日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『モーツァルト!』感想(2010.12.23マチネ)

キャスト:ヴォルフガング・モーツァルト井上芳雄 ナンネール=高橋由美子 コンスタンツェ=島袋寛子 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=涼風真世 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=松田亜美

12月23日のM!のマチソワ観劇。まずはマチネの感想からまいります。例により、細かい記憶に錯誤があるかも知れませんが、ご容赦を。
筆の速い他のブロガーな方が既に感想をアップされているので、そちらを読めばもっと記憶の糸が繋がると思うのですが、まずは、
「自分の力で、書くのです!」(M!の仮面の男の台詞より)
ということで頑張ります。

今期のM!は1階席が多かったのですが、今回は最初で最後の2階席。急遽譲っていただいた上手サブセン席でしたが、舞台全体がくまなく見渡せる良いお席でした。舞台の床に白で描かれた譜面もしっかり確認。

自分にとって今回見納めだった井上ヴォルフですが、やっぱり感情表現が濃いですね。特に、「残酷な人生」や「影から逃がれて」のように、ネガな感情も含めた起伏に富んだ表現を必要とする曲を聴いて、上手くなったんだなあ、と感じました。

ヴォルフの役作りについて、山崎ヴォルフの場合は、
「普通の、ただ自由に生きたいだけの若造が偶々とてつもない才能を宿してしまい、でも天然なので、その才能の恐ろしさにも、才能の発揮による周囲への影響にも気づくのが遅くて大変なことに!」
感じなのですが、井上ヴォルフは、
「人間として才能抜きでも普通ではなく、どこか壊れて破綻している子なので、才能の存在も呼吸するように自然に受け入れ、才能は自分の思い通りになって当然だと思い込んでいたが故に、やがて才能に翻弄されたり、反発心を抱きつつ無償の愛と理解を信じていた筈の家族との決裂に、『こ、こんな筈では』と通常以上に激しくダメージを受ける」(長っ!)
というイメージが強いです。
アマデとの関係も、空気のように隣にいて当たり前。最初は相思相愛、心地の良い存在だったのに、やがて愛憎半ばする関係となり、空気中の酸素濃度が減って、ヴォルフが次第に窒息していく感じ。
もっとも、これは相手のアマデにもよるように思います。特に今回は、3人の中でもとりわけ演技が細かくて表情豊かな、亜美アマデが相手だったので、余計にそう感じたのかも知れません。

そうそう、個人的懸案事項だった、2幕の狂乱場面で井上ヴォルフだけ「家族を引き裂いた!」というフレーズを言わない件についても書いておかねばなりません。
今回、その場面は聞き漏らしのないよう特にじっくり聞いていましたが、何と、井上ヴォルフ、言いました!
後から聞いたらライブ録音CD(私は持っていません)でも言っていなかったそうなので、私はレアケースを体験したのかも知れません。

ちなみに、井上ヴォルフは、
「家族を引き裂いた!お前が悪い、お前が悪いんだ!」
という順番で台詞を発してましたが、同日ソワレの山崎ヴォルフは
「お前が悪いんだ!家族を引き裂いた!!」
と、家族を……のフレーズで締めてました。
2人のキャリアから考えると、後者の方が元々の脚本に近いのかも?と推測されますが(あくまで推測)、今までこのフレーズを省いていた井上くんが、何故言うようになったのかは謎です。

山口猊下は今回も好調なご様子。
2階席まで空気を共鳴させるってどれだけ半端無い歌声なんでしょう。
猊下が馬車の場面で、トイレに行こうと立ち上がる場面で、「あぁ……っ!」と声を洩らしてくらりとなる姿が、かなり好きです。何故「お取り込み中」のハーレム場面よりも色っぽく見えるのか(ぼそ)。
赤い金刺繍のおリボンはやはり目立ちますね。可愛い(^_^)。売店で売っていたバッグチャームに、あれと似たリボンが付いてましたが(もちろん猊下のではなくアマデのイメージ)、いっそあのデザインのバレッタを売ってくれたら買ったのに。
そして、陛下の前では演奏させぬ、等とほくそ笑み、ヴォルフを何とか手放すまいとする姿などを観ていると、やはり2幕の「神よ……」の場面での猊下が可哀想になってしまう自分。レオポルトパパが、また天才を創り出すことができる!と訴えた時の猊下の表情が、もちろんパパの浅はかな言葉に憤ってもいますが、それ以上に深い哀しみと無念さを湛えていて切ないのです。

今回猊下の歌でおっ、と思ったのが、2幕終盤の「モーツァルトモーツァルト!」で、男爵夫人に続けてソロで歌い、その後軽いデュエット状態になる場面。今回の男爵夫人は涼風さんでしたが、彼女の声と猊下の声がまたしっくり合うのです。香寿さんの声ももちろん、相手の邪魔にならない声なので良いのですが、涼風さん・山口さんの声は相性が良いのだと改めて感じました。

涼風さんは実は初日以来久々に観ました。
男爵夫人のキャラクターとしては、どちらかと言えば香寿さんの方が、温かさとしなやかさがあって好みなのですが、涼風さんの艶然と微笑みながらも実は男前で、「私についてこい!」な雰囲気の夫人も嫌いではありません。
「謎解きゲーム」の、男爵夫人がヴォルフを「もう貴方は大人でしょ?」と(夢なので)冷たく突き放す場面で、香寿さんの場合は通常温かいだけに、その場面だけ木で鼻をくくったように冷たいのが衝撃を呼びます。
しかし涼風さん、全く普段の夫人と同じ語り口で、艶然とした微笑みのままヴォルフを突き放します(笑)。それはそれでぞっとするものがありました。
そしてヴォルフの狂乱場面の幻想では、ひときわ神々しく降臨。この後の井上ヴォルフがコンスに抱きしめられながら子供のようにしばらくしゃくり上げ、まだ精神的ダメージは残しつつも、自分を奮い立たせるように「大人になった男は……」の台詞を発して、外へ飛び出していく一連の場面が、今回は印象的でした。

以下は、気がついた限りのその他の小ネタです。

まず、レオポルトパパ。1幕で男爵夫人が来訪する前の場面で、ヴォルフに手帳を開いて借金リストを見せた後、普通は手帳で1発軽くヴォルフにデコチョップするのですが、何と今回、3連発チョップしてました(笑)。これは翌日の千穐楽でもやってらしたようです。
シカネーダー。「ちょっぴりオツムに……」の冒頭の台詞は、
「私ぃがぁ、誰だぁかぁ、ご存じかぁエーヘヘーノヘー」
でした。
美女の胴切り場面でのアルコ伯爵。
「私は金属アレルギーなんだ!皮膚大丈夫かなあ?」
と口走ってました。
そして井上ヴォルフ、また風車をアルコ伯爵に咥えさせてから、「並みの男じゃない」へ。あれ、伯爵苦しいと思うんですが(^_^;)。その後のこぎりを手にして、
「はーい、金属行きまーす!」
と一言宣言してから胴切りにかかっていました。
1幕最後でヴォルフが投げたカツラは、先日の山崎ヴォルフのようには飛ばず、猊下の膝の辺りにヒットして落ちてしまったので、猊下のリアクションは特になし。

2幕では、シカネーダー達が押しかけてヴォルフのお金の袋をキャッチボールする場面で、シカネーダーがうっかり袋を受け損ねて取り落とすハプニングが。そして、「落とした!落とした!」と鬼の首を取ったように突っ込む井上ヴォルフ(笑)。
こちらは笑えないハプニングですが、「ダンスはやめられない」で島袋コンスのマイクに何度か雑音が入ってしまっていました。キャストの皆さんは衣装の下にマイクを仕込んでいるので、動きの関係でどうしても雑音が入ってしまうのだと思います。特にコンスはソロの間かなり動き回るので、雑音も発生しやすいんだろうな、と気の毒に思いながら観ていました。

前のエントリにも書きましたが、この日はクリスマスの前々日ということで、最後の幕前での追い出しカテコに、井上ヴォルフと亜美アマデがサンタ帽子を被って登場していました。
そして、この回で1人帝劇楽を迎えた亜美アマデから、井上ヴォルフのマイクを使ってご挨拶。確か、
「みんなありがとう、大阪、金沢にも来てください!」
と言っていたと思います。

以上、マチネの感想でした。ソワレの感想はこれからゆっくり書きます。