日々記 観劇別館

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『ケイン&アベル』初日感想(2025.01.22 18:00開演 東急シアターオーブ)

キャスト:
ウィリアム・ケイン=松下洸平 アベル・ロスノフスキ=松下優也 フロレンティナ=咲妃みゆ ザフィア=知念里奈 ケイト・ブルックス=愛加あゆ ジョージ・ノヴァク=上川一哉 マシュー・レスター=植原卓也 リチャード・ケイン=竹内將人 ヘンリー・オズボーン=今拓哉 アラン・ロイド=益岡徹 デイヴィス・リロイ=山口祐一郎

渋谷の東急シアターオーブにて、世界初演ミュージカル『ケイン&アベル』を観てまいりました。

世界初演の初日なので、なるべくネタバレなしで感想を記します。

開幕一番で引き込まれたのは、やはり音楽です。これでもかとドラマチックに観客の心を掻き立てて煽って、さあ観るぞ! な気分に揚げてくれるのは、さすがワイルドホーンだと感服していました。

曲は全般にメロディが複雑です。歌唱力がある人でないと絶対に歌いこなせないと思われるナンバーが多いと思いました。ワイルドホーンはソロ曲ももちろん良いですが、デュエット曲や合唱曲の響きも綺麗で聴き応えがあるのがうれしいですね。

序盤の展開は結構駆け足でした。ジェットコースターのごとくあれよあれよと言う間に走り去るウィリアムとヴワデク(アベル)の子供時代。そもそも原作未読で臨んでいるので、話の筋を追うだけで精一杯でした。

また、原作未読での印象になりますが、長編の物語。上演時間3時間(休憩含む)に収めるためにかなり細部のエピソードを端折っているのだろうと思われます。例えばアベルの養家の没落の過程で亡くなった義姉と、アベルの娘の名前のつながりなど。

2人とも幼少期が割と孤独で一途に成長していることもあってか、特に1幕前半は、ウィリアムは融通が効かないわ、アベルは上昇志向が強烈だわで、なかなか共感して肩入れできる登場人物がいなくて苦慮しました。

1幕では、ウィリアムとアベルそれぞれに因縁のあるおじさま2人、ミスター・オズボーンとミスター・リロイも登場します。

ミスター・オズボーンは息を吸うように汚いことをして欲望に忠実、金の力でのし上がる人物で、今さんがなかなかはまり役でした。ミスター・リロイも穏やかな紳士に見えて抜け目がなくて、でも本質はやはり善人、というイメージで、これもまた祐一郎さんにはまっていたと思います。

奇しくも2人とも金に翻弄された末に……という顛末を辿るわけですが、ミスター・リロイの方が根っこが善人な分、だいぶ同情できます。

ただ、結局ミスター・リロイ、とんでもなく強力な呪いを残してしまうことになるので、私見では、随分罪深い人だな、とも思うわけです。

あとミスター・リロイ、出番が予想以上に短いので、2幕は本当に何やって過ごしてるんだろう、実は影コーラスに参加しているのだろうか? それともTdV初演の時の阿知波悟美さんのようにまかない料理でも拵えているのだろうか? と、まあ後者は冗談ですが気になっています。

下戸の祐一郎さんの貴重な泥酔独白演技を見せてくれる役でもありますので、次回はそのあたりがどう進化・深化しているか楽しみだったりもします。

1幕がアベルの復讐心に火が点くまでの展開ならば、2幕は復讐に突っ走り、やられたらやり返す的な展開です。

そんな男たちのマネーゲームの中で、この物語では女性陣の強さがかなり際だっていました。夫や父親に精神的に依存しないこと、そして教育を受けて自分の力で稼いで食べられることって本当大事ですね……。

そして主人公2人ともキャラが強すぎて共感できなかった、と書きましたけれど、実は2幕終わり近くになるとそうでもありませんでした。どちらかというとバカな子たちほど可愛いと申しましょうか。

ちなみにオチとしては「ごん、おまえだったのか(号泣)」というものでしたが、1幕終わり辺りで観客にはモロバレしているので、そこはあまり泣けず……。「いやー、他人のための復讐って本当に虚しいですねー。呪いとプライドって本当に怖いですねー」という冷静な気持ちしか浮かんでこなかった自分が悲しかったです。

全体に確かに大作ではあり、洸平くんも優也くんもはまり役、それぞれに歌声にもとても魅力があって、遺憾なく実力を発揮してはいるのですが、演出や脚本を見ますと、今はまだ一本の作品として仕上げることが最優先になっていて、まだあらゆる役者さんが存分に輝けるようには育っていない印象です。

あと祐一郎さん、今さん、益岡さんと言った、せっかくのベテラン男性陣を上手く活かせていない気がしました。

例えば祐一郎さんはセンターに立たせるだけではなく、M!の猊下のようにうまく脇で使うといい感じで光る筈なのですが、今のところはアベルを導く人、という役割分担の方が重視されていて、スポットの当て方が中途半端だなあ、という歯がゆさがあるのは否めません。

作品としてこれからもっとブラッシュアップして育つ余地があるに違いないと期待していますが、さて、オーブでの1か月弱の公演期間でどこまで育ってくれるでしょうか?

未消化な感想で申し訳ありませんが、また次の観劇が迫っていますので、今回書ききれなかったことは次回以降追々書き記したいと思います。