日々記 観劇別館

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中日劇場『エリザベート』感想(2008.8.17マチネ)(その2)

というわけで、昨日の『エリザベート』感想の続きです。

今回改めてしっかり注目して見てきたのは、皇帝フランツ・ヨーゼフ。禅さんのフランツの若作りっぷりにぶっ飛んだだけでなく、
「フランツって……こんなに孤独な人だったっけ?」
とすっかり惹きつけられていました。
禅さんのフランツはどんな時も感情に流されない、冷静で冷酷な皇帝の仮面を被っているんですが、それ故に普通の庶民のような感情表現を知らず、シシィを救うことさえもままならない孤独な人物、という印象を強く受けました。終盤の「悪夢」の中でトートに精一杯抵抗する時の感情の爆発が、何とも悲しく虚しかったです。
そのフランツに人生の最期に背かれるゾフィーを演じた寿さん。背かれてもなお首尾一貫して凛々しい母親なのがやはり良いです。同じく6月までの『レベッカ』組だった伊東弘美さんも、ビー姉さんとは180度違うキャラクターのマダム・ヴォルフを実に生き生きと演じられていました。

前回、涼風さんのシシィについて、一路さんに比べると押しが弱いようなことを書きましたが、それは単に私の頭の中で一路シシィの強い刷り込みから脱却できないというだけで、涼風さんは決して嫌いではなく、むしろ好きです。
歌の技巧面でも、出ない声を無理やり出しているような強引さは微塵もありませんし、姿についても、最後通告場面での立ち居振る舞いや1幕終盤の白ドレス姿、2幕の「私が踊る時」のトートに堂々と向き合う姿等、決めるべき場面は本当に華と影を兼ね備えていて綺麗でした。
青年ルドルフを演じた伊礼さんは、今回が初見でした。1幕プロローグの亡霊姿はさておくとして、舞踏会では全く識別できませんでした。「ミルク」ではルドルフ役者の立ち位置が2006年と同じだったのでやっと存在は認識できましたが、帽子を目深に被っていて顔が良く分からず。というわけで、2幕の青年ルドルフ登場でやっとお顔を識別できました。お母様がチリの方ということで、ラテンぽくて彫りが深く、舞台化粧の良く似合う顔立ちだと思いました。前回までのトンちゃんほどがっちり体型ではないものの、決して細すぎず背も高くて、トートとの死のキスシーンは2人の横顔が実に綺麗に映えていました。

以下はトート閣下について。
昨日書き忘れていましたが、1幕で最初に出てきた瞬間、人間じゃない山口さんキター!とひたすら感動していました。6月まで3ヶ月間人間だった時ももちろん嵌りまくっていたんですが、どうしてこの人は人外な存在の役柄がこんなにも似合って美しいのだろう、とひとしきりため息をつき、何だかんだ言われてもやっぱりトートって当たり役なんだなあ、と、今更ながら感嘆するばかり。でも今回のトート、人々を操る場面で良く手を伸ばしてプルプルさせていて、それを見てM.A.のカリオストロの姿がフラッシュバックした人は、きっと私以外にもいると確信しています。
2幕の閣下で、一昨年観た時と印象が変わったのは、ちびルドルフとの邂逅場面。以前はもう少しルドルフへの情があったように思いますが、今回、ちびルドの背後から頭を捻り潰さんばかりに両手を伸ばしたり、剣先を突きつけたりする仕草が妙に怖くて仕方ありませんでした。どちらの仕草も一昨年からやっていた筈なのに、この場面で心底ぞっとしたのは今回が初めてです。
そして特筆すべきは、ルドルフを革命に誘った後の場面。何と、金髪を振り乱して踊っていました!いや、トートダンサーズ程フルに踊っていたわけではありませんし、あまり驚きまくるのも失礼とは思うのだけど、それでも手足がもたつくような違和感もなく(もっと失礼?)、ごく自然にリズムに乗って踊っていたというだけでも、貴重なものを観ることができた、と思います。どうか11〜12月の帝劇公演でも引き続き踊ってくれていますように。
「悪夢」で冷たく薄笑いを浮かべながらナイフを弄ぶ表情はやはり色っぽかったです。一昨年にやっていたナイフを唇で舐めるような仕草はなくて、そこは唯一残念ポイントでしたが。
エピローグのシシィとのキスシーンでは涼風さんに覆い被さらんばかりにかがんでおり、あれ?涼風さんそんなに背低かったっけ?と思いましたが、良く考えると2階席(最前列)、しかもやや上手寄りの席だったために実際以上にかがんで見えたのかも知れません。

カーテンコールでは特に奇をてらった挨拶こそありませんでしたが、満面の笑みで、暑い名古屋でも元気だぞ!とアピールしているようにも見えました。
また、ドレスの裾さばきがまだ今ひとつぎこちない感じの涼風シシィの手をしっかり取りながら後ずさりしていく様が、トート閣下とは対照的に暖かみがあって可愛らしかったです。名古屋まで遠征して本当に良かった、と思える幸せなカーテンコールでした。

この夏の名古屋行きはこれが最後。博多には行かない予定なので、次に『エリザベート』を観るのは11月となります。3ヶ月は長い様に見えるけど、きっとまたあっという間なんでしょうね。本業もほどほどに忙しい時期ですし。山口さん、その他のキャストの皆様、指揮者西野さん&オケの皆様、そしてスタッフの皆様の、名古屋そして博多でのご活躍を、心よりお祈り申し上げております。