日々記 観劇別館

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『パイレート・クィーン』感想(2009.12.20マチネ)

グレイス・オマリー=保坂知寿 ティアナン=山口祐一郎 エリザベス1世涼風真世 族長ドゥブダラ=今井清隆 ビンガム卿=石川禅 ドーナル=宮川浩

12月5日以来約2週間ぶりの観劇でした。センターのアイリッシュダンサーは6人に戻っていました。今更ですが、中川唯可さん(植木達也さんも)、無事のご復帰何よりです。

今回は初めての2階からの観劇(上手ブロックB列)でしたが、この演目では照明が実に綺麗、更にそれだけでなく登場人物の心境もしっかり表現していたのだということを初めて知りました。
例えば1幕でティアナンがグレイスに対し初めて結婚を口にするデュエットの場面での海の波紋っぽい照明はきらきら光って爽やかな雰囲気です。
一方、グレイスが政略結婚を受け入れた後に苦悩する場面での照明は、紫や黄土を基調としてもやもやとして、どこか毒々しくもあり、これが表面はひたすら強いグレイスの心の内の悲しみの色なのか、と息を飲みました。
それから、2幕のラスト、グレイス&ティアナンの再会場面で地面に照らし出されるアイルランドの地図も、「ザ・大地」といった趣で雰囲気が出ていたと思います。
PQは残り2回観る予定がありますが、2回とも1階席なので結構残念だったりします。

また、これまで1階で観ていた時は見えなかった場面で、2階からは良く見えた場面がいくつかありました。
例えば族長の葬儀で、ティアナンとドーナルが火をつけた水葬の船を送り出す場面。盆がゆっくりと回転して船が流れていく様子が実に厳かで、今までこれが見えなかったとはなんてもったいなかったんだ!と考えながら、舞台後ろにオールを持って静かに佇むティアナン達と同じように船の炎を見つめていました。
それから、1幕で死の床にある族長のもとに向かう道行きで、途中ちゃんと船に乗っていたんだ!とびっくりしたのは私だけかも知れませんが(^_^;)。本日まで、舞台上にある船の舳先が目に入らず、ずっと「徒歩で移動するのね、大変」と本気で思っていました。
(2009.12.26追記)前楽・楽と観ましたが見間違いでやはり全部徒歩移動のようです。いい加減なことを書いてしまいすみません。大体あの場面の歌詞も、川を越え山を越えて(グレイスのお蔭で)心を一つにしてクルー湾へ旅する、という内容なので、船は使ってないと思われます。

各キャストについては、涼風さんのお声がごく軽くお疲れかな?と感じた以外は特に大きい変化はなかったと思います。ダンスについても、センターダンサーもアンサンブルの皆さんも、そろそろお疲れだろうに、一定のテンションと質を保っていてプロの仕事だ、と感じました。

ティアナンについては、初登場時に無理矢理挙動不審ハイテンションな若作りをするのはすっかり止めたようです。但し1幕前半の発声がハイトーンなのは変わりありません。
どこか動作がもったりしていることもあり、見た目上若々しくは見えなくなりましたが、その代わりに最初からゆったりと優しいティアナンになったと思います。成長後の一切自己を省みず他者のためのみに行動する男への変化もごく自然になりました。
グレイス&ティアナンのデュエットも、お歌、演技ともに安心して感動することができました。特に2幕ラスト。ティアナンが囚人なのにむやみに神々しく白い光を浴びて輝いていて、それだけでも心がくすぐられるわけですが、加えて小柄なグレイスに合わせて膝をかなり落とし気味にして抱きしめている姿がまた、強烈な萌え心を呼び覚ますのです。
今回ティアナンを観ていてこれは!と思ったのは、2幕でグレイスの釈放を直訴に行った時、「この命を」を歌っている間もビンガム卿に嘲笑されている時もずっと目を伏せていて、女王の許可が下った時に初めて、とても意外そうに目を見開いて輝かせた瞬間でした。
彼は身代わりどころかその場で手討ちにされても文句を言えない立場なので、本当に命がけで他の恭順する族長達についてきたと思うのです。というより、グレイスが望み通り釈放されるよりも、釈放されずに自分が殺される確率の方が遙かに高いし、それならそれで良い、とすら考えていたのではないかと。なので自分の望み通りの展開になったことに相当驚いたのではないのでしょうか。
私は自己犠牲精神をまるごと肯定したい方ではありませんが(全否定はしません)、自分が死ぬ可能性の方が高いと分かっていてそれでも女王に直訴したティアナンって、実は結構凄い男なのでは?と、今回ばかりは素直に感動させてもらいました。

少しだけ苦言を申しますと、今回観ていて、2幕のグレイス釈放〜エリザベスとの会見と和解に至るまでの場面展開がちょっとだれ気味で辛かったです。前回観た時はグレイス&エリザベスの女声デュエットに夢中で、そうは思わなかったのですが。そもそもあの場面を何度観てもビンガム卿への哀れみと、エリザベスの女狐ぶりがどうしても引っかかって、素直に「グレイス良かったね」と言えない所が問題かと思います。

本日はマチネのみの公演だったこともあり、カテコで少し多めの回数登場してくれました。山口さんのニセアイリッシュステップは相変わらずでしたが、前回観た時よりさらにステップの型が崩壊していたように見えたのは気のせいでしょうか(^_^;)。
ちなみにカテコで皆を仕切ってるのは保坂さんではなく山口さんです。最後のお出ましでアンサンブルの皆さんがアイリッシュダンスを披露している間は、一緒に踊るのではなく後方で頭の上で手拍子しながら飛び跳ねていました。非常にラブリーではありましたが、周辺の客席から「ロボダンス」と聞こえたような気がしたのは空耳ということにしておきます。