日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『ジェイミー』感想(2025.07.12 12:00開演 東京建物Brilliaホール)

キャスト:
ジェイミー・ニュー=三浦宏規 マーガレット・ニュー=安蘭けい プリティ=唯月ふうか ディーン・バクストン=神里優希 ライカ・バージン=泉見洋平 トレイ・ソフィスティケイ=渡辺大輔 ミス・ヘッジ=かなで(3時のヒロイン) ジェイミーの父/サンドラ=岸祐二 レイ=保坂知寿 ヒューゴ/ロコ・シャネル=石川禅

ほぼ2か月ぶりに池袋に出向き、ブリリアでミュージカル『ジェイミー』を観てきました。

日本初演は観ていないので、今回の再演が初鑑賞でした。実は月末近くに博多のお城への遠征も控えているので(注:大楽にあらず)、最上階の3階席を取りましたが、この演目に関しては階上から見下ろすことで全体が見通せて割と満足度が高かったです。

物語の舞台はイギリス。主人公は、ゲイを自認しドラァグクイーンに憧れる16歳の少年ジェイミー。観る前は彼が困難をくぐり抜けてドラァグクイーンになるお話なのかな? と思っていましたが、実際は少し異なり、少年が「自分は自身を恥じる必要などなく、自分として生きていて良いのだ」と自己確立に至るまでの成長物語でした。

今回は三浦ジェイミー、唯月プリティ、神里ディーンの組み合わせで観ました。バレエ経験の長い三浦ジェイミーの脚線美と四肢の関節の柔らかさ、しなやかさがやはり際立っています。ジェイミーは結構脚を見せる衣装が多いので、登場するたび目が釘付け状態でした。

ジェイミーの親友プリティは、イスラム系の学生。同じイスラム系の級友ファティマが割とリベラルに学園生活を謳歌しているのに対し、進んで自らを律して生きている若者ですが、一方でジェイミーの最大の理解者の1人でもあります。恐らく後述のディーン以外からも差別を受けた経験がなくはないと思われますが、自己の信仰や属性としっかり向き合って迷いなく自分を貫いている、主体的で素敵な女の子に、唯月さんの清廉な歌声がぴったり合っていると感じられました。

ディーンは物語においてジェイミーの最大の敵となってしまいます。いくら性的指向やパフォーマンスが理解できないからって、人のことなんか別にいいじゃん、と思うのですが、恐らく彼は彼で親にそうしたものを否定する育てられ方をしてきた子供であり、単純に批判すれば良い存在ではないわけで……。

2幕での神里ディーンの、これまでの主張を捨てることも迎合することも良しとできず闇をさまようような表情が忘れられません。ラストでジェイミーと同じく、少しでも誰かの言いなりではない自己を確立できていると良いな、と願っています。

そして、級友たちもモブに終わっていなくて、一人ひとりきちんと個性があるのがこの舞台の素晴らしい所です。所謂陽キャ系のグループの子たちが、プリティもジェイミーも決して嘲笑することなく、日和見でもなく、綺麗なものは綺麗、理不尽ないじめにはノーと言えるのを見て、これ日本の学校だと同じような子たちに同じことはできるんだろうか? と思わずにはいられませんでした。

ここで主人公に話を戻しますと、とにかくジェイミーが可愛いのです。あの家庭環境であれほど純粋で真っ直ぐな子を育てたマーガレットママたちの苦労たるや! と、自身が年齢的に高校生より親世代に近い(下手をすると祖母世代……)こともあり、ママや親子を支えるママの親友のレイさんの道のりに思いを馳せていました。

2幕にて、ジェイミーが、とあることに関して母親が伏せていた真相を知り、思わず暴言を吐いて……という展開がありますが、その時のマーガレットが歌うナンバーから、そんな一時の感情で発した暴言なんかで揺るぐほど私のわが子への愛情は弱くないぞ! という母親の強さが伝わってきて良かったです。もっとも、その前に、デビューに舞い上がってどんどん自分の意思で走って親離れを急ぐかのようなとする息子を見て「まだ早すぎる」と戸惑うマーガレットを見ているからこそ、改めてわが子への愛の強さを再認識してしっかり謝って和解し、少しだけ子離れへの一歩を踏み出す彼女の姿がより尊いわけですが。

あと、レイさんのような立ち位置の存在は心強いですね。ジェイミーの父親が幼少期から明らかにマジョリティではなかったわが子を実の子ゆえに拒絶するのと対照的に、血縁関係がないからこそ、程良い距離感でジェイミーを全面的に肯定して応援できる。しかもただの応援団ではなく、いざという時には、貴方は悲劇のヒロインになっていないか? プロムは貴方だけの場ではない、と簡にして要を得た忠告もできる信頼関係を築いている。こういうカッコいい大人、憧れます。

もう一人の大人の理解者、ヒューゴ。彼については実は観客として十分に理解できている自信がありません。ただ、彼が歩んできた道が後ろ指を指されるものであり、その道のりで彼が堂々とマイノリティを貫いて生きるのは容易ではなかったことだけは、わかります。ジェイミーの課題はドラァグクイーンデビューできれば解決するものではない、と、多分最初からわかっていて、でもいい感じの距離感ですっと手を差し伸べられるヒューゴもまた、素敵な大人だと感じました。

そんな彼だからこそ、ひとたびロコ・シャネルに成った時の美しさには凄みと厚みがあるわけです。というか中の人、とても1か月前までトランシルバニアの老教授だったとは思えないのですが……。

あとドラァグスな皆様。泉見洋平さんの出演は存じていましたが、それでもライカさんは二度見しました。キャワワな永遠の21歳。忘れません。岸さんは二度見して、更に帰宅後にキャスト表で確認して「うむ」となりました。そして渡辺さん、文句を言わせない美しさです。彼らを見てから、ドラァグクイーンは必ずしも「女と見紛う美しさ」が完成形なわけではなく、いかに誇り高くクイーンとして人生を生きるか? によりそれぞれの美しさが形作られているような気がしています。もちろんドラァグスな彼らはドラァグクイーンとして美しくありたいと考えているとは思いますけれど。

そして書き忘れていましたが、ヘッジ先生。え、歌えて踊れて台詞も流暢にこなして、この方、前からミュージカルに出てたっけ? 誰? と終演後に確認して、え、センターの人があいみょんに似ているお笑いトリオのあの人!? と驚かされました。真面目な話、今後他のミュージカルに出ても全然行けると思いますので、本業に差し障りのない範囲でぜひお願いします。

『ジェイミー』、まとめると、人は差別意識と無縁でいることも、何者にも負けない自己を確立することのどちらもついても、現実になかなか難しさを覚える機会が多そうですが、それでも「そんな困難にめげてられるか!」と心を奮い立たせられ、活力が湧いてくる作品です。一度は観ておいても損がないと思いますので、未見の方はぜひどうぞ。

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』感想(2025.05.17 13:00開演 東京建物Brilliaホール)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 サラ=フランク莉奈 アルフレート=太田基裕 シャガール芋洗坂係長 レベッカ明星真由美 ヘルベルト=ジュリアン マグダ=青野紗穂 クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身=佐藤洋介 アブロンシウス教授=石川禅

東京公演2回目、e+貸切公演のTdVを観てまいりました。

あと1回、博多座に遠征予定がありますが、今回で東京公演はマイ楽になります。

あいにくの雨模様の上、今回も2階席か、と思っていましたが、行ってみるとR2階席、つまりラウンド状のバルコニーの前方席。実は俯瞰で一番全体を見渡せる座席だったことがわかり、一転「何これ楽しい!」と元気になりました。

例えば、1幕の初登場の時の伯爵が1階下手の通路を渡ってステージ下でじっと待っている姿も、歌い終えて上手通路から帰る時に最前列の通路席の方に手をかざしてから割と早足で去っていく姿も、階上からじっくり堪能できるわけでして……。大変ありがたい座席でした。

今回は、著しい緊張が伝わってきた初日とは異なり、山口伯爵のお声が朗々、ロングトーンも炸裂しまくりで絶好調であったように思います。

そして禅教授も絶好調でした。1幕の「人類のため」は伯爵の「抑えがたい欲望」とタメを張るか、場合によってはそれ以上にテクニックもエネルギーも使う曲だと思っていますが、ダンスも超高音(超音波?)もこの上なく見事にびしっと決めていました。

また、キャストの皆様からアドリブも出ていて、だいぶのびのびしてきた印象を受けました。

シャガールの1幕でのヴァンパイアダンスの物真似は初日もやっていましたが、先週より上達したような気がします。

また、2幕の霊廟での教授とアルフの掛け合いでは、禅教授から「おまえは60歳のこむら返りを知らない!」というアドリブが飛び出していました。一方の太田アルフは、「プリティ・トゥエンティ・アルフレート・ジャンプ!」という謎の名前のジャンプ技を披露していました(中身はいつもの教授に届かないヘタレジャンプ)。霊廟から引き上げる時に教授に「おまえいくつだ?」と訊かれて「ハタチです」と答えていたので多分アルフの年齢と掛けたと思われます。

ところで禅さんのお年が60歳と知って、「いつの間にそんなご年齢に!」とそれなりに衝撃を受けています。教授ももしや60歳なのでしょうか!? 見た目からプラス5歳ぐらいと思っていましたが、考えてみると大学教授なので50代でも不思議はないですね。

あと、これはアドリブではありませんが、1幕フィナーレで伯爵が「夢は~成長すれば叶うはず~」でスポンジを投げた時、太田アルフはスポンジを受け取れずに落としていました。ただ、これは私は気づきませんでしたが初日にも落としていたようで、また、他の日も受け取れなかった(受け取らなかった?)という話も聞こえてきたので、どうしてそうしているのかは不明ですが意図的な動作かも知れません。

伯爵は自ら仕掛けるアドリブとは無縁。と申しますか、別の境地に存在しています。そして意外とサラもアドリブはないですね。

これもアドリブではありませんが、幕間のクコール劇場。駒田クコールがe+のピンクのミニのぼりを2本頭に立てて登場していました。そしてお掃除終了後には、イー、プラス!のポーズを決めて去っていきました。上演時間わずか3~5分のクコール劇場、待たずに御化粧室に並ぶ人も多いですが、自分の場合は何となく応援したくて、初演の頃から一貫して見続けています。

本編の感想(と言ってもほぼ伯爵の感想ですが……)に戻しますと、やはり祐一郎伯爵が、本人が不在の場面でも劇城の空間を支配している感が強いですね。と申しますか、登場するとその瞬間に劇城の闇も含めて全体がすっと掌握され、圧倒的な美しい歌声に全てが包み込まれる。何度観ても、その感覚がたまらないのです。

特に「抑えがたい欲望」では、歌声が響き渡っているのに静寂までが全て伯爵のものであり、重ねて、佐藤影伯爵と呼吸がシンクロした! という瞬間も何度か感じられ、なんかすごい物を観ちゃったな、という安易な感想しか出てこない自分の語彙の乏しさを悔しく思います。今回もショーストップがかかっていました。しかもあの長丁場で歌い終えた後、ほんの数分後に舞踏会であれだけパワフルに熱唱しまくるのは尋常ではないですね。

それから、終盤のクライマックスで、そこそこ痛い目に遭わされた筈なのに、去って行った者どもをほんの一瞬、遠い目で惜しむように見やる祐一郎伯爵の表情も、何とも味わい深いものがあります。

この時代考証もへったくれもない、人間の卑小さも美しさも、エログロも異形も満載で、初めから全てが伯爵の掌の内で転がされて狂宴へと導かれることが約束づけられた作品の日本版が、20年近くも上演し続けられたのは、山口祐一郎という役者あってこそ、と改めて認識させられています。もちろん作品は生き物、次世代に引き継がれアップデートされても、それは現在彼が作り上げている作品の世界とは全く別の世界であり、二度と同じ世界にお目にかかることはないだろうと考えています。

その他本編について書きたいことは、大体前回書いてしまったのですが、少しだけ。この作品、伯爵だけでなくその他の人外キャラクターについても、作中で人外にクラスチェンジする人物も含めて、歌う人も踊る人も、佇まいがちゃんと人間とは異質の存在として演じ分けられています。しかも人外の皆様、格好良い方は徹底して格好良く(例:影伯爵)、人外なりの可愛げのある方は決して気は許してはいけないのだけど(油断すると噛まれるので)、実に可愛らしい(例:ヘルベルト)。だから、観客としても変な同情や哀感を覚えることなくエンディングの狂宴で盛り上がれるのだと思っています。

そして、人外の皆様が際立つのは、クラスチェンジしない皆様のブレなさがあってこそです。特に禅教授、そして駒田クコールの安心して委ねられる居ずまいには素晴らしいものがあります。

カーテンコールでは、前述のとおりe+貸切公演でしたので、祐一郎伯爵からご挨拶がありました。進行役の駒田クコールが「失神しないでくださいねー」と一言。

はい、伯爵はヴァンパイアなので、イー、プラス!のプラスのポーズが決められない、どころか、プラス! と口にしようとすると途中で「ぐああ」と悲鳴を上げてのけぞって失神してしまうのでした。♪なんて可愛い~(マグダの声で)。だからクコール劇場で大量にポーズを決めていたのか、と客席で納得していました。

ご挨拶の後は、客席全員でいつものヴァンパイア・ダンス! 2階席なので着席状態でしたが、しっかりと、5年ぶりに探し出した赤いハンカチを振り回すことができました。

ちなみに、5~6年前の前回公演を観に行かれた皆様、赤いハンカチはどのように仕舞われていましたか? 私の場合は5~6年前から自宅に存在する「今すぐには使わないが、いつかまた確実に使うのでスタンバイさせている物の山」の中から発見されました……。

カーテンコールの後、最後の最後に祐一郎伯爵、駒田クコール、禅教授が手を取り合って揃い踏みでお出まししてくれたのが嬉しかったです。この組み合わせでのお出ましは従来あまりなかったような気がします。

というわけで、TdVはしばし封印となります。博多座公演は日程的に大楽参戦は難しいので、楽近くの週末の参戦となりますが、TdVカンパニーとの再会を心待ちにしながら、日々の労働に励みたいと思います。

 

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』初日感想(2025.05.10 18:00開演 東京建物Brilliaホール)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 サラ=フランク莉奈 アルフレート=太田基裕 シャガール芋洗坂係長 レベッカ明星真由美 ヘルベルト=ジュリアン マグダ=青野紗穂 クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身=佐藤洋介 アブロンシウス教授=石川禅

6年ぶりの再演となった『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の東京初日を観てまいりました。

前回公演から間があいたのは、コロナ禍の影響もあったと思われますが、個人的には前回公演のキャストに亡くなられた方がいるのでそれなりに時間も必要だったのではないかと推測しています。あまりに長いブランクでしたので、カーテンコール用に赤いハンカチを準備していくのをすっかり失念してしまいました。

リリアホールは今回は2階席で観ました。TdVは客席降りなど1階席の方が趣向が豊富な作品ですが、2幕は結構高所での見せ場が多いので、問題なしです。

ブリリア城は帝国劇城に比べると闇の奥行きが足りない所はあるものの、音響は2階でもそこまで悪くない……と思いましたが、たまにオケの音が割れて聞こえるのはなぜでしょう。

ということで、本編の感想にまいります。結末以外は多少物語の具体的展開に触れていますのでご注意ください。

プロローグのアルフのモノローグと教授、そこからニンニクの歌、解凍される教授、答えてはいけないニンニクの首飾り、とテンポの良い展開は「来た来た!」と一気に物語世界に引き込んでくれて、とてもありがたいです。

太田アルフはかなりヘタレ味の強いキャラで作り込んでいる一方、歌声は声量があってとても力強く、「ギャップ萌え」な感じでした。

フランクサラは歌声も見た目も背伸びしようとしているお嬢様なイメージが漂っていました。歴代だと剣持サラや知念サラの雰囲気に近いでしょうか。

全体の演出や舞台装置、衣装は2019年公演準拠のようです。宿屋のロフトにはサラの両親とマグダの部屋が配置されていますが、おかげで禅教授の立ち居振る舞いが狭そう……。

初日は2階席につき客席からの伯爵のお出ましはチェックできず。伯爵の甘いささやき声から力強い歌声に切り替わる時がどきどきします。

禅教授の「人類のため」の高音は健在で安心です。劇中で家が破損しているのに安心というのも何か妙ですが。

伯爵がお風呂場に降臨する時に家が割れるのは、何度観てもやはり不思議。この場面、もちろんサラは獲物なので張り切って誘惑しているのだと思いますが、伯爵、若い人間と交流すること自体が嬉しそうに見えるのです。これは1幕ラストのアルフレートとの場面でも同じように感じました。

サラの出奔前の、サラの化身と伯爵の化身とのヴァンパイア・ダンスはやはり艶やかで美しいですね。個人的には2幕の悪夢ダンスより好みです。

青野マグダ、声、色気があってほどよくドスも利いていて上手いので、他の役でも観てみたい気がします。

芋洗坂シャガールは十字架が効かないのはある意味伯爵より強力と思いますが、多分他の能力が伯爵より雑魚なので天下は取れないだろうね、惜しいね、と要らぬ妄想をしていました。

教授たちのお城行き、2階だとまた見えないのですが、2階担当のヴァンパイアさんはやってきて生歌を歌ってくれました。こんな狭い座席までありがたい……。

伯爵再登場。2019年よりも若返っているように見えるのは何故でしょう。本当リアルヴァンパイアです。教授の名刺をなかなか受け取らなかったり、アルフのおでこを嬉しそうにスポンジでふきふきしたりする可愛い振る舞いと、老いぼれには従うな! と叫んだ瞬間に爆風が吹くような烈しさも健在で何よりでした。

そして、あれ、ロングトーンで声が少し枯れてる感じだけど大丈夫? と気になりましたが、そのまま問題なくロングトーンが成立したことに驚嘆しました。やはり色々な意味でただ者ではないお方です。

休憩時間は30分。クコール劇場が本公演でも開幕いたしました! 駒田クコールが、前回から6年ぶり、初演からは19年(!)の初日ということで口上を披露していました。初演の伯爵の化身でいらした新上裕也さんのお名前もお話に登場して、とても懐かしい気持ちに。どうやらもうひとりの良く似たクコールさんも劇場をやってくれるようですよ。クコール劇場は5分ほどでお開きになるので、その後御化粧室に並んでも十分間に合います。

2幕はサラと伯爵のデュエットから始まります。フランクサラは割と上背があるので、ヒールを履いて伯爵と並ぶと身長差が少なめ。2人ともすらりと立ち姿が綺麗なのでバランスが良いです。

自分が少し歳を取ってみると、この場面での伯爵はサラの大人ぶった背伸び以上に見栄っぱりですね。加えて、アルフも含め、獲物を手中にした喜びと同時に、世俗的な欲にまだまみれていない若い人間たちと交流することも本当に嬉しいのだと思います。

その後は悪夢ダンス。ヴァンパイア・シンガーズの皆さんの確かな歌声にのって、伯爵の化身佐藤洋介さんをはじめとして体重を全く感じさせずに舞うダンサーズの皆さんにすっかりロックオンしていました。洋介さんのほかには、アルフの化身の水島渓さんがやや儚げなアイドル顔でアルフっぽさ満載で、でもダンスはしっかりと魅せてくれて印象的でした。

夜明け後は、優秀なメイドでもあるクコールは今回も不当に怖がられ、アルフは今回も一口しか朝食を食べられませんでした。

霊廟シーンでは、初日なので教授とアルフのかけ合い漫才はまだ小手調べな感じでした。そのうちまたアドリブが出てくることと思います。

お城の図書室は、2019年以降の演出では結構地味で、何となく書架にたくさん本があることがわかるレベルの造りでした。以前の演出では本を踏み台にするな問題などはあったものの、もっと図書室のゴージャス感が感じられたのが懐かしいです。

サラにけんもほろろにされた後に「サラ」を歌う太田アルフは、とても無垢に見えました。しかしいくら無垢だからと言って、あの歌声をサラと信じて一切疑問を持たないのはどうなのかと思うのです。

ヘルベルトのキャラクターは、初演の頃からだいぶ時代と受け止め方が変化しているので、LGBTQ的にいったいどう取り扱うのか気になっていました。ジュリアンヘルベルトは、許されるギリギリのラインでこれまでのヘルベルトのビジュアルや立ち居振る舞いのイメージを引き継ぎつつ、相手との適切な距離感がわからず探り探りしている様子に可愛らしさを感じさせてくれるなど、いい感じで作り込まれています。

なお、教授の台詞が以前は「女に振られたら今度は男か!」だったのが、「娘に振られたら今度は息子か!」に変わっていました。これも時代への配慮?

ここからはあまり細かい展開は書きません。ひたすら「伯爵祭り」です。

「抑えがたき欲望」。甘い甘いウィスパーボイスでこれまでに奪った愛しい人の命に思いを馳せる伯爵も、欲望を力強く全面的に肯定し、朗々と賛美する伯爵も、どちらも紛れもなく伯爵の真の心。その事実が、これまでになく説得力を持って伝わってきているように感じられました。佐藤影伯爵の、伯爵の心の揺れ動きにそっと寄り添いシンクロするダンスも健在。伯爵がロングトーン炸裂で歌い終えた後に結構長くスタオベがありましたが、その間あのポーズを取り続けた影伯爵に素直に賞賛の声を送ります。

その後で見得を切って現れて堂々と欲望を貫く伯爵は、この上なくキラキラとして(決してギラギラでないのがポイント)格好いいのです。観ている側も「来た来たー!」とわくわくさせられて、気づくとすっかり彼に魅了され、手玉に取られて、ぞくぞくと気持ち良くなる怖さ。これぞ真骨頂。これがあるから何度でも観たくなるのです。

そして、一気に畳みかけるようにエピローグからダークな華満開のエンディングへ。モラルもルールもまっぴら! と堂々と手拍子で盛り上がって応えられるのはこの演目ぐらいだと思います。

カーテンコールでは初日なので、サラ、アルフレート、教授、伯爵の順でご挨拶がありました。教授の歯がゲネプロ前に欠けたエピソードを聞いた時は一瞬「何の呪いが!?」と慄きましたが、無事間に合うように歯は治療できたらしいので、特に呪いとかではなかったようで安堵しました。

伯爵からは、パパは幸せです! というご挨拶が簡単に。「パパ」は誰の? となりましたが、後からゲネプロ時の囲み取材で城田伯爵に対し「パパ」を名乗っていたと知って納得しました。その後はすっと客席から見守っていた作詞家クンツェさんからのご挨拶につなげていました。そうか、クンツェさんの原語だと発音は「ヴァンパイア」じゃなくて「ヴァンピーレ」だよね、とつくづく考えながら聞いていたら、気づけば内容が頭から飛んでいました、ごめんなさい。

それから、アルフレートとクコールの振付指導による客席を巻き込んでのヴァンパイアダンス! 東宝公式動画を見ていなかったので、赤いハンカチは持参できておらず、手元の手ぬぐいを振り回していました😅

退場アナウンスがあってからも拍手が鳴り止まず、呼び戻しあり。最後はクンツェさんや指揮の塩田さんも舞台に上がられていました。

次回は5月17日昼に観劇予定です。チケットの巡り合わせがあまりよろしくなく、東京公演は次回がマイ楽予定な上、もうひとりのサラ、アルフレート、クコールにはお目にかかれずじまいとなりそうですが、次回も目いっぱい楽しんできたいと思います。赤いハンカチ、どこへしまったかな……。

 

 

 

『昭和元禄落語心中』感想(2025.03.08 13:00開演 東急シアターオーブ)

キャスト:
二代目有楽亭助六(初太郎)=山崎育三郎 八代目有楽亭八雲(菊比古)=古川雄大 みよ吉=明日海りお  与太郎黒羽麻璃央 小夏=水谷果穂 松田=金井勇太 師匠(七代目有楽亭八雲)=中村梅雀

3月8日、『ケイン&アベル』から約1か月ぶりに渋谷の東急シアターオーブにお出かけして、ミュージカル『昭和元禄落語心中』を観てまいりました。

こちら、数年前に原作読了済み、アニメは未見ですがNHKのドラマは面白く見ていました。余談ながら、ドラマ版で大変に美しい八雲を、若年期から晩年まで好演していた岡田将生くんには、以降は割合と好印象を抱いております(と言ってもその後は出演朝ドラ2本と、映画1本を見たぐらいですが)。

舞台の話に戻しますと、前宣伝では、ミュージカルなのに演出の小池先生の名前ばかりが前面に出て、作曲担当の方の名前はスタッフ欄に書かれているのみでしたので、「それはちょっとどうなのよ」と不安要素がありました。しかし、実際に観るとそのような不安は杞憂であり、結構楽しく観ることができました。

観劇後に他のお客さんから「小池さんは原作があれば大丈夫」というような感想が聞こえてきましたが、本作を含め、確かに原作を改変していても丁寧にリスペクトしている印象があるので(某シェイクスピアスマホとアニマルプリントを除く)、意外と2.5次元には向いた演出家なのかも知れません。そう言えば『ポーの一族』も悪くなかったな、と思い起こしておりました。

さて、本作のキャストのトップクレジットは育三郎くんのようですが、ストーリー上はやはり古川くん演じる八雲(菊比古)がメインで構成されていました。そしてもちろん、ヒロインである明日海さんのみよ吉も欠かせない存在です。3人とも同じ事務所だとこういう時便利……。

初っ端に銀髪の古川八雲(若き日は菊比古)が登場した時、声の出し方や動き方がしっくりとはまって、きちんと老落語家に見えたので心の中で感嘆の声を上げました。このジジイ、もとい美老人が実に匂い立つような侘び寂び系の色気を漂わせていて、素晴らしかったです。
古川菊比古は、翳りのある堅物青年が最初は目指す芸風の肥やしのためにと色恋ごっこに手を染めますが、やがて本気になるにつれ、はんなりと大人の色気を醸し出していきます。しかも菊比古青年の日陰の花のような色気と、先に述べた八雲老人の侘び寂び系色気とが別物としてしっかり演じ分けされていて、古川くん、いつのまにそんなに色気を蓄えたの? とどきどきさせられました。中盤の女形ぶりもまた見事で。

育三郎助六(初太郎)は、ドラマと同じ役どころで、実際に噺を覚えて収録に臨んだ経験もある、ということもあってか、芯から落語が染みこんだ奔放な魅力が全身から強烈に漂っていて好印象でした。助六の落語の魅力がアップテンポかつダンサブルな楽曲で表現されているのもまた心地よかったです。

菊比古は、ことあるごとに自分にはない華を持つ天性の噺家である助六を親友として慕うと同時に激しい劣等感を抱きますが、一方で助六は本当に彼が熱望していたものは全て自身から離れ菊比古に近づいていく、という皮肉な運命に見舞われていきます。2人は互いの持ち味を師匠以上に深く理解していて、相手がいるからこそ自身が噺家として生きていけることを知っていて、それが育三郎助六と古川菊比古の佇まいからしっかり伝わってきたので何とも切なさを覚えました。

さて、みよ吉という女性。菊比古と助六のそういう拮抗しつつも強い絆の間に結果として割り込んだ上に情をもつれさせてああいうことになった人なので、個人的にそんなに思い入れがない、というよりあまり好きではありませんでした。

……と、その筈でしたが、明日海みよ吉が満州国のパーティーの場に芸者姿で登場した瞬間から圧倒的な清潔感でそんなもやもや感を全て吹っ飛ばしてくれました。明日海みよ吉、艶やかさと同時に清々しさが漂っていて、2人の男性の心にごく自然に入り込んでいく雰囲気が良く出ていました。それでいて心に深い孤独も抱えており、それゆえに2人が最も愛を注ぐ対象が「落語」であり、それがある限り決してどちらの男性も独占することができないと恐らく気づいてしまっているみよ吉の哀れさも、しっかり体現されていたと思います。

そして原作の『落語心中』は、メインの3人だけでなく、複数の人間がドラマを持ち合わせているわけですが、舞台でもそうした魅力は活かされていました。

梅雀さんの師匠の厳しくも温かい人柄の裏にある、生涯癒やされることのなかったコンプレックスと苦悩。渋い色気と軽妙さとジャジーなリズム感とを兼ね備える梅雀さんのキャスティングはドンピシャでした。

黒羽さんは多分初見でしたが(すみません、黒羽ルキーニは観ていないのです)、前科者で元チンピラで一見チャラい与太郎の秘めた覚悟としなやかな強さが出ていて、台詞回しも綺麗で良かったです。

小夏の水谷さんも、本作では黒羽与太郎と金井さん演じる松田とともに狂言回し的な役割を果たし、熱演されていました。今回、2か所ほどで台詞を噛んでしまっていたので、客席でひっそり「ガンバレ!」と応援しておりました。
なお本作では、特に助六父娘は長台詞を早口でまくし立てる場面が多いので、非常に噛みやすい状況なのは確かです。育三郎助六も落語の場面で思い切り噛んで「噛んじまった!」とアドリブでカバーする瞬間がありました。

そんなこんなで、終始かなり面白く観ることができました。しかし、終盤の展開で明日海みよ吉が「死は逃げ場ではない!」という台詞を放つ場面が。客席でずっこけた後、
「そう言えばメインの3人全員『エリザベート』でトートだった!(この台詞は宝塚版オンリーだけど!)」
と思い至りましたが、何もそんな所で要らんサービスを入れなくても……💦

なお、公演パンフレットで演出家が書かれていたとおり、今回のミュージカルは原作の前半部分までが舞台化されたもので、それに伴い結末が若干原作の流れから変更されています。その変更はそんなに気にならないものでしたが、原作の後半のドラマも非常に面白いので、未読の方にはそのうちぜひお読みいただければ、と思います。

 

CONCERT『THE BEST』感想(2025.02.18 18:00開演 Cプログラム 帝国劇場)(追記あり)

キャスト:
井上芳雄 浦井健治 小野田龍之介 甲斐翔真 佐藤隆紀LE VELVETS) 島田歌穂 三浦宏規 宮野真守 木下晴香 昆夏美 涼風真世 平野綾森公美子
(Cプログラムゲスト)伊礼彼方 駒田一 保坂知寿 松下優也 山口祐一郎

帝国劇場クロージングラインナップのラストを飾るコンサート『THE BEST』に行ってきました。

劇場内には、過去の上演作品のタペストリーや、実際に使われていた着到板などが展示されていて、特に着到板は撮影・録音禁止だったこともあり、目を凝らしてチェックする人が列をなしていました。私も目を皿のようにして無事「山口祐一郎」「浦井健治」の名前を見つけられたので安堵。

今回、ちょっとだけ勇気を出してSS席に手を出したところ、入場後に「SS席特典最後尾」の案内があったのでそちらの列にも並びました。

特典は“Imperial Theatre 1966-2025”と銀で印字されたタンブラーでした。もったいなくて使えなさそう……。

他にもグッズ列、飲み物・パンフ列、そして入口には顔認証未完了の皆様の列なども形成されており、とにかく列、列、列だらけ! でした。

感想はネタバレ最小限で書いていますが、エンディング曲など一部の曲名を出しているものがあるので、ご承知おきください。

コンサートは、帝劇で上演されたことのあるミュージカル全53作のナンバーを最低1曲、フルコーラスもしくはメドレーで全て披露する、という内容でした。

帝劇で最初に上演されたミュージカルは『心を繋ぐ6ペンス』だそうです。え、『マイ・フェア・レディ』じゃないの? と一瞬戸惑いましたが、そう言えばマイフェアの初演は東京宝塚劇場で、しかも現帝劇のこけら落とし前でした。

今回色々なミュージカル曲を聴いてみて、近年上演されたものでも、観ていないものがかなりあることが分かりました。実は王様と私もマイフェアもルドルフも1789も観ていなかったりします。なんと恐ろしい。

あと、限られた曲数内でレミゼサイゴン、エリザ、M!からは複数曲がセットリストに入っているのは、通しキャストとCプログラムキャストでセトリを組んだ結果でもありますが、やはりこの4作品が観客を盛り上げやすいのでしょうね。

キャストはレギュラーもゲストも安心してお歌を聴ける方ばかりです。

女性陣レギュラーはモリクミこと森公美子さん、島田歌穂さん、涼風真世さん、平野綾さん、昆夏美さん、木下晴香さん(本日初日)。

モリクミさんについては、「え、涼風さんでなくモリクミさんがそれ歌うの?」と驚いた1曲が終盤にありましたが、聴き終えてみると、「なるほど、独立した曲として歌うとそういうしっとりと濃いアプローチもありなのね」となかなか新鮮な印象でした。

歌穂さんも歳を取らない方だなあ、としみじみ。「オン・マイ・オウン」がまた生で聴けて嬉しかったです。あの曲でエポニーヌの心象風景の銀の河が立体的に浮かび上がって見えたのは、歌穂さんと新妻聖子さんぐらいでしたので。

綾ちゃんは金髪になっていたので真面目に最初誰だかわからなかったです……。でも歌えば七色の声。

昆さんは、そうか、もう中堅どころだったんですね、と、幅広い曲に対応しているのを観て思いました。晴香ちゃんも凛とした強さと素直なかわいらしさを両方兼ね備えた歌声が、聴いていて心地良いのです。

男性陣レギュラーでは、特に井上くんは声量もあり声の質も強く、歌声だけですぐに彼の声と分かりますし、仕切りも全く危なげなく、これは重用されるよな、と今更ながら思いました。

浦井くんも歌は安定しています。隙をみてまた暴走しないかと危惧(期待?)していましたが全くそんなこともなく。本日はソロMCで帝劇デビュー(エリザベート)の思い出として、「『これが帝劇だよ』と常に後ろから優しく支えてくれた祐さん」について語っていて、大変になごませてもらいました。彼の祐さん愛は筋金入りだと思います。

また今回、三浦宏規くんのバレエで鍛えられたというしなやかで美しいダンスに感銘を受けておりました。歌も良いですし、今回出てくるたびに目で追っていたキャストのひとりです。

シュガーさんこと佐藤隆紀さんや小野田さん、甲斐くんは、最近のレミゼにご無沙汰なこともあり、あまり数多く舞台で観られていませんでした。今回、皆様の歌の上手さを堪能できたので、いずれはちゃんと舞台を観ようと思います。

ゲストの皆様は2幕からの登場でした。

1組目は松下優也くん、保坂知寿さん、伊礼彼方くん。

優也くんは先日『ケイン&アベル』で拝見したばかりでしたが、そうか、この演目だとあんな感じの主役で、初日が遅れた時は大変だったんだなあ、と歌やトークを聴いていました。

知寿さんは、そうか、ミセス・ダンヴァースは、普通のおばさまなのに哀しい執着と狂気を湛えていて、それが良かったんだよなあ、と思い出していました。トークで帝劇の神様がいる、という素敵なお話をされていて、「そうね、帝劇の怪人もいたよね」とつい連想してしまいました、ごめんなさい。

伊礼くんは、ルドルフの頃を知っているので「いやー、出世したなあ」と感慨深かったです。ただ一方でずっとどこかに危なっかしい所も残っているようにも見えて、そこは変わらないなあ、とも思いました。

そしてそして、ゲスト2組目は山口祐一郎さんと駒田一さん!

祐一郎さん1曲目、駒田さん、祐一郎さん2曲目、という順に楽曲が披露されていました。

祐一郎さんはやっぱり伯爵のあの曲(歌詞は今回のコンサートのスペシャルバージョン!)で登場すると、大げさでなしに空気感が全く違います。0番に立って歌っている間は客席まで丸ごと「劇城」の空気に包まれているようでした。それにしてもウエストの位置が高くて、あんなにフロックコートが映える人も滅多にいないな、と思いながら1曲を堪能。

で、劇城の跡地にスポンジとともに(笑)現れて、あっという間に強かで猥雑な空気感に変えてくれる駒田さんも相当な手練れだと思ったわけです。客席を盛り上げつつも決してやり過ぎず、しかも後を引かないのはなかなかできる技ではありません。

再度登場した祐一郎さんが披露したのは黄泉の帝王の曲。曲の後半で手ぶりがどんどん激しくなり、あの頃の「死」が降臨している! と思わせられる熱唱ぶりでした。

井上くんとの3人トークは、案の定、年齢が上の方から順に全く落ち着きがなく(笑)、祐一郎さんが数えの年齢で今年は古希にあたる(!)ということで、

「肩がコキコキ言う。その気持ちがいずれ(井上くんにも)分かるから」

「『コキデプエルトリコ』という動物がいるんですよ。カエルでね」(「鳥とかじゃないんですか!」という井上くんのツッコミあり。しかし何でそんな動物をご存じなのか)

等々のやり取りで爆笑させられ、更に井上くんの真ん前に祐一郎さんが躍り出て、井上くんに「被らないでください!」とたしなめられるに至り、腹筋崩壊😂

最終的にトリオ漫才と化した末に、駒田さんとともにダッシュで下手に捌けていき、井上くんに「捌けるの早っ!」と再度ツッコまれていました。

他のキャストが語っている「帝劇の思い出」は祐一郎さんからは一言も出ず……。ただ、井上くんにツッコまれて「それを語ったら3時間じゃ足りないから~」と答えたのは、多分かなり本音に近いのではないかと想像しています。以前に、ブランクを経て初めて帝劇のレミゼの舞台に立った時の喜びを熱く語っているインタビューを読んだことがありますが、そこから更に30年近くの蓄積があるでしょうし……。

トークの後は、「井上芳雄&(空欄)」になっている曲があり気になっていましたが、イントロが始まり井上くんと祐一郎さんが登場して「あ、やっぱり!」と。初演を観ていない私でも、このデュエットは心が沸き立ちます。そして歌い終わると力強い握手! 帰りに「上演が観たくなった」という観客の方のおしゃべりも聞こえてきて、わかる! と頷くなどしていました。

このゲストコーナーの後更に数曲が歌われまして、ラストはレミゼの「民衆の歌」。私的にはこの歌のセンターに祐一郎さんが立って歌っているだけで、2011年の震災後の心震えた上演とか、2013年のあの降板劇とかが頭をよぎって涙腺が緩むというものです。

コンサートが終わって振り返ってみて、やはり自分の帝劇の思い出は、たかだか20年弱ではありますが、あらゆるものが山口祐一郎という役者に紐付いており、彼を縦糸に綴られているのだと実感しています(脳内B.G.M.は中島みゆき「糸」)。

そして今回、新しい劇場でお会いできるよう頑張ります、とは決して口にしなかった祐一郎さん……。実は翌日の夜公演(Cプログラム最終日)も、途中からでしたが配信で観て、ああ、ちょっと声が枯れてるな、昼公演でも熱唱しすぎちゃった? と思いつつ、今のこの素敵な瞬間は宝物、ずっと当たり前に体験できるとは限らない、としみじみとしておりました。しかし、それでも。新劇場でもお目にかかれますようにと今は一縷の望みとして願いたいと思います。

(2025.02.23追記)

あろうことか涼風さんの存在と感想をまるっと書き漏らしていたので追記します。わざとじゃないんです、本当です😭

涼風さんはソロで1曲、他の方と組んで4曲ほど歌唱されていました。回転木馬に出演された頃はまだ舞台に興味ない頃だったな、観たかったな、などと思いながら聴き入っていました。確かM.A.かイーストウィック(マルシアさん、モリクミさんと共演)が初見だったと思います(自信なし)。

しかしやはり圧巻は井上くんとのエリザベートのデュエット曲です。忘れがちですがこのペア、M.A.でカップルを演じていて、その頃は井上くんがまだ若造過ぎて「なんかツバメっぽい」とかなり失礼な印象を抱いていましたが、現在の色々アップデートされた井上くんだとちょうど良い感じで拮抗していて、「今ならこのペアでトートとシシィ行ける!」と思いました。涼風シシィは賛否あった気がしますが、私はあの男前に波風に立ち向かおうとする所がかなり好きでした。

……以上、追記でした。涼風さんも新劇場でまた観られますように願っております。

 

『ケイン&アベル』感想(2025.02.01 12:00開演 東急シアターオーブ)

キャスト:
ウィリアム・ケイン=松下洸平 アベル・ロスノフスキ=松下優也 フロレンティナ=咲妃みゆ ザフィア=知念里奈 ケイト・ブルックス=愛加あゆ ジョージ・ノヴァク=上川一哉 マシュー・レスター=植原卓也 リチャード・ケイン=竹内將人 ヘンリー・オズボーン=今拓哉 アラン・ロイド=益岡徹 デイヴィス・リロイ=山口祐一郎

先週に引き続き3回目の『ケイン&アベル』を観劇してきました。
この演目の東京楽は2月16日ですがチケットは取れていません。せっかく渋谷にも通い慣れてきましたが、早くも今回がマイ楽です。

さすがに3回目となると展開がわかっているのでどきどき感のようなものはありません。なので割と心静かに観ることができたのですが、今回なぜか、終始かなりウィリアムに気持ちが寄り添っていました。

だって、オズボーンの件と言い、ミスター・リロイの件と言い、ウィリアムはそんなに悪くないのです。前者は一応母親の配偶者なので、もっとうわべだけでも慇懃にあしらっておけば、とも思いましたが、まあ若気の至りというものがあったでしょうし、それに相手も「妻(母親)が死んだのは君のせいだ」と平気で言い切るクズですし。後者もたまたまあの銀行が組織として鬼にならざるを得ない経営状況で、たまたま唯一リロイが個体認識したのが、実権はともかくケイン家の若旦那であるウィリアムだったというだけですので。

そんな彼がごんぎつね的な一面(個人の感想です)を持ちつつも、銀行家としての誇りもシビアな眼も有しているが故に、どんどん追い詰めてくるアベル(彼もまた哀れではありますが)と刺し違える姿を眺めるのは、なかなかにしんどいものがありました。うん、でも、まあ、「ごん、おまえだったのか(超訳)」と結末で救済されてはいるから、いいのかな……と、無理やり納得してはいます。

音楽は、今回もやはり、ワイルドホーンの音楽はデュエット曲や四重唱、アンサンブル曲が魅力的と実感しました。曲調を問わずどれもメロディーが複雑でハーモニーが綺麗なので、聴いていてぞくぞくする気持ちよさがあります。
特に、1幕でホテル王ミスター・リロイとアベルが掛け合う曲が2曲あります。1曲目は王様と若者双方の野心が化学反応を起こして、擬似親子的な絆も生まれ、未来への希望に誘われます。
しかし2曲目は、道を閉ざされた王様の悲哀と憎悪がこれでもかとアベルの心にも観客にも刻みつけられ、そして不意にアベルもろとも観客も絶望の底に突き落とす、とてもショッキングな展開です。
これら2曲は対照的な内容ですが、どちらも演じる2人のバランスが少しでも崩れれば成り立たない! と感じながら息を詰めて見守っていました。ミスター・リロイ、登場シーンは一見少ないですが、相対的な密度はとても濃い役どころだと思います。

なお、もちろんソロ曲も素晴らしいです。お気に入りは、1幕でミスター・リロイを失ったアベルをザフィアが励ます曲でしょうか。
「たとえ貴方が折れまくってても、私は折れないで、貴方を背負って引っ張ってくから安心しなさい!」
的なザフィアの強靱さが漂ってくる所が好きです。

そして2幕の星空と天国への階段演出は今回も美しかったです。日本人としてはあれをつい「蛍火」に見立ててしまいますが、そのたびにいやいや、あれは星空もしくは星屑! と心で打ち消しています。観劇3回のうち2回は2階席でしたが、あれを2階から観られる機会が多かったことのありがたさを噛みしめています。ただ、スポットライトの2階直撃だけは眩しいのでどうにかして欲しいところです。

それにしても、「夫同士・親同士の因縁? そんなのクソ喰らえ!」な展開は、ああ、アメリカのお話だなあ、とつくづく思いました。もしヨーロッパ産だったら子供たちが心中して妻たちにも見限られて、宿敵同士で夜のボートか何かに乗って反省はしても和解はしなくて、その後残された片割れが1人で凛と、それでも俺は生きていくぞ、と歌っていそうです(偏見)。

最後に、今回はe+の貸切公演でしたので、カーテンコールで主演のW松下くんからご挨拶がありました。
洸平くんは、
千穐楽は2月16日……でしたっけ? 今日は折り返し地点……でしたっけ?」
という感じで若干の天然臭を漂わせ、優也くんは、
「今日は後ろに作曲家のワイルドホーンさんが!(思わず後ろを振り返る1階席観客)……いらしていません!」
という茶目っ気たっぷりで、それぞれの個性が際立つ内容で挨拶されていました。

以下はこのカーテンコールで発生した小さなエピソードのお話です。
e+の貸切公演では、本来はキャストが「e+(イープラス)!」の掛け声とハンドサインポーズでフィニッシュするのが恒例となっています。ところがW松下くん、緊張ゆえかなぜか一所懸命「+(プラス)!」のみでポーズを決めて、客席にもポーズを振ってしまうという状況に!
その状況を見かねて2人に割って入って、「それはe+ですから!」と「e」と「+」のハンドサインを作りながら全力ツッコミを入れたのは、なんとミスター・リロイこと祐さまでした。当然恐縮しまくる2人。爆笑の渦に巻き込まれる客席。
そこで改めて正しいポーズを決める……のもまぬけだと思ったのか、なぜか「ではせっかくなのでご挨拶を」と祐さまに挨拶を振る洸平くん。対して祐さまはいつもの「幸せです……」の一言でにこやかに悠然と締めていました。ああ、まさかカーテンコールでこんなにもスリルと笑いと癒やしを味わえるとは……祐さまに感謝です。

洸平くんも優也くんも、そして他のキャスト、スタッフの皆様も、東京楽、大阪の大千穐楽までブラッシュアップしながら、無事完走することを願っています。

 

『ケイン&アベル』感想(2025.01.25 12:00開演 東急シアターオーブ)

キャスト:
ウィリアム・ケイン=松下洸平 アベル・ロスノフスキ=松下優也 フロレンティナ=咲妃みゆ ザフィア=知念里奈 ケイト・ブルックス=愛加あゆ ジョージ・ノヴァク=上川一哉 マシュー・レスター=植原卓也 リチャード・ケイン=竹内將人 ヘンリー・オズボーン=今拓哉 アラン・ロイド=益岡徹 デイヴィス・リロイ=山口祐一郎

『ケイン&アベル』(2回目)を鑑賞してきました。

最初に観た時には見落としていたり理解できていなかったりした物語のパズルのピースが、今回はだいぶ埋まったような気がします。前回は筋を追うのも精一杯で、更にベテラン勢の出番の少なさ加減に「どうせ……」と虚無になっていた所がありましたが、今回改めて落ち着いて観てみると、「あれ? もしかしてこのお話、結構面白いんじゃない?」という風に受け止められるようになったのが不思議です。

一応人名を伏せて書きますと、「彼」が敵に塩を送った動機は、組織としては身動きが取れない状況で、でも個人として父親の教えに忠実な生き方をしたかったから。そして相手が自身を憎もうが何しようが、個人として相手のプランそのものには賛同していたからだと理解しています。真正面から助けるにはあまりにも巡り合わせが悪すぎたとは言え、何て不器用なプライドの持ち主、不器用な生き方なんだろう、と思わずにはいられませんでした。
「ごん、おまえだったのか」な展開はベタすぎるという感想は前回も今回も変わりありませんが、今回、全ての因縁が急速に解けて霧消していくあの3人の美しいエンディングを見届けながら、心がじーんとして救われたような心境になりました。

また、観劇2回目にして思い至りましたが、ごんの贈り物がなければ、あのホテルに込められた先代オーナーと後継者、2人のドリームも断ち切られていたのですよね……。ごん本人は教えに従っただけなのかも知れませんが、結果的に様々なものを救って、贖罪につながっていると思うのです。

それからリロイ師匠の一件は実は誰も悪くない、と申しますか、彼を悪意を持ってあの状況に陥れた人は誰もいないのですよね。なので、ウィリアムとアベルがどんどんヒートアップして激しい歌声で応酬していくさまを、何とカッコいい! と胸を高鳴らせる一方で、2人とももう意固地は止めようよ、誤解だよ、変なプライド捨てようよ、と、苦しみながら過去を旅するフロレンティナと同じようにつらい思いで見守っていました。

フロレンティナと言えば、序盤からずっとストーリーテラーとして出突っ張りで登場していますが、ある時点から物語の中心人物へと転換して重要な役割を果たすという、とても責任重大な役でもあります。このフロレンティナを、ゆうみさんこと咲妃みゆさんが、凜と力強い歌声でぶれることなく好演しています。彼女を観るのは3作品目ぐらいですが、どれも外れなし。信頼度と好感度が上がりつつあります。

あとは前回書けていなかった、ウィリアムとアベルのそれぞれの盟友、マシューとジョージについても書いておきます。

マシューは、1幕前半の卒業祝賀パーティーでウィリアムのそばにいて、シュッとしたビジュアルなのにちょろちょろしている感じが可愛らしかったです。よもや1幕後半であんなつらい展開になるとは……。瀕死のマシューのベッドにウィリアムがそっと潜り込んで、2人きりで語り合う場面では、2人の元々は穏やかだった関係性が滲み出ていて、可愛くて、切なさを覚えました。
ちなみに、銀行のロイドさんが「マシューは多大な損失を出した」と言っていたので、一瞬だけ「もしや、マシューがリッチモンド・ホテルも……?」と疑ったのですが、多分違いますよね、すみません💦

ジョージもずっとアベルを一見軽やかに健気に支えてきて、汚れ仕事も引き受けていると思われますが、なんだかんだでアベルの家族までしっかり支えて見守っているのは、かなりの大人物だと思います。
それにしてもアベルの隣には、オズボーンのようなクズい共犯者(この人、何で上院議員にまでなれたんだろう? 金の力?)がいる一方で、ジョージもいて、更にポジティブでへこたれない伴侶、ザフィアもいて、という状況なのに、ウィリアムには本当にケイトしかいないのです。
今回、ウィリアムが2幕で蛍火にも見える満天の星々に照らされながら、マシューのいる天国への光る階段の幻影を見る場面でそのことを思い知らされて、胸が締め付けられそうな思いでいっぱいになりました。またこの場面、2階席から眺めると、本当ため息が出るほど美しいのです。ありがとう、アベル、相手を認識していないとは言え、ウィリアムを家族の元に帰してくれて!

なお余談ですが、リロイ師匠の泥酔ぶりは初日よりだいぶ自然になっていました! アベルへの遺書、祐一郎リロイの声からして善意に満ちているのに、やっぱりアベルを縛る呪いになってしまっているのは悲しいですね。できればアベルと一緒に彼の魂も救済されていてほしいです。

この作品のチケットは残り1枚となりました。また来週観に行って、それがマイ楽になる予定です。3回目、しっかり見届けてきたいと思います!

 

『ケイン&アベル』初日感想(2025.01.22 18:00開演 東急シアターオーブ)

キャスト:
ウィリアム・ケイン=松下洸平 アベル・ロスノフスキ=松下優也 フロレンティナ=咲妃みゆ ザフィア=知念里奈 ケイト・ブルックス=愛加あゆ ジョージ・ノヴァク=上川一哉 マシュー・レスター=植原卓也 リチャード・ケイン=竹内將人 ヘンリー・オズボーン=今拓哉 アラン・ロイド=益岡徹 デイヴィス・リロイ=山口祐一郎

渋谷の東急シアターオーブにて、世界初演ミュージカル『ケイン&アベル』を観てまいりました。

世界初演の初日なので、なるべくネタバレなしで感想を記します。

開幕一番で引き込まれたのは、やはり音楽です。これでもかとドラマチックに観客の心を掻き立てて煽って、さあ観るぞ! な気分に揚げてくれるのは、さすがワイルドホーンだと感服していました。

曲は全般にメロディが複雑です。歌唱力がある人でないと絶対に歌いこなせないと思われるナンバーが多いと思いました。ワイルドホーンはソロ曲ももちろん良いですが、デュエット曲や合唱曲の響きも綺麗で聴き応えがあるのがうれしいですね。

序盤の展開は結構駆け足でした。ジェットコースターのごとくあれよあれよと言う間に走り去るウィリアムとヴワデク(アベル)の子供時代。そもそも原作未読で臨んでいるので、話の筋を追うだけで精一杯でした。

また、原作未読での印象になりますが、長編の物語。上演時間3時間(休憩含む)に収めるためにかなり細部のエピソードを端折っているのだろうと思われます。例えばアベルの養家の没落の過程で亡くなった義姉と、アベルの娘の名前のつながりなど。

2人とも幼少期が割と孤独で一途に成長していることもあってか、特に1幕前半は、ウィリアムは融通が効かないわ、アベルは上昇志向が強烈だわで、なかなか共感して肩入れできる登場人物がいなくて苦慮しました。

1幕では、ウィリアムとアベルそれぞれに因縁のあるおじさま2人、ミスター・オズボーンとミスター・リロイも登場します。

ミスター・オズボーンは息を吸うように汚いことをして欲望に忠実、金の力でのし上がる人物で、今さんがなかなかはまり役でした。ミスター・リロイも穏やかな紳士に見えて抜け目がなくて、でも本質はやはり善人、というイメージで、これもまた祐一郎さんにはまっていたと思います。

奇しくも2人とも金に翻弄された末に……という顛末を辿るわけですが、ミスター・リロイの方が根っこが善人な分、だいぶ同情できます。

ただ、結局ミスター・リロイ、とんでもなく強力な呪いを残してしまうことになるので、私見では、随分罪深い人だな、とも思うわけです。

あとミスター・リロイ、出番が予想以上に短いので、2幕は本当に何やって過ごしてるんだろう、実は影コーラスに参加しているのだろうか? それともTdV初演の時の阿知波悟美さんのようにまかない料理でも拵えているのだろうか? と、まあ後者は冗談ですが気になっています。

下戸の祐一郎さんの貴重な泥酔独白演技を見せてくれる役でもありますので、次回はそのあたりがどう進化・深化しているか楽しみだったりもします。

1幕がアベルの復讐心に火が点くまでの展開ならば、2幕は復讐に突っ走り、やられたらやり返す的な展開です。

そんな男たちのマネーゲームの中で、この物語では女性陣の強さがかなり際だっていました。夫や父親に精神的に依存しないこと、そして教育を受けて自分の力で稼いで食べられることって本当大事ですね……。

そして主人公2人ともキャラが強すぎて共感できなかった、と書きましたけれど、実は2幕終わり近くになるとそうでもありませんでした。どちらかというとバカな子たちほど可愛いと申しましょうか。

ちなみにオチとしては「ごん、おまえだったのか(号泣)」というものでしたが、1幕終わり辺りで観客にはモロバレしているので、そこはあまり泣けず……。「いやー、他人のための復讐って本当に虚しいですねー。呪いとプライドって本当に怖いですねー」という冷静な気持ちしか浮かんでこなかった自分が悲しかったです。

全体に確かに大作ではあり、洸平くんも優也くんもはまり役、それぞれに歌声にもとても魅力があって、遺憾なく実力を発揮してはいるのですが、演出や脚本を見ますと、今はまだ一本の作品として仕上げることが最優先になっていて、まだあらゆる役者さんが存分に輝けるようには育っていない印象です。

あと祐一郎さん、今さん、益岡さんと言った、せっかくのベテラン男性陣を上手く活かせていない気がしました。

例えば祐一郎さんはセンターに立たせるだけではなく、M!の猊下のようにうまく脇で使うといい感じで光る筈なのですが、今のところはアベルを導く人、という役割分担の方が重視されていて、スポットの当て方が中途半端だなあ、という歯がゆさがあるのは否めません。

作品としてこれからもっとブラッシュアップして育つ余地があるに違いないと期待していますが、さて、オーブでの1か月弱の公演期間でどこまで育ってくれるでしょうか?

未消化な感想で申し訳ありませんが、また次の観劇が迫っていますので、今回書ききれなかったことは次回以降追々書き記したいと思います。

『天保十二年のシェイクスピア』感想(2024.12.21 12:30開演 日生劇場)

キャスト:
佐渡の三世次=浦井健治 きじるしの王次=大貫勇輔 お光/おさち=唯月ふうか 鰤の十兵衛=中村梅雀 お文=瀬奈じゅん お里=土井ケイト よだれ牛の紋太/蝮の九郎治/飯岡の助五郎=阿部裕 小見川の花平/笹川の繁蔵=玉置孝匡 尾瀬の幕兵衛=章平 佐吉=猪野広樹 お冬=綾凰華 浮舟太夫=福田えり 清滝の老婆/飯炊きのおこま婆=梅沢昌代 隊長=木場勝己

2020年以来2年10ヶ月ぶり(前口上の木場さんの台詞より)に日生劇場で上演されている『天保十二年のシェイクスピア』を観てまいりました。

前回公演が日生劇場の公演期間途中にコロナ禍で打ち切りになったのは記憶に新しいです。打ち切り前に運良く観ることができていました。

この演目は、台詞一行のみのものも含めて何らかの形でシェイクスピアの全作品(37作(諸説あり))のパロディになっているという触れ込みです。それは揺るぎない事実なのですが、知見のなさゆえに10作ぐらいしかわからず……。シェイクスピアと井上先生に申し訳ないです。

物語は、豊かな言葉の魔術に彩られ、笑いも華もたっぷり散りばめられているものの、総体では大変血なまぐさくて陰惨でダークな展開です。しかし、そんな物語を、宮川彬良さん作曲の明朗なメロディーが救っています。不思議なことに、あのメロディーでどんな人生もまるごと肯定してくれているように聞こえるのです。

キャストについては、2020年には王次だった浦井くんが今回は三世次に役替わり。また、お文は樹里咲穂さんから瀬奈じゅんさんに、鰤の十兵衛は亡くなられた辻萬長さんから中村梅雀さんに交替しています。お冬と浮舟太夫は前回は同じ役者さん(熊谷彩春さん)が演じていましたが、今回はそれぞれ別の役者さんが担当しています。

高橋一生さんの三世次が前回めちゃめちゃ良すぎたので、さて、浦井くんはどうかな? と気がかりでしたが、浦井三世次が登場した瞬間のワル全開の声を聴いてそんな心配は吹っ飛びました。大変にどす黒くて、口八丁で涼しい顔で直接手を下すことなく邪魔者を始末し、次々に欲しいものを手に入れていくトリックスター。歌は言うまでもないことながら、地の台詞の滑舌も素晴らしく(1か所だけ噛んでいたかも?)、黒さだけでなく、並いる親分たちの信用を得られるような説得力も醸し出している三世次。あえて欲を言えばもう少しだけ色気が欲しいところですが、これ、間違いなく浦井くんは役者冥利に尽きるであろう役どころであり、彼のエポックメーキングな事績の一つにもなるだろうと思っています。

少しネタバレになりますが、三世次は良心などという生きるために邪魔なものはどこかに置いてきたような生き方をしている一方で、根本的に変えられない現実の直視を避けてきた一面があり、結局は心にひとかけら残った人間性と言うか誰かを本気で愛する気持ち、そして愛されたい願望が命取りになった人だと思っています。

また、清滝の魔女、もとい老婆の予言の言葉が実はダブルミーニングであったことに三世次が気づいてしまう瞬間、胸が締めつけられました。言葉を最強の凶器として使いこなしてきたのに、自分が一番欲しかった言葉は誰からも得られないどころか、他者の命を奪ってきたつもりが実際は……というつらい現実が一斉に刃として襲いかかってくるのは、何と残酷なことよ、と。

ところでこれを書きながら、あの三世次の「わからないことがわからないということがわからない」云々に似た台詞を最近どこかで耳にしたような? ともやもやしていましたが、それって『モーツァルト!』のプラター公園の場でヴォルフがコンスタンツェに早口でだーっとまくし立てるあれじゃん! と気づいてしまいました。良かったねヴォルフ、一時的でもコンスタンツェと心が通じ合えて。

今回の新規キャストの中では、なんと言っても大貫さんの王次が鮮やかな印象を残しました。大貫さんの得意分野を活かしたのか、随分とダンサブルで、しかも登場した瞬間から匂い立つような色気全開。唯月お光とも息が合っていて 「この王次、退場させるの惜しい!」と思いました。

梅雀さんの十兵衛は、辻十兵衛には一応あった威厳がほぼ取っ払われ、末の養い子が可愛くてたまらないのに見栄っ張りが原因で望まない結果を導いてしまう、ただの等身大の情けない老人でした(ほめてます)。しかし口跡は実に美しく麗しいというギャップがたまりません。

あと瀬奈さんのお文は、気っ風が良くてあだでお洒落な感じで、大貫王次との親子感がかなり強かったです。お文とお里、とんでもない強欲姉妹ではありますが、所詮は息子や愛人のために戦っていただけだと思うとこれもまた切ないですね。

続投キャストでは、狂言回しの木場さん、老婆の梅沢さんがやはり芝居全体の芯をしっかり支えている感じで良かったです。前回よりも目が惹きつけられたのは、章平さんの幕兵衛でしょうか。根っからの悪党ではないのに惚れた女に尽くすために悪の道を歩みますが、悪党ではなかったために最期は……の用心棒。彼もまた、大貫王次とは違うタイプの渋い色気が漂っていていい感じでした。

そしてお光・おさちの唯月さん。流転の人生を歩み、どす黒いヘドロ沼に堕ちても、片方が肉体を失っても「二人でひとつ」として生き続けて最期まで凜と輝き続けた女性を、澄んだ歌声をもって、前回以上に見事に演じきっていたと思います。

なお、今回の公演はe+貸切公演でしたので、カーテンコールでは浦井くんからのご挨拶がありました。木場さんからお手紙をいただいたというお話で、途中で浦井くんの語りがふわっとしてしまったので自信がありませんが、確か、「わからないことがわからないということがわからない」云々の台詞を稽古場でちゃらっと語っていたのに対し、三世次はもっと考えて悩んでいるよ、という助言を受けたという内容だった、と思います。(せっかく素敵なことを言うのなら、もう少し落ち着いて話しましょう😅)

最後に蛇足ながら、2幕クライマックスで死者たちが勢揃いしているたくさんの扉。あれがどうしても『エリザベート』の「悪夢」に見えてしまうのですが、もしかしたらそう見えるのは自分だけ、でしょうか……。

聞くところによればこの演目、特割チケットが出てしまっているようです。まあ、クリスマスや年末ムードにこういう陰惨なストーリーかつ上演時間が比較的長い(3時間35分)が向いているかと言われるとあれではありますが、とにかく脚本も演出も役者さんもハイレベルで面白いことだけは確かなので、迷っている人はこの機会にぜひ観ていただきたいです。

 

『CLUB SEVEN another place』(B VERSION)感想(2024.10.06 13:00開演)

キャスト:
玉野和紀 吉野圭吾 東山義久 西村直人 林翔太 大山真志 鈴木凌平 北翔海莉 留依まきせ

有楽町の帝劇……ではなく、ビックカメラ7階にある有楽町よみうりホールにて、『CLUB SEVEN another place』を観てまいりました。

CLUB SEVEN、本当は毎年観たいのですが、今回でようやく通算3回目、3年ぶりの参戦が叶いました。

今回、上演時間が割と長いです。標準は1幕が1時間50分、休憩が20分、2幕が1時間15分、計3時間25分のようですが、途中でアドリブが入りまくるので、今回はなんと3時間40分にも及びました。

しかし、中身は芸達者なキャスト9名の全身全霊の歌、ダンス、そして笑いがてんこ盛りで、全く長丁場を感じさせない、観客を楽しませる仕上がりになっています。そして、キャストも、心身を酷使しながらも板の上で楽しんでいる雰囲気が伝わってくるのが良いのです。毎回思うのですが、玉野さんの身体の張り方が尋常ではありません。激しいタップダンスからスフィンクスまで、と書くと未見の方には何がなにやらかも知れませんが。

1幕は、歌とダンスのレビューや、どこかの映画やミュージカルで見かけたようなシチュエーションでのコントや、ミュージカル大喜利トーナメントなどのスケッチが、これでもかと展開されていました。某S社所属のキャストの方がオネエ役でいじられてゴムパッチンなどされてましたが、いいんでしょうかあれは😂

また、毎度おなじみの玉子とニャンコのコーナーでの観客いじりで、某北関東の県から毎回観に来ている女子小学生の方がいらしていましたが、2幕で主に吉野さんがかましていた下ネタは大丈夫だったんだろうか、といらぬ心配をしています。

ミュージカル大喜利トーナメントは、ちょっと『エドウィン・ドルードの謎』を彷彿とさせるシチュエーションでしたが、あれよりだいぶ小規模でばかばかしいです😂 ノリとしては昭和の歌謡バラエティ番組に近いかも? 毎日あれをやるキャストの皆様は本当大変だと思いますが、観客としては頭を使わずにただ笑いに身を委ねて観られるのは本当ありがたいです。終演後のハイボールが楽しみで公演中隙を見て冷蔵庫を開けてチェックする、などの楽屋落ちネタも多少ありますが、あくまで楽屋落ちであって内輪受けではないので無問題。

お笑いだけではなく、「風に立つライオン」のようにかなりシリアスな題材のスケッチもあり、歌もドラマもしっとりと見せて聴かせてくれるのが良いですね。ここのスケッチは私が見ていないA VERSIONでも「さだまさし系」だそうです(パンフレットのキャスト座談会より)。

1幕終了後、20分の休憩を挟んで2幕がスタート。

五十音順メドレーはだいぶ見慣れた今でも、あれを1時間以上ぶっ通しでやることに感服しています。特に北翔海莉さん。この体力勝負なショーを毎日2回公演やりたい、と仰ってましたが体力どれだけあるのでしょうか!?

内容はJ-POPあり、アイドルソングあり(嵐メドレーも!)、演歌あり、懐メロから最近の曲(新しい学校のリーダーズなど)、歌もダンスもそして笑いもしっかり魅せてくれて大満足。あっという間のようでしたが結局前述のとおり20分ほど押して終了となりました。

いつもだいたいCLUB SEVENは1公演1ver.しか観ないので、たまに別ver.も観たい、と思う時もあります。ただ結構長丁場なので体力的に躊躇するものが……。北翔さんの体力を見習わねば、ですね!