日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『プライド』感想(2010.12.4ソワレ)

キャスト:麻見史緒=笹本玲奈 緑川萌=新妻聖子 神野隆=鈴木一真 池之端蘭丸=佐々木喜英

帝劇で昼間M!を観た後、シアタークリエで上演中の『プライド』のソワレ(18:00開演)を観てきました。

『プライド』は基本はストプレなんですが、ストーリーの一部として上手く歌が織り込まれた音楽劇、ということで、地の台詞より遥かに歌が多い舞台でした。

少しだけネタバレになりますが、物語の冒頭がオペラコンクールの会場から始まるので、開演前のアナウンスも「オペラコンクールご来場の皆様へ」と切り出されるという凝ったものでした。
ただ、そのアナウンスの前後に「携帯電話をお切りください」の諸注意も流れていた気もするのですが、来場アナウンスの時点で劇世界に引き込まれて忘れてしまった人がいたのか、開演後5分以内の頃、すぐ後ろの席で携帯電話のバイブが鳴動していました。電源切り忘れは一度自分もやってしまったことがあるのであまり人のことは申せませんが、携帯電話のスケジュール通知アラーム機能等をお使いの方は、くれぐれもご注意を。

実は自分、一条ゆかりさんの原作は読んだことがありません。
しかし、複雑にして時には鬱陶しいほどに錯綜する人間同士のドラマを細やかに積み重ねたストーリー構築に定評のある方なので、恐らく『プライド』の原作世界も同様なのだと思います。
その恐らくは複雑であろう原作を、上演時間2時間45分(休憩20分含む)、わずか4名のみが出演する舞台に、原作未読の人でも分かるように仕立て上げた脚本家さん、演出家さんの手腕にひたすら感服しました。

玲奈ちゃん、聖子ちゃんはWキャストは何度かありましたが、共演は今回がお初です。
ビジュアルは笑える程に2人ともぴったりはまっていました。玲奈ちゃんのカツラはチラシのものとは少し異なっており、前髪をやや横に流して少しおでこを出したスタイルのものになっていました。
彼女達はミュージカルが基盤だけどオペラのナンバーを歌う部分は一体どうするんだろう?と思っていたら、2人ともしっかりオペラ歌唱を聴かせてくれました。クラシックを聴かない私には、2人の歌の善し悪しを判断することはできませんが、きちんと「聴ける」歌になっていたと思います。シャンソンやポップスのナンバー(オペラが絡む話ではありますが、劇中に出てきた歌はほとんどこれ)は言うまでもありません。

個人的に、これまで2人それぞれの歌について、片や玲奈ちゃんは声量もあり華やかではあるけれど情感表現があまり細やかではなく*1、高音をたまに怒鳴るがごとく無理やり出しているような感があり、片や聖子ちゃんは情感はとてもきめ細やかで技巧も申し分なく、目を瞑れば洋楽のシンガーが歌っているように聞こえると言っても過言ではないけれど、残念なことに華は薄め、というように、対照的という印象をずっと抱いてきました。
今回の『プライド』の史緒さんと萌ちゃんは、デュエットすることで互いの長所と短所を補い合い、理想的な歌声が生まれる、ライバルにして最高のパートナーという設定。もちろんストーリー上での2人の長所・短所の内容は、現実の玲奈ちゃんと聖子ちゃんのそれとは全く異なりますが、まるで合わせ鏡の2人への当て書きのようになっているのが面白かったです。また2人の声質がデュエットすると良く合うのです、これが。

2人の歌ばかりに触れていてもあれなので、男性キャストやストーリーについてもネタバレにならない範囲で感想を記しておきます。繰り返しになりますが、原作を未読なので、あくまで舞台から受けた限りの印象です。

この演目には女性と男性がそれぞれ2名ずつ登場しまして、恋愛関係がストーリーの核になっているので、当然男性陣がいないと話は成立しないわけですが、やはりこれは「女性陣2人の物語」だという印象が強かったです。
男の情けなさを感じさせるエピソードこそあるものの、特に男が弱く描写されているわけでもないのですが、最後に残ったのはやはり、女同士の恩讐を超えた絆と誇り高さだったと思うので。

メインヒロインである史緒さんの恋愛については、途中で、ずっと友達だと思っていた相手の愛に気づき、自分の中の思いにも気づかされる、という描写がありましたが、その「自分の中の思い」は本当に恋愛だったのだろうか?と疑問です。他人に恋したことのない本人が「これが恋愛」と思っていただけで、実は0.5歩ぐらい恋愛には足りないものだったでは?と思いました。もちろん、史緒さんの誇り高さと相手への情の深さがブレーキになって、無意識のうちに「思い」を「恋愛」に変化させることを拒んだのかも知れませんが。
玲奈ちゃんが見た目ぴったりだったのは言うまでもありません。もう少しだけ台詞回しに気品があれば完璧、とも思いましたが。

萌ちゃんについては、不幸のオンパレードのような境遇に全くめげず、逆に積もり積もったルサンチマンをバネに戦い、悪女になろうとするけどなり切れない所が可愛かったです。ただ、ああいう形でしか「幸せ」という感情を手に入れられなかったのはどうなんだろう、と、その点は寂しく思わずには居られませんでした。
そんな役柄を、聖子ちゃんが好演していました。あの演技力があれば来年のファンティーヌも余裕で行けると思います、ええ。

蘭ちゃんこと蘭丸を演じた佐々木さんは、もうちょっと女装が似合って欲しかった気はしますが、頑張っていたと思います。
2幕初めに蘭ちゃんが史緒さんの前で披露する、とあるアクションには笑わせていただきました。ピノキオか、キミは。事前に友人から、玲奈ちゃんが一瞬素になって笑う場面がある、と聞いていたのですが、これか!と納得。そして私が観た時も玲奈ちゃんは素で笑っているように見えました(^_^;)。

神野さんは、いくら萌ちゃんが終盤近くに「神野さんに責任はありません!」と叫んだとしても、いや、諸悪の根源はあんただから、と突っ込みまくれるような、そんなキャラクターでした。鈴木さんもかなり雰囲気が合っていたとは思いますが、ビジュアル的にはSMAP稲垣吾郎くん辺りが演っても趣がありそうな役柄です。
ああいう一見冷徹で打算的な人がふと垣間見せる情愛や脆さ、そして脇の甘さに女性が惹かれてしまう気持ちは、結構分かるような気がします。
上手く説明できないのですが、ドラマ『百年の物語』で、見守り系の誠実な若者よりも山口祐一郎さんが演じた打算と身勝手の塊のような「平吉さん」が最終的にヒロインに選び取られた上、放映後10年近く経ってもファンに人気がある理由と通じるものがあるような気がいたします。……山口ファン以外の方には何のこっちゃな話ですみません(^_^;)。

全く欠点がないわけではありませんが、何だかんだで舞台版『プライド』、面白い作品でした。
DVD……は買うかどうか分かりませんが、もし音楽CDが出たら是非欲しいと思います。玲奈ちゃん&聖子ちゃんの「Wind Beneath My Wings」と「Invocation(祈り)」を繰り返し聴きたいです。いや、2人どちらかの音楽CDに収録してくれるなら、それでも良いですけれど。

*1:と言い切ると語弊がありますが、声質が強い故に、より繊細さを問われる歌でそう聞こえてしまうだけかも知れません。