日々記 観劇別館

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『笑う男』帝劇千穐楽感想(2022.02.19 12:00開演)

キャスト:
ウィンプレン=浦井健治 デア=熊谷彩春 ジョシアナ公爵=大塚千弘 デヴィット・ディリー・ムーア卿=吉野圭吾 フェドロ=石川禅 ウルシュス=山口祐一郎 リトル・グウィンプレン=ポピエルマレック健太朗

前回の『笑う男』観劇から一週間。その間に、公演関係者の新型コロナウイルス感染による公演中止後に再開していた日生劇場の『ラ・マンチャの男』が再び公演中止になったとの報も入り、帝劇楽公演の上演についても不安を覚えながら当日を迎えましたが、無事公演が実施され、観ることができました。

帝劇玄関前には今回も「千穐楽」や「満員御礼」の看板の設置はなし。2階席D列上手に座りましたが、隣の席が空いていたほか、同じブロックの2列前辺りにも空席がありました。

デア、リトルグウィンプレンともに12日昼と同じキャストでした。ウルシュス一座の「男女」さんが、確か前回は休演されていましたので唯一の初見キャストです。

帝劇楽公演では、全体を通して浦井グウィンプレンが熱量たっぷり! だったと思います。

純粋で熱く、ひと時であっても真摯に「自分にも未来が変えられるかも知れない」と願ったグウィンプレン。そんな彼が、義父や恋人との本当の愛と幸せはすぐ近くにあった、と気づいたのに、恋人を失った時にどうしてあのような結末を選んでしまったのかは、何度見てもなかなか理解はできません。恋人だけが彼をこの世界に糸で繋ぎ止めていたのだろう、と理解しようとすることはできますが、どうもやはりウルシュスの気持ちになって見てしまうのです。

そんなウルシュスは、今回も1幕の一座の公演で、本日も無事に幕が開きました〜! と高らかに宣言していました。その後の客席への拍手煽りは、いつもよりも回数が多かったように思います。

ウルシュスの、グウィンプレンと出会った夜の、この世界に対する激しい怒りと子供たちへの思いから始まる、「幸せになる権利」に込められた子供たちを守ろうとする一途な心。グウィンプレンの死(偽装)を知らされた時の世界の理不尽への憤り。そして「脆い心」でのデアの苦しみを代わりに我が身へ、という恐らくは生まれて初めての心からの神への祈り。物語自体には飛躍や分かりづらい所も多いですが、この演目でのウルシュスの心の変化と情の深さは、しっかりと心に焼き付けられました。

また、今回ラストのウルシュスに改めて注目したところ、あちらの世界で幸福そうに手を取り合う養い子たちの幻影を見て、きっと彼らは幸せに違いない、これで良かったのだ、と自らに強く言い聞かせているように見えました。

あと、一座の仲間たちのウルシュスへの信頼、デアやグウィンプレンに対する情愛も、再演で心に響いたものの一つです。ヴィーナスほか女性陣、トカゲ男さん……。できれば、ラストシーンのその後もウルシュス座長を支えてほしいです。

それから、前回の感想に書けていませんでしたが、前回も今回も素晴らしいと思ったのは吉野デヴィットの剣戟立ち回りです。少し昔の『三銃士』の時の吉野さんの負傷と地方公演の休演がしばらくトラウマになっていたので、殺陣があるとそれを思い出さなくもないのですが、吉野さんの立ち回りは剣さばきも足さばきも美しくて見惚れるものがあります。

なお今回、初演に比べると随分と物語が分かりやすくなったと思っていたのですが、それでもよく分からなかった所や、見落としていたものがありました。

例えば、私、今回観るまで、2幕のデヴィットの罪の告白の場面で、下手側の上方でジョシアナが立ち聞きしているのを見落としていまして、「何でこの人、デヴィットがしたことを知ってるの?」と謎に思っていました。前回は前方席だったとは言え、あんなに見やすさに配慮された舞台装置なのに、本当恥ずかしい……。

ついに分からなかったのは「フェドロの罪」でしょうか。私は前回書いた通り、彼がグウィンプレンを取り戻して自分の思い通りにしようとしたこと、そのためにウルシュスたちを欺いたことが諸悪の根源と思っているので、そのことが「罪」のようにも考えていますが、真相は藪の中、です。あ、でも、グウィンプレンに貴族院での振る舞いやしきたりを事前に教えておかなかったのは、罪かも……。

 

カーテンコールでは、吉野さん、禅さん、千弘さん、祐一郎さん、浦井くんの順番でご挨拶をされていました。

吉野さんのご挨拶は感謝の心がたっぷり込められながらもとても短くて、え? それだけ? と禅さんに突っ込まれていました。

禅さんは、お芝居には想像力と創造力の2つが必要である、と語られた後、気管に何か詰まって台詞がきちんと言えなかった、とお詫びされていましたが、私はどこでそれが発生したか気づかず。後でTwitterでフォロワーさんに伺った所、2幕冒頭のクランチャリー卿邸での出来事であったようです。

千弘さんが、中止された公演を観る予定にしていたお客様のことを思うと心が痛む、と涙ぐんだ時、隣にいた祐一郎さんがふと懐のハンカチを探すような仕草をして笑わせていました。更に、
「再開した公演が千穐楽を迎えたのは、感染症対策に協力いただいたお客様、手があかぎれになるほど消毒するなどして自分たちを守ってくれたスタッフやオーケストラの皆様のおかげです。完走に向けて応援してもらえると、そしてまだ他に悔しい思いをしている皆のエンターテインメントを応援してもらえると嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!」
と涙声でのご挨拶を終えた千弘さんを祐一郎さんがスッとハグしていました。うん、あの場でそれができる立場にあるのは祐一郎さん、貴方だけです。

祐一郎さんのご挨拶は、
「おじいちゃんはこんな子供や孫たちに囲まれて本当に幸せでした。もう思い残すことはございません。ありがとうございました」
とごく簡潔なものでした。

そして浦井くんのご挨拶。さすがに覚えられなかったので、YouTube「TohoChannel」の動画で確認しました。

ミュージカル『笑う男 The Eternal Love-永遠の愛-』2月19日(土)昼の部 千穐楽カーテンコール映像 - YouTube

「この舞台上というのは過去も今も未来も不思議と繋がっていくものだと最近感じます。もうこの世界にいなくなってしまった方も、つい最近までこの板の上で笑ったりとか切磋琢磨していたメンバーもいます」
これ、もちろん、過去に帝劇の舞台に立たれた全ての方のことを指しているのだろうとは思われますが、つい半年前まで帝劇の板の上に共に立っていた沙也加さんを念頭に置いた一言のようにも思いました。また、
「そういう人たちとの時間というのもお客様と一緒に共有させていただく、そしてそれをエンターテインメントという力でお客様が明日も頑張ろうと思っていただく。たくさんの人たちの思いが板の上に乗ってこの舞台に立たせていただいているんだな、と思います」
とも話されていました。

舞台に立つことの重みを受け止めて、受け容れて、日々生きているであろう浦井くんの思いに、何も付け加えることはございません。立派な役者さんになられたのだと、改めて感じ入っております。

『笑う男』、地方公演も控えていますが、今回はこのような時勢でもあり、遠征する予定はないため、本当にこの帝劇楽が見納めとなります。カンパニーの皆様のご無事と、来月の大阪公演、福岡公演が予定通り開幕し、無事博多座千穐楽を迎えられることを、ひたすらお祈りいたします。