日々記 観劇別館

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『エリザベート』観てきました

8月に『モーツァルト!』を観劇して以来、ミュージカルという演劇分野がちょっと気になってきていましたが、土曜日、友人の好意により帝劇で上演中の『エリザベート』を観劇することができました。当日朝は家事やらが色々間に合わず、電車を一本乗りはぐり、待ち合わせた友人を10分待たせる始末。それでもどうにか帝劇に早めに到着することができました。
 12時に開演。19世紀のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフに嫁いだ女性エリザベートの、その束縛を嫌う性格ゆえの波乱の人生と、彼女に魅入り執着する黄泉の帝王トートとの愛憎を縦糸に、時代のうねりの中滅びに向かいつつあるハプスブルク家の姿を横糸に織りなされた物語がきらびやかに展開されていきました。

筆者が観たのは、トート=山口祐一郎、フランツ・ヨーゼフ=石川禅のバージョン。特に山口さんについては8月の『モーツァルト!』以来気になって仕方がなかったのでわくわくと見守り、さすがの美声と華やかな存在感にただ引き込まれるばかりでした。パワフルなナンバー「最後のダンス」も、皇太子ルドルフとの哀愁あふれる「闇が広がる」もそれぞれに良。偽医師に化けてフランツの不貞を病のエリザベートに伝える場面では、正体を現し彼女を黄泉に連れ去ろうとする姿のオーバーアクションに思わず笑ってしまいましたが。『ルパン三世』で不二子を襲おうとするルパンを連想したのはきっと自分だけでしょう。
 エリザ一路さんとフランツ石川さんは初見でしたが、場の空気を造り出す歌声と演技にため息。「プロフェッショナルとはこういうものか」と思わせるものがありました。

全てを見終えて印象に残ったのは、エリザベートという女性が自我を押し通し続けたのと引き替えに周囲の人間が失ったものの大きさでした。一度の裏切りを最後まで許してもらえなかったフランツ。その裏切りをそそのかした結果息子に背かれ、失意の内に他界する皇太后。そして、孤独な幼年時代を送り、父帝と政治的に対立した故に遠ざけられ、「僕はママの鏡だから」と母后にすがりつくも突き放された末、トートに魅入られて黄泉に連れ去られたルドルフ。彼が最大の犠牲者でしょう。エリザベート自身が宮廷の犠牲者と言ってしまえばそれまでですが、彼女の自由を求める心を理解はできても実際のところ共感するのは難しかったです。フランツの裏切り発覚後は「自由を求める」というよりも夫から、息子から、ひいては宮廷制度や政治から心情的に逃げているのが見え見えでしたし。彼女も一種の「魔性の女」であって、それこそがトートに魅入られた要因ではないかな、うん、などと心の中で納得したりして。

・・・などと真面目に書いてみましたが、今回の観劇にはかなり笑いの要素も含まれていました。実は参加した公演はミュージカルのスポンサーになっている某カード会社のスペシャルデーで、サイン色紙や終演後の主役2人(一路さんと山口さん)との記念撮影権などが当たる抽選会が開かれるなどしていたのですが、問題はこの記念撮影時。筆者はもちろん当選者ではなく客席から眺めていただけでしたが、一路さんと連れ立って登場した山口さんの手には黄色と緑に染め抜かれたカード会社のノボリが!しかも撮影中か否かを問わず、自分の挨拶中(駄洒落あり)もずっと持ちっぱなしの上、一路さんの挨拶中には客席に対して横向きに立った自分の身体をノボリですっぽり隠しておどけてますし。実は大変にお茶目でサービス精神旺盛な方なのだとわかりました。友人によればファンには自明のことのようでしたが。
 加えて何とも楽しかったのは、同行した友人たちとの会話です。『エリザベート』を初めとする様々なミュージカルを見続けてきた彼女たちの、舞台に対する鋭くも暖かく笑えるツッコミにはかなり楽しませてもらいました。内容を詳しく書くと俳優さんたちのコアなファンの皆様に叱られそうなので、差し障りのなさそうなことを一つだけ書きますと、皇帝夫妻がハンガリーに乗り込む場の民衆の歓迎の言葉「エーヤン エリザベート!」が、彼女たちの話を聞いたあとはどうしても「えぇやん、エリザベート」という関西弁にしか聞こえなくなりました(^_^;)。どちらもあまり意味が変わらないのがまた何とも。

今回の観劇後、有楽町の「ホイリゲンハウス」のお茶会でウィーン料理を賞味しつつ友人たちと話していてわかったのは、ミュージカルというのは同じ演目や演出家であっても、演じる人によって相当印象が違ってくるらしい、ということ。例えばダブルキャストの片方の俳優さんは役の人物の冷徹さを強調し、もう片方の俳優さんは冷たさに潜む人間性に重点を置いて演じ、相手役もまたそれぞれの演技に合わせて少しずつ演じ方に変化を付けているのが、それぞれのキャストの公演を観るとわかるのだそうです。今まで、同じミュージカルのいくつもの公演のチケットを確保すべく努力を重ねる友人たちの様子を黙って眺めているだけでしたが、そうさせるだけの魅力が確かにミュージカル、というか演劇の舞台にはあるのだということを少しだけ理解することができたように思いました。

・・・また長文になってしまいました。どうもすみませんです。