日々記 観劇別館

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『貴婦人の訪問』プレビュー公演感想(2015.7.28ソワレ)

キャスト:
ルフレッド・イル=山口祐一郎 クレア・ツァハナシアン=涼風真世 マチルデ・イル=春野寿美礼 マティアス・リヒター=今井清隆 クラウス・ブラントシュテッター=石川禅 ゲルハルト・ラング=今拓哉 ヨハネス・ライテンベルグ=中山昇

シアター1010。まさかわが家から1時間以内にたどり着ける劇場で、山口さん出演作が上演されるとは。逆に都心や東京の西側にお住まいの方には北千住って微妙に遠いのでは?でもたまにはいいよね?と思いつつ、北千住マルイ11Fまで出向いてまいりました。

以下、感想です。日本初演なので、物語の核心部分のネタバレは避けておきます。

上演時間は1幕1時間15分、休憩20分、2幕1時間の計2時間35分でした。若干のブラックユーモア要素こそありますが基本的に地の台詞が多めの重たい話なので、このくらいの上演時間でちょうどよろしいかと思います。

物語の舞台はヨーロッパのドイツ語圏の国のどこかにあるギュレン市。工場の閉鎖などで財政危機に陥ったこの街の人々が、地元出身の富豪の未亡人クレアの来訪を待ち受け、接待の準備に励む場面から始まります。

この場面に現れた、山口さん演じる雑貨店店主アルフレッドは、眼鏡をかけた半白髪の、まさに市井の「しがないおっさん」でした。ここまで「普通の人間」の役どころは山口さんには珍しいのではないでしょうか。しかも前掛けをして気弱そうに内股歩きする姿の何とも似合うこと!

ルフレッドは理由あって1幕で、元彼女のクレアから一見荒唐無稽とも思える要求をされます。その要求に対する周囲の空気が最初「冗談だろう?」な雰囲気だったのが、クレア側の理由が知れ渡るにつれ徐々に変貌して追い詰められて行きます。
このじわじわ追い詰められる、特に1幕の展開で、ひゃーひゃー悲鳴上げて腕をぶんぶんさせて、頭を抱えながら逃げ回るアルフレッドを、「あ、可愛い」と思ってしまいました。しかもアルフレッド、逃げ回る時には内股で高速移動するわけで(^_^;)。
6年ほど前『パイレート・クィーン』を観た時に、こんな無邪気な笑顔で女の子と走り回る山口さんは滅多に見られないぞ、と思ったものですが、今回もそれに近い思いを抱いております。

ルフレッドの歌は、聴かせ所は何カ所かありました。山口さんの持ち味であるウィスパーボイスとファルセットの美しさが発揮されるのは2幕のソロです。このソロを歌う立ち姿と手の仕草が、もう本当にいつもの山口さんのポーズでして(^_^)。どこかホッとしたのは何故でしょう。
そして何度かに渡るクレアとのデュエット。2人の歌声を聴きながら、これは歌が本当に上手くないと歌いこなせまい、と恐れ入っていました。
特に1幕での老若アルフレッド&クレアの四重唱などは、超絶に難しそうに思います。若アルフレッド&クレアを演じた寺元健一郎さんと飯野めぐみさんも見事でした。

しかし、何と言っても凄かったのは、時々差し挟まれるクレアのソロナンバー、そして涼風さんの演技です。
クレアの、人間の愛情や理性を信じようとする行為への冷笑から、その冷笑していた筈のものに心を揺り動かされた状態で自ら招いた結果に対峙する、荒涼たる心象風景に至るまでの表現。これから地方公演がありますが、あのまま崩れずにまたクリエに戻ってきて欲しいです。

ほかには、1幕のおっさんカルテット(市長・校長・署長・牧師)四重唱が格好良かったです。何しろカルテットの構成員は元ジャベールと元エルマーなわけで(^_^)。
今年のクリエコンサートの時も思ったのですが、自分は多分、男性の三重唱、四重奏が好物の1つと思われます。

最後に物語の結末について簡単に触れておきます。
元々はどうにも取り返しの付かない、同情の余地のない背信行為が原因とは言え、とても理不尽な結末です。
しかし、そうした結末であるにも関わらず、結局罪を受け入れ一身に背負った筈の登場人物が、ラストではただ1人「救済された」という印象を受けました。残りの人々は、誰も得していません。否、ごく一時的には利益を得たかも知れませんが、究極的には誰も救われていないのです。何とも言えず苦すぎる、大人の味わいの寓話でした。

おまけ。以下、2つほど疑問点です。

2幕で今さんが山口さんにとある物を手渡す場面で、妙にもたもたしていました。私は今日が初見でしたので良く分かりませんでしたが、あれは小道具を忘れてきていたのでしょうか?(^_^;)
また、ラストで飛び去るヘリ。あれに「彼女」はともかく果たして「彼」は乗っていたのでしょうか?気になるところです。

次回クリエでこの演目を観るのは8月下旬。しばらく先です。それまでに何か思い出したら、付け足しでまた書きたいと思います。