日々記 観劇別館

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『貴婦人の訪問』感想(2015.8.22ソワレ)

プレビュー以来、クリエでは初めてのこの演目の観劇でした。

とにかくキャストの皆さまの演技が、プレビューとは比べものにならないくらい、それぞれ深まっていたと思います。

特に、まず中山さんの牧師。格段にキャラクターが立っていました。神の名の下に市民に同調して煽って煽られて、アルフレッド殺しを正当化していく恐ろしさ。結末の恐ろしさがより際立ったと感じました。

それから今さんの署長。あくまで署長自身はアルフレッドへの友情が変わらないものだと信じているけれど、絆の元に平然と偽善を語る姿が本当に恐ろしかったです。特に幕切れで、札束を降らせながら去っていくヘリを見上げながら彼が見せる、満面の笑み!怖いよ怖いよ……!

今井さんの市長。クズいです(^_^;)。彼が朗々とした美声で正義を叫んでかつての友人をさげすむほどに、クズさが増して行く感じで。その分、かつて最もクズいことをした筈のアルフレッドの純粋さが際立っていくのが面白いです。

禅さんの校長。あの流されやすい市民達の中で理性を保ち続ける数少ない人物。でも心の弱さ故に、流れに抵抗することはできず、また、腹を括ったアルフレッドを止めることも叶わず、とうとう大勢への同調の道を選んでしまう悲しい人。ラストの様子を見ていると、彼はもう元の善意溢れる校長には戻れず、ただの世捨て人として余生を送るのではないか?という気がとてもしています。

そして、何と言ってもアルフレッド。
2幕の前半まで死を恐れあがいていたアルフレッドが、市民の偽善、そして、信じていた友人達の偽善と裏切りを知った後に決定的に変貌し、「もう恐れない」で自らの魂を誤魔化すことをぴたりと止めます。声色も表情もそれまでの小市民のものではもうなくて、この時点から最期まで、アルフレッドはぶれることはありません。性根が定まっているから、不随意に肉体を失うことになっても、もうあがかない。一連の祐一郎さんがかなり光っていました。
ルフレッドがクレアに「愛は永遠に」で「愛は消えない」と語りかける場面。言ってることの半分は実は1幕で許しを乞うた時と同じです。しかし、心の羅針盤が定まり、たとえ許されなくても愛しているという、憑き物の落ちたような本心が、アルフレッドの表情と歌声から真っ直ぐに伝わってきました。祐一郎さんの恐ろしさはこういう所にあるのです。

今回の幕切れの印象は前回と違っていて、自分の心に向き合って真実を手にしたアルフレッドだけでなく、クレアも何だかんだで、真実手に入れたかった物を手にすることができたのかな、と思いました。もちろん自らが望んだ結果とは言え、代償も大き過ぎるわけですが。

あと、初めて気づいた点が3つ。1つは先程も書いた署長のラストの怖い笑顔。
2つめは天井の時計の針。幕開けにはなかったのに、終幕気づいたら針が付いていました。さて、あれは誰の止まった時間が動き出したのでしょう。
もう1つはラストにクレアがマチルデに向けた表情。口元が微かに、どこか寂しげに微笑んでいました。多分、勝利の笑みではないと思いますが、色々な思いが混じった笑み。さて、どうなんでしょうね……。