日々記 観劇別館

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『ウィーンミュージカルコンサート II』感想(2013.7.6ソワレ)

キャスト:
マヤ・ハクフォート マーク・ザイベルト アンネミーケ・ファン・ダム ルカス・ペルマン イングヴェ・ガーソイ・ロムダール ケヴィン・タート オク・ジュヒョン

オーチャードホールでウィーンミュージカルコンサート II(略称:WMC2)を観てまいりました。

7月半ばにはシアターオーブでの公演もありますが、オーブは、あそこでしか演らない公演でない限りは、音響や座席の好み上できれば回避したいので、あえてオーチャードホールでの公演を選びました。
ただ、実は自分は渋谷の街の雰囲気、街並みから雑踏から何もかもがかなり苦手でして……。どれだけ苦手かと申しますと、JR渋谷駅ハチ公改札からオーチャードホールに着くまでの10分足らずの道筋で精神的に辛くなり、1回カフェで休憩しないとたどり着けなかった位には苦手です。

オーチャードホール、音響は流石に素晴らしかったと思います。
ただ、ロビーでの物販列の捌きがあまりよろしくない印象を受けました。後から聞いた所、ホールの職員の方ではなく主催側のスタッフの対応だったようですが、最初一緒だったパンフとCDの物販列が超長蛇の列になってしまったため、途中から「パンフのみ購入の方はこちらへ」というスタッフの案内があり分けられました。CDは不要でしたので付いて行きかけた所、別のスタッフからは「こちらは特典お渡しの列です」というアナウンスがあったため、私を含む2、3名から「パンフ購入列どっちなんですか!?」というツッコミが。
結局パンフはぎりぎり開演前に入手できましたが、どうもパンフとCDどちらかを買うと、もれなく終演後に開催されるサイン会の参加券が付いてくる、という太っ腹なサービスが用意されていたのが、あの超長蛇の列の原因だったようです。頑張っているスタッフさんに語気を荒げてしまって申し訳なかったなあ、とはちょっと思いましたが、「サイン会は不参加で良いけどパンフだけ欲しい」人の列もあると良かったのに、とも思っております。結局、サイン会も超長蛇の列になってしまって、半端に渋谷から自宅が遠い身としては諦めざるを得ませんでしたので……。

さて、前置きがとても長くなりましたが、以下、コンサート本編の感想です。例により少々ネタバレしています。

コンサート本編は2部構成、その後に「アフターボーナスショー」と称するアンコールコーナーがありました。
第1部は『ダンス・オブ・ヴァンパイア』(TdV)と『ルドルフ』と『モーツァルト!』(M!)から、第2部は『ロミオ&ジュリエット』(R&J)、『レベッカ』、そして『エリザベート』からの選曲で構成されていました。
ボーナスショーは、本編とは異なりウィーンに所縁の演目以外の曲目からも選曲されていました。日替わりでテーマが異なるらしく、7月6日ソワレでは「ラブ・デュエット」と称して3曲ほど歌われていました。1曲ほどデュエットではない曲もありましたが(^_^;)、それについては後ほど。
司会兼ドイツ語通訳は高島勲さん*1。高島さんの本職はオペラの演出家らしいんですが、ウィーンミュージカル絡みでしかお顔を拝見していなくてすみません……。キャストととのトークでは軽妙にして上品に、時にお茶目に*2語りを引き出してくださいました。

第1部前半、TdVからは、塩田さん指揮、ダットミュージックオーケストラによるオーヴァーチュアを含めると、計4曲採り上げられていました。担当は、伯爵役がケヴィン、サラ役がアンネミーケ、アルフレート役はもちろんルカス。4曲目に「抑えがたい欲望」のイントロが流れてきて、「え、これ歌うの?大変!」と思いましたが、まさか「2曲分の歌唱量を要求する」と誰かさんも言っていたこの曲を歌ってくれるとは思わなかったので、大変嬉しかったです。ケヴィンの歌は、伯爵を1000回務めたベテランということで、迫力と陰影に満ちていました。あ、意外と身振り手振りも激しかったです。日本の伯爵の手振りが良くカーネル・サンダースとか何とか言われますが、ケヴィンを観る限り、いや、別にあれ、普通なんじゃ?と身贔屓しております。
サラの役は、きっとマジャーンが来日できていれば演ったのだろうとは思いますが*3、アンネミーケが真面目な話、本当に可愛かったです。マジャーンのような、言わば鼻っ柱の強い小娘の微笑ましい可愛さではなく、清楚系の凛とした可愛さが歌声にも姿にも漂っていて。高島さんとのトークコーナーで、覚え立ての日本語*4を披露して言い間違いをしてしまい、高島さんの指摘を受け「きゃーっ!」となっている姿にきゅんとしました。高島さんも「アンネミーケ、本当可愛いんですよ!」と仰っていました。

その後『ルドルフ』の歌を2曲ほど、マリーのソロをジュヒョンが韓国語で1曲、ルドルフとマリーのデュエットをルカス&アンネミーケで1曲聴かせてくれました。ごめんなさい、私は『ルドルフ』は観ていないので良く分かりません。
ジュヒョンさんについては、ウィーンキャストファンの中には彼女の出る公演を回避した人もいたようですが、歌は流石にうまかったですし、立ち居振る舞いも綺麗。場違いな印象は全くなかったです。むしろ中途半端に日本人ゲストに出てこられるより何十倍もいいと個人的には思います。
第1部後半はM!からたっぷり7曲ほど披露されました。
M!初演のヴォルフキャスト、イングヴェの歌は初めて聴きましたが、実に骨太にして奔放で、かつ繊細なヴォルフで。コロレド猊下の台詞を借りて「……完璧だ!」と心の中で呟いていました。
コロレド猊下は、マークとケヴィンの2人が務めていました。「何処だ、モーツァルト!」がマークの担当で、「神よ、何故許される」がケヴィンの担当。そのため、第1部最後の「影を逃れて」では「猊下が2人いる!」な状態に(笑)。
どちらもそれぞれ、迫力のある猊下でしたが、最初にマークが登場して「何処だ、モーツァルト!」「訊かれないのに答えるなー!」と凛と歌った瞬間、何だか一瞬、山口猊下の影がよぎった気がしました。あの自信に満ち溢れて、輝く感じの猊下の押し出しにデジャヴ感があるような。

ここでマヤさん(ここだけ何故かさん付け)ご登場。「星から降る金」、人生の陰影に満ちていて、温かみもあって良かったです。トークコーナーでの彼女のコメントによれば、最初リーヴァイさんはM!初演に彼女の出演を想定して当て書きでこの曲を書かれましたが、クンツェさんの脚本から一時男爵夫人の出番がなくなった時期があり、諦めて別にオファーの来ていたレミゼの仕事を受けてしまったので、その後出番が復活したにも関わらずM!初演には出ることができなかったそうです。
ルカスシカネーダーも素晴らしかったです。この曲、実は歌って踊れるだけではなく、確かな演技力がないと成立しないと思っていますが、上っ滑りにならずにここまで演れるのはやはり流石です。

第2部は、R&J舞踏会の場面のインストゥルメンタルから開始。何と言うか、この曲での塩田さんのノリが、指揮しながら踊るわジャンプするわで非常に楽しかったです。「本当の俺じゃない」ではマークティボルトの胸筋の凄さに圧倒されました。後でルカスロミオとのデュエット「世界の王」で客席降りした時に、脇腹に微妙なプニ感があることに気づいてしまいましたが、それはご愛敬ということで(^_^;)。本来モンタギューサイドの曲でロミオとティボルトが、それぞれの家をイメージしたダンサーを従えて(衣装はアニマル柄ではなく青と赤の2色)歌い踊るという、舞台本編には絶対あり得ない状況が面白いなあ、と思いながら観ていました。
マークとルカス、パンフに載っていた2人の対談によれば音大受験生の頃からのお友達だそうで、どうりで息が合っている筈だ、と後から得心した次第です。

続いて『レベッカ』から、マヤさんとジュヒョンが1曲ずつ披露。お2人ともそれぞれの国でダンヴァース夫人(ダニー)キャストではあるのですが、個人的好みではマヤさんに軍配が上がります。ダニーは体温が低くて乾いた感じで主人公を締め付ける方が好きですが、ジュヒョンダニーはもっと押しが強そうに見えましたので。本役で観るともう少し印象が異なるのかも知れませんが。
そう言えばマヤさん、トークコーナーで、ダニー役について
「夫から、実生活に影響が出るからあまり回数演らないように、と言われました(笑)」
とも語られてました。マヤダニー、どれだけ怖くて壊れてしまっていて哀しいダニーなんだろうか、と想像してしまいました。一度観てみたい気はします。

そして、今回最も引き込まれたのはやはり『エリザベート』コーナーでした。「愛と死の輪舞」はもうデュエットver.で定着したようです。マークトートとアンネミーケシシィのペアが、見慣れていないためもあるのか、何だか清新な雰囲気で。日本でもデュエットver.、やってくれればいいのに、とも思います。でも演出が変わる時は最年長トートが外れる時なのだろうか、それは辛いな、等と変なことを考えてしまうわけですが。この2人のデュエットは3曲後の「私が踊る時」でも聴くことができました。
次はマークトートの「最後のダンス」。マークトート、この曲に限らず、表現の質や、意外に細やかな表情の作り方、目線の走らせ方等が少し山口トートに似ているように感じました。
最初は気のせいかと思ったのですが、Twitterでの反応を見ると、トートが笑うとき片方だけ口角を上げる所が似ている、とかあの冷たい笑い方が似ている、とか、同じことを感じた人は結構いらしたようです。
後からパンフを眺めたところ、ルカスとの対談で「チャーミング」という言葉を使っていたり、楽屋の化粧前にはあまり物は置かない、という話をしていたりして、いや、そういう所まで似てなくても、と笑ってしまいましたが(^_^;)。

「私だけに」はジュヒョンシシィによる韓国語ver.でした。実は後で述べる理由により、ジュヒョンシシィの印象の記憶がかなり吹き飛んでしまったのですが、この時は、日本にもこれだけ見事に歌えるシシィがいればいいのに、と嘆息しながら彼女の歌に聴き入っていました。
「魂の自由」は、人生経験を重ねたマヤシシィならではの表現にすっかり圧倒されてしまいましたが、逆にこれを若いアンネミーケシシィが歌ったらどんな感じになるのかも興味があります。
「僕はママの鏡だから」はルカスルドの声にも表情にも行き届いた繊細さが良いのです。
続いて、何を置いても「闇が広がる」。ここでも、マークトートとルカスルドの息ぴったりさ加減がいかんなく発揮され、見事な力強いハーモニーを聴かせてくれていました。そして、やはりマークトートの演技の掘り下げ方に、山口トートのそれに近い匂いを感じました。
一転して「夜のボート」では、マヤシシィとケヴィンフランツでいぶし銀にストイックに、じんわりと人生の哀感を漂わせてくれました。
最後はマークトートとマヤシシィの「愛のテーマ」で締めてくれて、もうこれでお腹いっぱい!とこの時点で既に大満足。

なので、不届き千万にも最初は、
「ボーナスショー?いや、もう消化しきれないからそんなの要らないのに」
と思っていたぐらいで(^_^;)。
もちろん、ボーナスショーを見終えた後は、ああ、よくぞ聴かせてくれてありがとう!と感謝しまくりで帰路に着きました。
ちなみにボーナスショーの曲目は、次の3曲でした。梅芸とオーブであと1回ずつこのセットで演ってくれるようです。

  • 「罪な遊戯」(ジキル&ハイド)/マヤ&イングヴェ
  • “Sind die Sterne gegen uns?”(アイーダ)/マーク&アンネミーケ
  • 「私だけに」(エリザベート)/マヤ

特にマヤさんの「私だけに」は、迫力と深みが段違いでした。実のところ、ジュヒョンシシィの「私だけに」の記憶がぶっ飛んだのはこのマヤシシィの歌が原因だったわけでして……。ジュヒョンさんごめんなさい。
なお、そのマヤさんですが、「罪な遊戯」を歌い終えて舞台センターの階段上にイングヴェと2人で捌けていく時、真っ赤なドレスの裾を踏んづけて軽くよろめいていました。珍しいな、と半笑いで見送りつつ、でも事故を起こさずに本当に良かった、と胸をなで下ろしておりました。
また、この時は意識しておらず、後からマチネを観た方のお話で気づいたのですが、イングヴェは本編では第1部にしか登場しません。ボーナスショーが違うテーマの時は登場しない場合もあるようです。と言うことは、ヴォルフ以外を歌うイングヴェを観られたのは非常にラッキーだったわけで。自分のチケットの巡り合わせに感謝します。

コンサートの感想は以上です。長々とお付き合いいただきありがとうございました。
今回のコンサートを聴きながら、
「そろそろ東宝でM!を再演してくれないかな?」
という思いがじわじわと強まっています。
猊下にも会いたいですし、それに確か以前、井上芳雄くんが、
「ヴォルフの亡くなった35歳になるまではヴォルフを演りたい」
と言っていたような気がするのです。来年で井上くんはその35歳になる筈。是非実現してくれないものでしょうか。

*1:ジュヒョンのトークコーナー通訳は別の女性が担当し、高島さんは司会に専念していました。

*2:一度ケヴィンを「クロロック伯爵どうぞ!」と呼び出してしまうハプニングあり(^_^)。

*3:マジャーンが来られなくなり、代わりに急遽アンネミーケ来日が決まった経緯があります。

*4:パンフのコメントによればウィーンの自宅の隣人の日本人女性の方に教わっているようです。