日々記 観劇別館

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『ジャージー・ボーイズ』感想(2022.10.22 13:00開演)

キャスト:
フランキー・ヴァリ中川晃教 トミー・デヴィート=藤岡正明 ボブ・ゴーディオ=東啓介 ニック・マッシ=大山真志 ボブ・クルー=加藤潤一 ジップ・デカルロ=山路和弘 ノーム・ワックスマン=戸井勝海

日生劇場で上演中の『ジャージー・ボーイズ』(チームBLACK)を観に行ってきました。

実はこの作品、一昨年に配信でコンサート・バージョンは観ましたが、フルバージョンで鑑賞するのは今回が初めてです。初演、再演はチケ取りに敗れ、以降も「劇場が自宅から遠すぎて断念」「やっとチケットが取れたと思ったらコロナ禍で公演自体が消滅」などにより、四度目の正直ぐらいでようやくご縁ができました。

さて、フルバージョンで『ジャージー・ボーイズ』(以下、JB)を初鑑賞した感想を一言で申しますと「ほろ苦い」です。フィクションだと「フォー・シーズンズ」のオリジナル・メンバー4人の人生がもう少し美化されたり必要以上に悲劇的に描かれたりすると思いますが、実話ベースな分、
「勤勉だろうがごくつぶしだろうが、輝きを持とうが持つまいが、人はそれぞれが平等に傷や想いを抱えたまま生きて、それぞれの人生を全うするのだ」
という感じで、まあ現実世界ではこうなるよね、と自分なりに納得しています。

いや、恐らくJBにおける彼らも現実の彼らより美化されているのだろうとは思いますが。ただ、メンバーの大半が街のチンピラから成り上がり、綺麗事ではないむき出しの心でぶつかり合って生きてきたのに、終盤の再集結ではお互いに近況を、年齢を重ねて大人の対応で語り合っているのを見て、何とも心がほろ苦さでいっぱいになってしまったのは確かです。

そんなほろ苦くも人生の痛みに満ちた物語を客席で見守る最中に響き渡る、綺麗な歌声と美しいメロディーにしばしば魂を救われていました。特に中川フランキーのまさに「音楽の天使」と呼ぶにふさわしいファルセット。低音を支える大山ニックと藤岡トミー、高音を担う東ボブとのハーモニーが絶妙なのです。

物語が進むにつれてメンバーの人間関係や音楽活動が徐々に不協和音を発し始めているのに、奏でられるハーモニーはどんどん素晴らしくなり、「待ってました!」という感じで耳に染み入るのが何とも皮肉に思われました。

なおJBのメイン4人の関係性について、最初は何となく、
 何かを“持っている”人=フランキーとボブ
 何かを“持っていない”人=トミーとニック
という2対2の関係だと考えていましたがさにあらず、トミーとニックだって、それぞれ「人を見る目」と「人を育てる力」を“持っている”人なのですよね。
他方で飛び抜けた音楽の才を”持っている”2人も、フランキーは音楽に没頭すると家族や恋人が見えなくなってしまうし、ボブは未来を見通す目はあっても目の前の仲間たちの歪みに気づく視点は持っていなかった。
そういう意味では4人に大した違いはない筈、なのですが、そんな中でフランキーがわだかまりを抱いていた相手でもあるトミーの肩代わりをする決意をしたのは、最後の友情(と言うか義理人情)だったのでしょうか。それとも輝きを持つ者としての一種のノブレス・オブリージュだったのでしょうか。

そうした4人の人生に交錯する女性たち(綿引さやかさん、小此木麻里さんら)も好演しており、また、ベテラン山路さん、戸井さんが、フランキーやトミーと関わりの深い地元マフィアのボス、4人の運命を左右することになる高利貸しをそれぞれいぶし銀な存在感で務めて、舞台を引き締めていました。

なお当日はe+の貸切公演だったため、カーテンコールでキャスト一同からのご挨拶がありました。最後に4人でe+の歌を合唱するという、大変に美味しいご挨拶でした。

最後に。日生劇場、多分2年以上行っていなかったと思いますが、劇場空間(客席もロビーも)、音響から、幕間のトイレ行列の捌きまで含めて、やっぱり大好きな劇場です。先日、帝劇の一時閉館と建て替えの発表がありましたが、日生劇場も結構古い建物だった筈なので、気になっています。まだしばらくは今の日生のままでいてもらいたい、というのはわがままかも知れませんが、あの独特な雰囲気は末永く保っていただきたいものです。