日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『笑う男』北九州大千穐楽感想(2019.5.26 12:00開演)

キャスト:
ウィンプレン=浦井健治 デア=夢咲ねね ジョシアナ公爵=朝夏まなと デヴィット・ディリー・ムーア卿=宮原浩暢 フェドロ=石川禅 ウルシュス=山口祐一郎 リトル・グウィンプレン=豊島青空

 

 『笑う男』大千穐楽を見届けに、北九州市まで1泊2日で飛んでまいりました。

小倉のソレイユホールはパイプオルガンも設置されている立派な会場で、音響も結構良かったです。

慌ただしい滞在でしたので、観光らしいことは着いた日の夜に少し門司港を見物に行ったのと、翌日開演前に小倉織のお店に出向いたぐらいでしたが、小倉も歴史ある城下町ということで、また改めてゆっくり観光で訪れたいと思います。

なお小倉織のお店があまりにも楽しくて盛り上がってしまったために気づいたら開演時刻が迫っており、ランチを食べ損ねてしまいました。ただ、前日夜更かしもしていたため、満腹だと確実に観劇中に睡魔に襲われていたと思うので、結果的には良かったような気がします。

前置きはこれくらいにして、『笑う男』本編の感想にまいります。

演出は、舞台装置の動きが、例えば日生では物理的に舞台に沈んでいた難破船が沈まずに紗幕でフェイドアウトするなど若干変わっていたところはありましたが、場面のカットや台詞の追加などは多分なかったと思います。この演目、展開の分かりにくさが囁かれていたという印象を受けており、もしかしたらその辺りを変えてくるかも? と考えていましたので、少し意外でしたが、既に初日の時点でいじれるところはいじり尽くしてしまっていた、ということなのかも知れません。

なお私自身は、『笑う男』について裏話の語られた某トークショーの内容をTwitterのフォロワーさんのご厚意で知ることができましたが、まあ、演出家さんも役者さんもかなり手を尽くしていたようで、相当に大変だったのだと思います。

役者さんの感想にまいりますと、まずリトル・グウィンプレン、大千穐楽にしてようやく嵐史くん以外のキャストにお目にかかることができました。青空くんは嵐史くんよりやや儚げなイメージでした。そしてソプラノが綺麗。

ウルシュス座長は1幕の一座公演の場でとにかく拍手を煽る煽る! 変なタイミングで絡んできたデヴィットもいじるいじる! 客席も、ノリノリで拍手しまくっていました。大千穐楽という場の効果もありますが、福岡の皆さまは特にノリが良かったように思います。そんなこんなで満を持して登場する青年グウィンプレンとデア。舞台で演技する2人を明子姉ちゃんのように陰から見守るウルシュスの表情が、心配しつつも誇らしげで良いのです。

1幕の一座公演の場面ではグウィンプレンとデヴィットの激しい殺陣があります。2幕でもグウィンプレンとの殺陣をこなす宮原さんは、殺陣を浦井くんに教わったとカーテンコールのご挨拶で語られていましたが、実際、元々は歌の人なのにかなり頑張ったなあ、と思いました。

ところでこの一座公演のグウィンプレンとデアの歌と台詞、多分天才ウルシュス座長の筆になるものと想像しています。顔は醜くとも心の美しさがあれば良い、というのはもちろんデアの本音でもありますが、恐らく「自分以外は敵だ」とか「おまえは貴族のように生まれながらに幸せになる権利は持たないのだから、その裂けた口を売り物にここで生きるのだ」とか口では義理の息子に言い聞かせ続けたウルシュスの本音でもあるわけで。

にもかかわらずグウィンプレンは「デアは目が見えず自分の醜さを見たことがないからそう思うだけ」と考えており(※)、「その醜い顔こそが私を満たしてくれる」と言ってくれたジョシアナに心がぐらついてしまう、という展開はやはりどうしようもなく悲しいものがあります。ただ、ジョシアナも結局自分のことしか考えていないんですよね。

※これ、そんなわけないでしょ、と言ってあげたいですが、『ファントム』という別世界の別作品での醜いファントムに対するクリスティーヌの酷い仕打ちも知っているので、観ていてもにょってしまうのでした。

今回観ていて惹きつけられたのは、やはり主演たる浦井グウィンプレンでしょうか。今までに観たどの回のグウィンプレンよりも、熱く燃えさかっていたと思います。特に2幕の国会演説から貴族社会への決別を決めて咆哮するグウィンプレンの情熱と怒りには鬼気迫るものがありました。

あとフェドロ。冷静な表情とは裏腹すぎる野心を抱えた彼は、最後までミステリアスを貫いていました。

そして祐一郎ウルシュス。愛する息子の本心に気づいて懸命に止めようとするさまにも、傷ついた愛娘を膝枕して優しく温かい歌声で包み込む姿にも、そして最後に愛する子供たちが去って行くのをなすすべもなく見守るしかない哀しい表情にも。ただひたすら客席から共鳴するばかりでした。やはり劇場に関係なく発揮される祐一郎さんの空間支配力は伊達ではないです。

カーテンコールのご挨拶は浦井くんの仕切りで、宮原さん、朝夏さん、夢咲さん、禅さん、祐一郎さんの順に行われました。なぜに浦井くんのMCは天真爛漫さの中にもあんなにドキドキ感があるのでしょうか。

宮原さんは、殺陣のある役も悪役も初めての経験だったそうで、先述のとおり殺陣を浦井くんに教わったほか、役作りで禅さんや祐一郎さんに助けられたということを述べていました。殺陣の練習で頑張って休んでいると祐さんが声をかけてくれて……という話にその場面を想像してほっこり。

朝夏さんからは自分なりにジョシアナを演じられた、という手応えのある言葉が。また、夢咲さんはカンパニーの皆の温かさに助けられた、というようなことを述べていたと思います。

禅さんは、演出の上田さんから、本来は貴族でない者がジョシアナのように高貴な立場の人物に仕えることはあり得ない、と言われたことを踏まえ、フェドロについては頑張って役作りを行った、特に頑張ったのは「膝を曲げずに床に落ちたチョーカーを拾うこと」である、と実演してみせていました。それから浦井くんとはかつて父と子として共演した、と頭を下げ合い、「これからただならぬ関係に……(注:『ヘアスプレー』のことと思われます)」と祐一郎さんと互いに頭を下げ合って会場の笑いをさらっていました。

祐一郎さんのご挨拶は「もう思い残すことはございません。ありがとうございました」というシンプルなもの。シンプルな分。やり切った! な思いを感じ取りました。

まだまだ書き足りない気がしますが、ひとまず以上、大千穐楽の感想とレポートでした。