日々記 観劇別館

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『MIWA』感想(2013.10.6マチネ)

キャスト:
MIWA=宮沢りえ 赤絃繫一郎=瑛太 マリア=井上真央 最初の審判/通訳=小出恵介 ボーイ=浦井健治 負け女=青木さやか 半・陰陽=池田成志 オスカワアイドル=野田秀樹 安藤牛乳=古田新太

前日観た『それからのブンとフン』の興奮冷めやらぬ中、東京芸術劇場にて初・野田地図にチャレンジしてまいりました。

休憩なし1幕もので2時間。お尻、痛かったです(笑)。
しかし。野田さんの脚本は、とにかく綴られているテキストの音の響きが美しいのです。極めつけに耳の良い方が綴ったに違いないそれらの言葉が、役者さんの唇から台詞として紡ぎ出され、何とも心地良く耳に、心に入り込んで来ました。

このお芝居の感想を書こうとすると、思いがばらばらな角度に散乱してしまいそうでどうも難しいものがあります。

一応、あの美輪明宏さんをモチーフにして生み出された物語なのですが、美輪さんの半生に妄想を思い切り注ぎ込んだ上で、野田さん流に巧みに換骨奪胎して組み立て直されているイメージです。野田さんがパンフでもコメントされている通り、あくまで実在の美輪さんの人生とは異なるフィクションなのだとは思いますが、一方で物語には美輪さんの心の原風景が色濃く影を落としており、やはり美輪さんご本人と切り離すことができません。

物語は、男になることも女になることも拒んだ魂が、ふとしたことで男でも女でもある異形の化け物安藤牛乳を半身として、聖母マリアの祝福を受け、男の子シンゴとして長崎に生まれる所から始まります。
第一の、第二の、そして第三の母親(聖母マリアの転生のイメージで描かれるのがユニーク)に愛されたり疎まれたりしながら成長するシンゴ少年はやがて同性を思慕し、異形の半身を時に疎み時に恋しがりながら、希有な歌い手MIWAとして愛と妄想の美学に満ちた数奇な人生を歩んでいく……というのが物語の骨子です。

どうでも良い話ですが、冒頭の場面を見た時、手塚治虫さんの『リボンの騎士』を思い出さずにはいられませんでした。
また、開演前にパンフを眺めた時には、古田さんの奇妙な役名に首を捻るばかりでしたが、間もなく意味が分かり深く納得しました。いえ、その前に、古田さんの「化け物」ぶりに度肝を抜かれ、爆笑していたわけですが。対するMIWAを演じるりえちゃんが本当につるつるしていて美しいので、余計に2人の差が際立っていて。
MIWAと安藤牛乳。2人の関係性からは『半神』を連想させられました。……と言っても、野田さんの『半神』は観ていないので、あくまで萩尾望都さんの漫画の方です。もちろん彼らの性格も設定も、あの双子とは全く異なりますが、憎みつつ愛しつつ、魂は消えても鏡の中に貴方がいる、的な所から。ただ1つ大きく違うのは、「鏡の中の貴方」は意志的に作り出され、人格統合がなされた存在であるという所です。

この物語、一応同性愛が要素の1つになっている話でありながら、MIWAを演じているのが女優さんなこともあってか、描かれている愛はとても普遍的なものでした。これはパンフでの野田さんと美輪さんの対談を読む限りは、多分野田さんの狙い通りなのでしょう。

その野田さん演じるオスカワアイドルさんは、イメージキャラは美輪さんとご縁の深かった「あの方」なのだと分かりますが、ビジュアルは180°違います。なのにもしかして、あの方ももしかしたら精神的にこういう一面があったのではないか?と思わせてくれる不思議な存在でした。

浦井くんは、あまり細かく書くとネタバレになってしまいますが、脇の要所要所で崩れてはいけない役です。彼の身軽だけどどこか普通ではないダンスとアクション(誉めてます)をあちこちで堪能しました。個人的には、あの衣装(あえて書きません)が千穐楽まで破れずに保つかどうかだけが心配です(^_^;)。
瑛太さんと井上真央さんは、「健全で普通で真っ直ぐな愛情の持ち主」であることを求められている役なのかなあ、と思いました。上手く言えませんが。

また、この演目で、美輪さんだけでなく野田さんも長崎出身であることを初めて知りました。
物語中、事ある毎にフラッシュバックする原爆投下の場面。そして、焼け野原に座り込んだ安藤牛乳(の化身である男)の、
「普通の殺人は罰せられるから罪だが、原爆投下は罰せられないから罪ではない」*1
というチャップリンの『殺人狂時代』へのオマージュ的な呟き。観劇後何日も経ってなお、心に重くのしかかり続けています。
MIWAの心の原風景は、二人目の母親のヨイトマケと、この原爆投下場面とで形作られていると思いましたが、個人的には後者のインパクトがあまりに強すぎて、前者から受ける印象が薄くなってしまった感もあります。

とりとめなく、何日かかけて少しずつ感想を綴ってまいりましたが、そろそろ終わりにしたいと思います。
改めて『MIWA』、超絶的にグロテスクで、超絶的に美しい、希有で愛すべき「化け物」へのリスペクトに満ちた、何とも不思議な物語でした。

ところで物語の後半に登場する「CD」は、やはり時代感を薄めていつの時代か分からなくするためのアイテムだったのでしょうか?時代背景は明らかに昭和1桁年代〜40年代をモチーフとしていましたが、あのCDたった1枚で時代考証が全てどうでも良くなっていましたので。

*1:この台詞、あまり正確ではありません。