日々記 観劇別館

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『ライト・イン・ザ・ピアッツァ』感想(2007/12/08マチネ)

マーガレット=島田歌穂 クララ=新妻聖子 フランカ=シルビア・グラブ ファブリツィオ=小西遼生 ナッカレリ=鈴木綜馬 ナッカレリ夫人=寿ひずる ジュゼッペ=大高洋夫 ロイ=久保酎吉 司祭=佐山陽規 ほか

ル テアトル銀座で『ライト・イン・ザ・ピアッツァ』を観てきました。1953年夏、母親のマーガレットと2人でフィレンツェを訪れたクララは、広場(ピアッツァ)で出会った現地の青年ファブリツィオと恋に落ちるが、何故かマーガレットは執拗にそれを妨害しようとして……というのがこの演目のストーリー。
クララの抱えている問題(後天的な知的障碍)は観客には割とすぐネタバレしますし、粗筋も結末も大変シンプルなものでしたが、クララを守ることに全てを捧げてきたマーガレットが不測の事態にいかに揺れ動き、娘の本当の幸せをつかみ取ったかということ、また、周囲の人間がいかにクララを受け入れていくかということが、主な見どころとなっており、最後まで目が離せませんでした。
そして音楽も、事前の宣伝でキャストの皆さんが語られていたとおり、音階が複雑でとても一度では頭には入らない類のものでしたが、全体に品のある楽曲で、物語を温かく彩っていたと思います。

今回、オケピが舞台の真ん中にあって、広場の庭園の池に見立てられているという珍しい作りでした。オケピの手前に階段が用意されていて、役者さんはそこから捌けられるようになっていました。従って、役者さんはロの地の通路をぐるぐる歩くことになり、通路の足場もさほど広く無さそうだったので、結構動きが難しいのでは?と思いながら観ていました。
あと面白いと思った演出は、アメリカ人であるマーガレット達の英語の台詞は日本語で表現されているのだけれど、ファブリツィオやナッカレリ氏のイタリア語の台詞はまんまイタリア語で表現されていたこと。つまり、小西くんも綜馬さんも日常シーンの会話ではイタリア語をまくし立てているわけで、最初はやや違和感がありましたが「これは異国での出来事である」ということが分かりやすく、また、徐々に互いが馴染んできてマーガレット達の母語での台詞が増えてくるのが理解できて良かったです。

島田さんは歌以外に地の台詞もかなり多い役柄でしたが、台詞回しが綺麗で聴き取りやすかったです。そして本領のお歌の方でも力み無く自在に歌い上げていらしているだけでなく、歌声にマーガレットの芯の強さと母性愛とが全て込められており、まさにこれぞ実力派、という感じでした。
聖子ちゃんのクララの歌はことごとく音域が高かったですが、事前に心配していたような力みもほとんど無く、終幕まで変わらず耳に優しい美しい高音を響かせてくれました。偏見かも知れませんが、この手の物語ではクララのような女性について、純粋さの象徴としか扱われない場合も多いように思います。しかし、クララの場合、当然純粋さが最大の美点として描かれてはいますが、自分が他人とどこか違うことを理解していながら、その事実を自分の力では覆せず苦悩するという単純ではない人物像であり、そうした難しい役柄を聖子ちゃんはごく自然なふるまいで見事に演じきっていました。
小西くんはレミゼのマリウスの評判が余り芳しくなかったので不安でしたが、想像していた程には悪くなかったです。ただ、発声が弱いのか、ちょっと歌声に不安定な所があって余り綺麗に伸びていないところがあるのが気になりました。
綜馬さんは小西くん演じるファブリツィオの父親役でした。綜馬さん、帰国子女で英語が堪能という話は聞いていましたが、イタリア語も(意味分からないけど)かなり流暢でいらして、陽気にして頑固なイタリア親父になり切っていてかなり笑わせていただきました。今回、母親が綜馬さんをお気になので一緒に連れて行ったのですが、出番も見せ場もかなりあったので、結構喜んでもらえました。
寿さんは最初綜馬さんの奥さん役と聞いて「ええっ!?ゾフィー様とフランツが夫婦?」と思いましたが、綜馬さんの老け具合がはまっていたこともあって全く違和感無し。歌の高音部はそんなに得意そうではなかったものの、夫に従順だけど貫禄のあるマンマで素敵でした。
シルビアさんは夫(ファブリツィオの兄)の不貞に悩む役どころで、クララの障碍を知らずに結婚生活の暗黒面を切々と語り聞かせ、二幕でクララが引き起こす事件の遠因となってしまいます。でも、その事件をきっかけに夫を受け入れる心を取り戻すという美味しい役回りでもありました。歌は安定感がありましたが、果たして来年4月から『レベッカ』のダンヴァース夫人役を完走できるかについての評価はひとまず保留とさせていただきます。

全体を通して印象に残った場面は、二幕の後半でナッカレリ氏があるきっかけから突如息子の結婚に反対するものの、マーガレットとの話し合いで和解するまでの一連のエピソードです。細かいネタバレは避けますが、この場面を見て単純な私は最初、
「どうして今更そんなつまらないことにこだわってご破算にしようとしたのか分からないなあ。でも和解できて良かったね」
と思っておりましたが、観劇後に母親と話していて、
「あれはクララの障碍を確信したのだけど、そのことは直接言わずにあえて、今更な事実を持ち出して言いがかりをつけたのよ」
と言われて初めて、ああそうだったのか!と納得して、この場面の奥深い味わいに気づいたという間抜けさでした。綜馬さんと島田さんの、息子(娘)に愛情を注いできたもの同士の、若いカップルを思い遣るデュエットナンバーもあり、素敵なエピソードです。

結局お父さん以外のナッカレリ一家の何人がクララの真実に気づいた上で受け入れたのか?という疑問は残るわけですが(多分ファブリツィオも含めて全員気づいたか、少なくとも事情を察したとは推測してます)、この物語は娘に負い目を持ちつつも気丈に振る舞い、娘の為に全てを犠牲にして生きてきた一方で、精神的に娘に依存してきたマーガレットという女性が、精神的に自立して娘の結婚を心から祝福することが出来るようになるまでのお話なので、まあ、ナッカレリ一家が気づいたかどうかはどっちでも良いのだろう、と思うことにしました。個人的には先日の『テイクフライト』より好みな演目でした。音楽も良かったし、もしCDとか出してくれたらきっと買うんですが……無理かな?