ジェイミー・ニュー=三浦宏規 マーガレット・ニュー=安蘭けい プリティ=唯月ふうか ディーン・バクストン=神里優希 ライカ・バージン=泉見洋平 トレイ・ソフィスティケイ=渡辺大輔 ミス・ヘッジ=かなで(3時のヒロイン) ジェイミーの父/サンドラ=岸祐二 レイ=保坂知寿 ヒューゴ/ロコ・シャネル=石川禅
ほぼ2か月ぶりに池袋に出向き、ブリリアでミュージカル『ジェイミー』を観てきました。
日本初演は観ていないので、今回の再演が初鑑賞でした。実は月末近くに博多のお城への遠征も控えているので(注:大楽にあらず)、最上階の3階席を取りましたが、この演目に関しては階上から見下ろすことで全体が見通せて割と満足度が高かったです。
物語の舞台はイギリス。主人公は、ゲイを自認しドラァグクイーンに憧れる16歳の少年ジェイミー。観る前は彼が困難をくぐり抜けてドラァグクイーンになるお話なのかな? と思っていましたが、実際は少し異なり、少年が「自分は自身を恥じる必要などなく、自分として生きていて良いのだ」と自己確立に至るまでの成長物語でした。
今回は三浦ジェイミー、唯月プリティ、神里ディーンの組み合わせで観ました。バレエ経験の長い三浦ジェイミーの脚線美と四肢の関節の柔らかさ、しなやかさがやはり際立っています。ジェイミーは結構脚を見せる衣装が多いので、登場するたび目が釘付け状態でした。
ジェイミーの親友プリティは、イスラム系の学生。同じイスラム系の級友ファティマが割とリベラルに学園生活を謳歌しているのに対し、進んで自らを律して生きている若者ですが、一方でジェイミーの最大の理解者の1人でもあります。恐らく後述のディーン以外からも差別を受けた経験がなくはないと思われますが、自己の信仰や属性としっかり向き合って迷いなく自分を貫いている、主体的で素敵な女の子に、唯月さんの清廉な歌声がぴったり合っていると感じられました。
ディーンは物語においてジェイミーの最大の敵となってしまいます。いくら性的指向やパフォーマンスが理解できないからって、人のことなんか別にいいじゃん、と思うのですが、恐らく彼は彼で親にそうしたものを否定する育てられ方をしてきた子供であり、単純に批判すれば良い存在ではないわけで……。
2幕での神里ディーンの、これまでの主張を捨てることも迎合することも良しとできず闇をさまようような表情が忘れられません。ラストでジェイミーと同じく、少しでも誰かの言いなりではない自己を確立できていると良いな、と願っています。
そして、級友たちもモブに終わっていなくて、一人ひとりきちんと個性があるのがこの舞台の素晴らしい所です。所謂陽キャ系のグループの子たちが、プリティもジェイミーも決して嘲笑することなく、日和見でもなく、綺麗なものは綺麗、理不尽ないじめにはノーと言えるのを見て、これ日本の学校だと同じような子たちに同じことはできるんだろうか? と思わずにはいられませんでした。
ここで主人公に話を戻しますと、とにかくジェイミーが可愛いのです。あの家庭環境であれほど純粋で真っ直ぐな子を育てたマーガレットママたちの苦労たるや! と、自身が年齢的に高校生より親世代に近い(下手をすると祖母世代……)こともあり、ママや親子を支えるママの親友のレイさんの道のりに思いを馳せていました。
2幕にて、ジェイミーが、とあることに関して母親が伏せていた真相を知り、思わず暴言を吐いて……という展開がありますが、その時のマーガレットが歌うナンバーから、そんな一時の感情で発した暴言なんかで揺るぐほど私のわが子への愛情は弱くないぞ! という母親の強さが伝わってきて良かったです。もっとも、その前に、デビューに舞い上がってどんどん自分の意思で走って親離れを急ぐかのようなとする息子を見て「まだ早すぎる」と戸惑うマーガレットを見ているからこそ、改めてわが子への愛の強さを再認識してしっかり謝って和解し、少しだけ子離れへの一歩を踏み出す彼女の姿がより尊いわけですが。
あと、レイさんのような立ち位置の存在は心強いですね。ジェイミーの父親が幼少期から明らかにマジョリティではなかったわが子を実の子ゆえに拒絶するのと対照的に、血縁関係がないからこそ、程良い距離感でジェイミーを全面的に肯定して応援できる。しかもただの応援団ではなく、いざという時には、貴方は悲劇のヒロインになっていないか? プロムは貴方だけの場ではない、と簡にして要を得た忠告もできる信頼関係を築いている。こういうカッコいい大人、憧れます。
もう一人の大人の理解者、ヒューゴ。彼については実は観客として十分に理解できている自信がありません。ただ、彼が歩んできた道が後ろ指を指されるものであり、その道のりで彼が堂々とマイノリティを貫いて生きるのは容易ではなかったことだけは、わかります。ジェイミーの課題はドラァグクイーンデビューできれば解決するものではない、と、多分最初からわかっていて、でもいい感じの距離感ですっと手を差し伸べられるヒューゴもまた、素敵な大人だと感じました。
そんな彼だからこそ、ひとたびロコ・シャネルに成った時の美しさには凄みと厚みがあるわけです。というか中の人、とても1か月前までトランシルバニアの老教授だったとは思えないのですが……。
あとドラァグスな皆様。泉見洋平さんの出演は存じていましたが、それでもライカさんは二度見しました。キャワワな永遠の21歳。忘れません。岸さんは二度見して、更に帰宅後にキャスト表で確認して「うむ」となりました。そして渡辺さん、文句を言わせない美しさです。彼らを見てから、ドラァグクイーンは必ずしも「女と見紛う美しさ」が完成形なわけではなく、いかに誇り高くクイーンとして人生を生きるか? によりそれぞれの美しさが形作られているような気がしています。もちろんドラァグスな彼らはドラァグクイーンとして美しくありたいと考えているとは思いますけれど。
そして書き忘れていましたが、ヘッジ先生。え、歌えて踊れて台詞も流暢にこなして、この方、前からミュージカルに出てたっけ? 誰? と終演後に確認して、え、センターの人があいみょんに似ているお笑いトリオのあの人!? と驚かされました。真面目な話、今後他のミュージカルに出ても全然行けると思いますので、本業に差し障りのない範囲でぜひお願いします。
『ジェイミー』、まとめると、人は差別意識と無縁でいることも、何者にも負けない自己を確立することのどちらもついても、現実になかなか難しさを覚える機会が多そうですが、それでも「そんな困難にめげてられるか!」と心を奮い立たせられ、活力が湧いてくる作品です。一度は観ておいても損がないと思いますので、未見の方はぜひどうぞ。