日々記 観劇別館

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『冒険者たち』感想(2013.6.9マチネ)

キャスト:
ガンバ=上山竜司 ヨイショ=坂元健児 ガクシャ=森田ガンツ イカサマ=辻本祐樹 シジン=大山真志 忠太=山下翔央 ボーボ=土屋シオン マンプク=金澤博 オイボレ=尾藤イサオ ツブリ=延山信弘 一郎=和田琢磨 潮路=皆本麻帆 ノロイ今拓哉

池袋のサンシャイン劇場で上演中の本作を観てまいりました。
原作はロングセラーの名作児童文学として有名です。自分は本当に名作文学を読まない者なので、アニメ『ガンバの冒険』しか知らないのですが、その分今回は「原作との比較」はせずに済んでいます。
と書くとまるで面白くなかったような言い草ですが、さにあらず、大人も子供も楽しめる「友情・勝利・努力」の舞台だったと思います。役者さんも力のある人ばかりでしたし。多分、テニミュなどに出ていらしたような若手役者のファンをメインターゲットにしていたためもあるのかも知れませんが、日曜昼の公演であるにも関わらず客席の埋まり具合がよろしくなかったのが、実にもったいなかったです。
なお、自分の座席にはあまり関係なかったようでしたが、演出上の事情で最前列の座席の一部が潰れてしまい、その事実が初日当日に発覚するというトラブルが発生していたとか。あってはいけないトラブルではありますが、あまりそうした調整に成熟していない、悪く言えば経験不足、良く言えば手作り感満載な現場なのかな?という気がとてもしています。

以下、本編の感想です。例により、若干のネタバレがありますので。
都会で時々冒険の妄想にひたりつつ、怠惰に日々を送っていた町ネズミのガンバが、仲間のマンプクに誘われ、船乗りネズミのパーティーに参加するため港を訪れるのが物語の発端。隻眼のヨイショを初めとする船乗りネズミどもと意気投合したところへ、手負いの若いネズミ忠太が現れ、白イタチ「ノロイ」率いるイタチの集団に殺戮されている自分の島のネズミ達を救って欲しい、と救援を求めます。ガンバはノロイの恐ろしさを知らないながらも正義感だけで忠太を手伝おうと決意し、島行きの船に忠太と乗り込みます。一方ノロイの恐怖を知りつつ協力を決めた船乗りネズミ達、ヨイショ、ガクシャ、シジン、イカサマ、ボーボも乗船。親友マンプクも参加を決め、更に何故かマンプクについてきた謎の老ネズミ、オイボレも加えた計9匹で船出。ここまでがプロローグです。

前にも書いたとおり、若手中心のキャストではありますが、要所要所にベテランが配置され、物語を引き締めていました。ヨイショ、マンプク、ガクシャ、オイボレ、そしてノロイ
特にヨイショの坂元さんは、若いガンバを冒険のリーダーに頂きつつも、仲間達を力強く心身ともにサポートし続ける重要な役どころでもあり、そこかしこできらりと光っていました。自分が場面の中心にいない時でも、表情や目線の動きなど小芝居を欠かさないのが良いですね。そしてセンターに立つと力強い歌声でたちまち場を引き締めるのは流石です。
しかもヨイショ、若手以上にアクションしまくり(^_^)。ミュージカルの戦闘シーンで1回転後方宙返りを決められる40代は稀少だと思います。
マンプクさん……声が綺麗です。すぐ空腹を訴えて、熱血系の親友ガンバと対照的なキャラなのですが、本当に極限状態に置かれた時は大騒ぎせずに耐えているのが素敵。
ガクシャ役の森田さんはパンフによれば初ミュージカルとのことでしたが、台詞回しに力がありました。オイボレの尾藤さんは、後半の展開上とても重要な見せ場を担当されていましたが、やはり舞台経験豊かな方の重みといぶし銀の輝きを放っていました。
そしてノロイ。今さんには珍しい、白装束の悪役。しかも黒くて長い付け爪まで装着。ご本人は「妖艶」を目指したとのことでしたが、そんなに妖艶さは感じませんでした。イタチのふさふさ尻尾が可愛かったです(^_^)。個人的には悪役の上着の丈はもう少し長い方が好み。
「歌と踊りで巧みに他のイタチやネズミの心を操り、ネズミ達を死に導く」
というミュージカルならではのノロイの設定はなかなかユニークだったと思います。今さんの歌唱力なしでは成立しない役柄。ノロイが獲物を海上で捕まえ致命傷を負わせる時の演技は、今思うと少し『エリザベート』のトートっぽかったです。妖艶と言うよりは冷たくて純度の高い狂気に満ちていましたが。獣性も薄め。でも、今さんがこの役を楽しんで演じているのがたっぷりと伝わってきました。
余談ですが、同行の友人と終演後に「ノロイを他の役者さんが演ったらどうなるか」談義に興じました。吉野ノロイなら妖艶度はさぞ高かろうとか、岡ノロイなら歌も妖艶な上怖いだろうけど、ビジュアルもきっと違う意味で妖艶になるに違いない、とかそれはもう言いたい放題で(笑)。

他の若手キャストについても語っておきます。皆さんそれぞれにきちんと役柄の魅力を伝えてくれて良かったのですが、特にイカサマとシジンは上背があることも手伝ってかビジュアルも際立っていました。
最初はずる賢く生きていたイカサマは、自分の占いが不本意に的中してしまった苦悩を経た後で、あえて皆を勇気付けるためにイカサマ占いをやってみせる場面が、そして感嘆詞ばかり多用して中身の薄い詩しか語れなかったシジンは、ノロイ撃退のために渾身の歌を放ち、一時的とは言え撃退に成功する場面が印象的でした。シジンはラストで重要な人物の名前を間違えて呼んだのが惜しいです。素早く言い直していましたが、よりによってそこで間違えるかー?という所でどかんと間違えてくれたので(^_^;)。
年少組(いや、ネズミの世界なので実は皆さほど年齢に違いはないのかも知れませんが)の忠太、そしてボーボも素晴らしかったです。2人とも泣き虫あるいはのろまだけれど、決して精神的に弱くない所がポイント。持久戦で皆の体力と気力とが限界に来て、ガンバが責め立てられた時にボーボがフォローする一言にかなり心が癒されました。
なお、忠太役の山下さんについては、Wikipediaで調べたところ、どうやらPerfumeと高校の同級生らしいので(Wikipediaの項目*1)、違う意味で親近感が湧いております(^_^)。

全然言及できていませんでしたが、主役たるガンバの上本さんも好演でした。ガンバという役は一歩間違うと暑苦しくなってしまいそうですが、上本さんのガンバは爽やかに多少KYで、でも純粋で熱くて。忠太の姉さん潮路が登場した時に、彼女の美しさにロックオンしている姿が可愛かったです。
その、紅一点・潮路の皆本さんは嫌みのない雰囲気と声が好印象。潮路のテーマの歌詞を聴いた時は「マ、聖女たちのララバイか!?」と一瞬思ってしまいましたが(笑)、何だか彼女も本当に可愛らしくて、ガンバとの淡い恋のデュエットもほんわかと可愛らしくて……。故に、あの結末は実に辛いものでした。悲しみに暮れつつも次の新たな冒険に旅立つガンバはともかく、彼女を守りきれなかった忠太と一郎の心境を考えるともうたまらなく切なくて。
これも余談ですが、個人的には、ミュージカルに、カップル(未満)の片割れがもう1人の腕の中に横たわり、息も絶え絶えにデュエットしながら死んでいく、という場面が結構良く出てくるのは、『レ・ミゼラブル』の功罪だと思っています(^_^;)。いえ、確かに絵になるシチュエーションではありますし、瀕死の人間が延々と語りまくるのはミュージカルに限りませんので、単に私の見方が短絡的なだけかも知れませんが。

冒険者たち』、自分としては割と「当たり」な演目でした。作り込み過ぎず、あざとい受けも狙わない、それでいてオオミズナギドリのツブリのフライングやノロイとの最後の戦い(ここにもフライングが登場します)のような見せ場はバッチリ華やかに決める。こういう演出は好きです。
ちなみにこの演目、開演前にもネズミさんのジャグリングなど「お楽しみ」が用意されています。音響効果の秘密の一端は、演出家さんのTwitter投稿で明かされています。このツイート、観劇する前に読みたかった……。

*1:何故かあ〜ちゃんの名前しか挙げられていませんが、のっち、かしゆかも「同期生」の筈です。