日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』プレビュー初日感想(2011.4.8ソワレ(山口バルジャン篇))

4月12日から本公演が始まる『レ・ミゼラブル』のプレビュー公演初日を観てまいりました。
3月11日の大地震、そして昨晩4月7日の余震……。多分、自分が劇場に来ることができたのは、偶然の巡り合わせに過ぎないのだと思います。
まだプレビュー初日だというのに、舞台の上のキャストからは、不思議な位の一体感を感じました。役柄や役者のランクを問わずキャストが共に学ぶ、この作品では、それは「できて当たり前」のことなのかも知れませんが、今回は特に強い結束が伝わってきたように思います。

何だか随分大人になった気がする山崎マリウスや、新キャストのことなど、書きたいことはいっぱいあるのですが、今日はひとまず山口バルジャンについての感想からまいります。

山口バルジャンで今回すっかり圧倒されたのは、彼の全身から溢れまくっていた激情のオーラです。プロローグから一貫して、あまりに、あまりにも強烈で、客席でひたすら心を揺さぶられるに任せるばかりでした。ファンの贔屓目かも知れないことは百も承知です。
自分のいつも知っている山口バルジャンは、以前もブログに書いたと思いますが、人生の岐路で苦悩しつつも、無意識に光の道を選び取り歩みを進めるバルジャンです。
ところが今日の山口バルジャン、特に1幕前半のファンティーヌの死に立ち会うまでの彼は、様々な局面で激しく揺れ動き、一歩間違えたら全く違う方向に振り子が振れてしまいそうに見えました。
それから、これはプレビュー初日故の緊張も影響していたのかも知れませんが、歌声が綺麗に突き抜けて伸びるのではなく、若干声が震え気味で、所々語り歌いのようになっていました。それでも滑舌が綺麗なのは山口バルジャンならではだなあ、等と余分なことを考えながら聴いておりましたが。
山口バルジャンの感情のほとばしりが頂点に達したのは、2幕の「彼を帰して」でした。堪え続けている感情のバリアがいつ破れて号泣してもおかしくない、ぎりぎりの表情で、若者を救うために祈り続けるバルジャン。客席で泣かずにいる方が難しいです。

そして、エピローグで手を差し伸べたファンティーヌに向けられた、山口バルジャンの微笑みの温かさ、安らかさ、そして端正な美しさを全部まとめて「綺麗……」と息を呑んだのもつかの間。臨終に駆けつけたコゼットへの告白から天に召されるまで、時に唇を強く引き結び、目を瞑りつつ、ずっと溢れる感情を堪え続ける彼の姿が舞台の上にありました。
ここまで感情が溢れかえり、そして揺れ動く山口バルジャンを観たのは初めてです。
日頃のメディア上での発言にあれだけ感受性の強さを漂わせている山口さんですし、今回の地震の影響などで何か心境の変化があったのだろうか?とまで思ってしまいました。
カーテンコールで、山口さんがバルジャンのものではない、いつもの背筋正しく爽やかな笑顔を見せてくれた時、こんなに安堵したことはありません。

実は、レミゼ関係の記事が載った演劇雑誌などを読んでも、以前ならその感想を即ブログに上げて熱く語っていたのに、あの地震以後、とてもそういう気持ちになれない日々が続いていました。もちろん記事やそこに載っている写真自体は、自分をとても幸せな気持ちにしてくれていますし、小さい感想はTwitterに流してしまったりもしているのですが。
今回の舞台を観て、良かった、私にもまだ、プラス方向に揺り動かされる心の余地があったんだ、と気づくことができました。
ありがとう、山口さん。貴方がご無事で本当に良かったです。そして『レ・ミゼラブル』という作品にも大きな大きな「ありがとう」を言いたいと思います。