日々記 観劇別館

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『ヘアスプレー』名古屋大千穐楽感想(その1)(2022.11.20 12:00開演)

キャスト:
トレイシー・ターンブラッド=渡辺直美 “モーターマウス”メイベル=エリアンナ リンク・ラーキン=三浦宏規 シーウィード・J・スタッブス=平間壮一 ペニー・ルー・ピングルトン=清水くるみ アンバー・フォン・タッセル=田村芽実 コーニー・コリンズ=上口耕平 ウィルバー・ターンブラッド=石川禅 ヴェルマ・フォン・タッセル=瀬奈じゅん エドナ・ターンブラッド=山口祐一郎


東京初日開幕延期、続く大阪梅田芸術劇場(梅芸)公演の中断を経ての千穐楽中止で多くの方が涙をのんだ『ヘアスプレー』。名古屋御園座での公演はどうなるかと危ぶまれましたが、一日の中断もなく無事大千穐楽を迎え、そして現地で該当公演を観ることができました。

公演の感想を書くと同時に「私の中のヘアスプレー」が終わってしまうような気がしてもったいなくてたまりませんが、逆に書かないといつまでもけじめがつきませんので、書くことにします。

御園座の座席はいわゆる桟敷席、1階のボックス席から観ていました。『ヘアスプレー』には2幕半ばに周りを囲ってセンターのみで演技をする場面がありますが、その場面の見え方もややぎりぎりとはいえほぼ支障なく、とても見やすいお席でした。ありがとう、チケを確保してくれた友人!

劇場に入り、席に着いても、コロナ禍で半端に訓練されてしまったが故に、無事開演するのか? いや、開演しても無事最後まで幕を通せるのか? という不安が拭えず。少しでも気持ちを前向きに切り替えることを心がけていました。

無事に開演し、1幕冒頭のトレイシーのソロ「グッドモーニング・ボルティモア」から物語開始。ここ、ブリリアホールではセンター席だったにも関わらず歌声も歌詞も聞き取りづらかったのですが、今回はどちらも普通に良く聞こえたので、ブリリアの音響どれだけ……という気持ちになりました。

直美トレイシー、小生意気さもポジティブさも、大好きなテレビにペニーと一緒にかじりつくさまもやはり愛らしいです。

そして祐一郎エドナ! くどいようですが、あれだけ上背のある人が横幅もビッグサイズになってワンピース姿で甲高い声でしゃべっても、全くグロくないどころか、かわいくて綺麗なのはどういうことかと思います。エドナの内面の美しさや家族への愛の強さもしっかり打ち出していて、改めて新境地、素晴らしかったです。

エドナとトレイシーの愛を一身に受ける禅ウィルバーも、最初から一貫して「娘にはやりたいことをやらせたい」という強い思いが伝わってきて素敵なパパでした。ウィルバーは恐らく自分の望み通りの人生は100%は達成できていなくて、でも今の幸せをとても大切にする、懐の深いパパ。多分トレイシーのポジティブさはこの人から受け継いだのでしょう。

このターンブラッド家の皆さんについては、あまりにも3人とも呼吸が絶妙、はまり役すぎて、自身の中で今回のキャスト以外に考えられなくなってしまっています。特にエドナママ。見た目や歌唱力だけで見れば他にも演じられる人はいるかも知れませんが、上っ面だけの見せ方では通用しない役だと思うのです。

コリンズショーのプロデューサー、ヴェルマ。前回あまり耳に入っていませんでしたが、彼女が繰り返し誇らしげに口にしている「元ミス・ボルティモア・蟹」、なんと微妙な肩書き。そもそも何で蟹なの? と思ったら、蟹は港町ボルティモアの名産品らしく、なるほど「水戸梅むすめ」みたいなものか! と一旦理解しましたが、その後パンフレットを見たところ、座談会で瀬奈さんがエリアンナさんから聞いた話として、クラブ(蟹)には「意地悪」「毛じらみ」「体を使ってのしあがってきた人」という意味がある(ヴェルマという人物を象徴した言葉である)と発言されていて、大いに納得しました。

ヴェルマとアンバーの母子、エドナとトレイシーのほんわか母子と良い合わせ鏡になっていて、やっていることは実にえげつないわ大人げないわで、大変憎たらしい筈なのに、何でか憎めないのです。瀬奈ヴェルマが自らの生き方に一個も後ろ暗さを抱いていないからでしょうか。

また、トレイシー、ペニー、アンバーの母子模様を三組三様で描いた曲「もう子供じゃない」を聞くと、自分のことはあんなにわかりきっているヴェルマが、自分の娘に彼女の本質や能力以上の期待を背負わせようとしているので、そこはやはり、エドナやブルーディー(ペニーのママ)と同じ母親のうちのひとりなのだな、と思わずにいられませんでした。

これ以上登場人物のキャラについて語ると止まらないのでこれぐらいにしておきます。

とにかく『ヘアスプレー』という作品はノンストップで楽しませてくれるのですが、1幕終盤の梅芸で上演中止になったと聞いていた箇所(メイベルのパーティーにヴェルマ親子が押しかけてくる場面)を無事通過するまではやはり気持ちがどこか落ち着かずにいました。

ターンブラッド家とメイベルたち一派が捕らえられて1幕が終了した瞬間「大きい関門を1つ越えた」と思わずほっとしましたが、よく考えると本来は次の幕で全員監獄にぶち込まれ、更にトレイシーが過酷な目に遭うので、ここで安心するのは何か違うような……😅

長くなってしまったので、ここで一旦区切ります。続きは次の記事にて。