされたこととか、そういう点だけが理由ではないと信じたいです。映画の『レベッカ』を観た時はそこまで印象が変わることはなかったので、多分、マキシムと「わたし」の恋愛が、舞台役者という生身の媒体を得て、より説得力を持って繰り広げられたことによるのではないかと思われます。貴人との初々しい恋愛に夢中になる「わたし」と、人生をやり直そうとしてそうした恋愛の成就を信じるために、意識して大人の余裕の優しさを演じようとする*1マキシムの対照性。真実を知った「わたし」に大人の決意をさせて、秘密の世界に引きずり込んでしまった責任の重さへの苦悩。その一方で共犯者意識という名の神への背徳の下で深まりゆく2人の絆。どうやら原作と舞台との相乗効果で、そうしたマキシムという男性の描写の魅力*2に急速に目を開かされてしまったようです。

というわけで、現在は原作にも舞台にも描かれていない部分を含めてマキシムを、「わたし」を、更には『レベッカ』の世界全体を反芻して楽しめるようにまでなっております。少なくともパロディ小説(極短編)を書けそうな位には(笑)。今更ながら、舞台の力ってつくづく凄いと思いました。

*1:その辺の白々しさ加減をちゃんと表現している山口さんは、よく言われるような大根ではないと思います。

*2:魅力の描写、でないことに注意。