日々記 観劇別館

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『三銃士』感想(2011.7.23ソワレ)

(キャスト)
ダルタニャン=井上芳雄 アトス=橋本さとし アラミス=石井一孝 ポルトス=岸祐二 アンヌ王妃=シルビア・グラブ コンスタンス=和音美桜 ロシュフォール=吉野圭吾 バッキンガム公爵=伊藤明賢 ルイ13世今拓哉 進行役/ジェイムズ=坂元健児 ミレディ=瀬奈じゅん リシュリュー枢機卿山口祐一郎

2回目の帝劇『三銃士』を観てまいりました。
色々と衝撃・笑撃だった初日に比べると、自分的にかなり落ち着いて観ることができました。また、キャストの皆様もこなれて安定してきたように感じました。
音響も初日の時はあまりバランスが良くなくて、歌声が聞こえにくい所が多々ありましたが、これも今回は改善されていて、皆さんの歌声がしっかりメリハリを持って伝わって来たと思います。音響さんのお仕事に感謝です。
今回「あれ?」と思ったのはダンス。TdVと振付が同じ人かは確認してませんが、ミレディの「男なんて」のダンスで、TdVのヴァンパイアダンサーと軽くイメージが被りました。ついでにトートダンサーも思い出しましたが、これは今回の男性ダンサーに何名か2010年のトートダンサーだった方が混ざっているので、多分気のせいでしょう。
お話は、坂元さんの背景説明があり、かつ観るのが2回目でありながらなお、細かい事情をすっ飛ばしていてついて行きづらい所がある、と思いました。取りあえず原作をジュブナイルでも良いから読んでおくか、と思い始めています。もっとも、よく知られた粗筋から明らかに変更されているキャラクター設定やストーリー展開がありますので、原作に囚われすぎてお芝居そのものを楽しめなくなる、という事態は避けたいところです。

以下、キャストの感想です。
まず、主演井上くんは、初日は若干テンションが高めで「うるさ可愛い」感じでしたが、こちらが見慣れたためもあるのか、やや落ち着いた感じになっていました。
但し、落ち着いたと言っても元気過ぎるぐらい元気なダルタニャンです。センターポジションでのハードな動きや、ヒーロー系からしんみり系まで様々な歌唱を要求されるダルタニャン役の負担は相当大きいと思うのですが、彼の辞書に不調という言葉はあるのか?と疑問に思うくらい溌剌と、ぐいぐい物語を引っ張ってくれています。
個人的には、1幕前半の、パリの街角でジャガイモ号とともにコンスタンスと初めて出会い言葉を交わす場面が、可愛くて好きだったりします。ジャガイモ号、あの適度な駄馬具合が上手くできていると思うのですが、1幕で出番が終わってしまうのが残念です。

それから、前回はストーリーを追うのが精一杯でしたが、今回は三銃士の皆さんの動きもかなりチェックできました。
トリオの中で最も殺陣できびきび動いているのは、3人の中でも最年少の岸ポルトス。あの肉布団装着状態であれだけアクションできるのは、流石昔取った杵柄、と思わせてくれました。
さとしアトスも、トリオのリーダー格にして本編中の重要人物(ソロも彼だけあり)という位置付け故、かなり見せ場が用意されており、その見せ場をきちんと魅せてくれたと思います。1幕のダルタニャンとの初対面場面で、ダルタニャンが折れた剣を抜いた時の「短っ!」や、2幕にロシュフォールに棒読みで謝る場面*1など、お笑い場面での演技の呼吸も素敵です(^_^)。
アラミスの動きには省力化されている感がありましたが、これは石井さんのせいではなく、神学の徒であるアラミスであるが故に、相手に必要最小限以上の打撃は与えないようにし、かつ伊達男として華麗なアクションを心掛けているためでしょう、きっと。

音響の改善で良くなったのは、アトスのソロ「クリスタルの天使」。あの、ともすれば「詰めすぎだろ!」と言いたくなるほどぎっしり歌詞の詰まった歌を、ロックのリズムに乗せて格好良く聴かせてくれました。お声も好調な感じ。
好調と言えば和音さんも絶好調でした。見た目の楚々とした可愛らしさに反して、あの声量王子な井上くんとのデュエットで、対等に張り合うたっぷりした声量で聴かせてくれるのは凄いと思います。演技も良いので、今後も色々な作品で観てみたい役者さんです。
逆にあまり調子が良くなさそうだったのは、シルビアさん。メロディに歌が今ひとつ乗り切れていない?と感じました。上手く言えませんが、王妃のナンバーはシルビアさんの得意分野からは微妙にずれているような気もしています。

また、瀬奈さんは……折角聴きやすい声質なのだから、もう少しだけ劇場に轟き渡るような声量があれば嬉しいかな、と(^_^;)。
と申しましたが、前述の「男なんて」のダンスは、結構迫力です。銀橋での居方なども、流石に宝塚のトップだった人だと思わせてくれるものがあります。
ミレディという役については、あの男運の悪さ(含むリシュリュー猊下)が本当に気の毒でなりません。しかもこの舞台のストーリーでは全く報われないわけで。昔昔その昔、アニメの三銃士を観た乏しい記憶によれば、詰めは甘いけれど、もっとしぶとくて強かな女だった覚えがあるのですが。
むしろロシュフォールの方が報われているかと思います。あのリシュリュー猊下への心酔の深ささえあれば、猊下がこの世にある限りは、どんな境遇だろうと決してめげることはないに違いありません。
アトスと見合って「バーカ!」とどこかの吸血鬼の息子さんのような捨て台詞を吐いて去っていく、美しいのにお茶目なロシュフォール*2。主人について語る時に隻眼が妙にキラキラしているロシュフォール。殺陣がダンスとしてしっかり華麗なロシュフォール猊下のライブのバックで、連隊を率いて格好良くマントを翻しつつ盛り立てるロシュフォール。そして、前回の感想には書き損ねましたが、見事な階段落ちまで披露してくれるロシュフォール
……しまった、つい暴走してしまいました(^_^;)。それにしても、こうして書いてみると、何でこんなに彼の見せ場は多いのでしょうね。ただ、彼が歌う場面はないので、吉野さんの色っぽい歌声が聴けないのは少々残念ではあります。
あと、坂元さんは相当頑張っています。1、2幕序盤の進行役は言うに及ばず、従者ジェイムズのキャラクターが初日よりもかなり立ってきていました。「ジェイムズくん」*3と呼びかけたくなるような可愛さとお茶目さ。殺陣でのトンボ切りも快調でした。
書き忘れかけていましたが、今さんの国王。礼拝所等での青いガウン以外の衣装は時代考証的にほとんど「ちょうちんブルマー」であったことに、今回初めて気づきました。だから何だと言われればそれまでですが。
国王は2幕の1曲を除いて歌う場面もなく、大部分は枢機卿の言いなり、妻への不信に囚われた惰弱ぶりを発揮しています。でも、終盤で自らの意志によりダルタニャンを銃士として認める場面では、ダルタニャンの両肩に剣を載せる儀式で、実に鮮やかな剣さばきを披露してくれています。どうしても見せ場の少ない国王の、貴重な見せ場だと個人的には思っています。

そしてリシュリュー猊下
先程「ダンスがTdVっぽい」と書きましたが、1幕の猊下初登場場面の雰囲気が、「神は死んだ」のクロロック伯爵と近い?と今更ながら気づきました。そう言えば、どちらも一見神の理に敬虔に向き合っているように見えて、実は自分のエゴや欲望を正当化しているだけのとんでもない輩なので、まあ、共通していると言えば共通しているわけですが。
1幕の狩り場の場面で、国王に「ブラボー」という場面でやはり客席から笑いが。CM効果って凄いですね。あと国王をダメ押しで「素晴らしいハンターでいらっしゃる!」というような台詞でヨイショしていて、ここでも客席爆笑。初日にこの「ハンター」があったかどうか記憶がありません。国王との一連の場面では、かなり立て板に水な長台詞でコミカルに相手を王妃への疑心暗鬼に陥れていて、この台詞をこなす山口さんも、こんな可笑しい場面で面と向かって吹き出さない今さんも、どちらもプロだなあ、と変な所に感心していました。
2幕では、今回は何をするか分かっているから笑わずに済むかも?と観る前は思っていましたが、ごめんなさい、やっぱり「我が心氷にあらず」の「ハイッ、ハイッ!」*4と手を挙げるダンスで笑ってしまいました(^_^;;)。
そして「我を信じよ」では、前奏でマイクスタンドを両手に持ってリズムを取っている姿を観て、再び笑いでプルプルと震えていました。でも、ここは強調しておきますが、ロックな歌唱が初日よりも随分板に付いていて、照れも捨て去ったようで、格好良かったです!他の演目では聴けないような、ロックナンバーならではの発声も聴かせてくれて大満足です。
そんなノリノリの猊下なのに、その後でミレディに激昂し怒鳴りつける場面での怖さと言ったら。もちろんミレディに非がある話なのですが、ミレディが可哀想になるぐらいの激しい怒りっぷりでした。

カーテンコールでは、井上くんから一言ご挨拶と、震災チャリティ公演、それからマチネのみ公演の日にキャストがロビーで義援金を受け付ける件についてのご案内あり。これはきっと毎日ご案内しているのだと思います。井上くん、お疲れ様です。
追い出しのテーマ音楽演奏が終わった後にも、銀橋上での井上くん&三銃士の漫才ご挨拶がありました。自分はこの件、東宝の公式ブログを読んで知っていましたが、かなりの人数の方が演奏中に退場。既に劇場外に出てしまった方もかなりいたのではないかと思われます。ただ、もう少し公演期間が経つとリピーターも増えるでしょうし、帰る方は減ると思うのですが。

次の自分の観劇は、2週間後、お盆の少し前の予定です。今度は初めての2階席。既に2階で観た友人の話を聞く限り、今回は見切れや2階からしか見えない演出はあまりなさそうな印象ですが、上から舞台装置や群舞の全体が見渡せるということで楽しみにしています。

*1:あの謝り方で許すロシュフォールはある意味寛大かと思います。

*2:この場面の直後に黙々と顔面のツバを拭き拭きするアトスが、個人的にツボです(^_^)。

*3:この呼び名は自分の世代ではどうしても『エロイカより愛をこめて』の人物に結びついてしまうわけですが(汗)。

*4:実際にそういう掛け声を発しているわけではなく、あくまでそういう擬音を当てたくなるイメージということです。